第205話
「孵化はまぁ別にいいけど、なんでここにインセクトクイーン……たぶん、ティターニアの卵だと思うんだけど、あるんだ? 討伐されたはずじゃ……」
『女王様は死んでいない!』
クイーンビーに話しかけたのに凄い形相で蟷螂のモンスターが答える。
その鋭い鎌を向けないでほしいな。
『人の子よ、女王様は新たな体になって生まれ変わる……スキルをお持ちなのですよ』
「そんなスキルがあるんだ……」
そのスキルのおかげで卵になったんだな。それでもシステム上は討伐扱いなんだな。ようわからん。
『女王様の加護が消えていないのがその証拠』
ステータスを見ると【女皇蟲の加護】は健在だった。
『女王様を孵化させるには眷族様を全て孵化させないといけない。彼らは女王様と共に戦い敗れ、女王様の恩恵で彼らも卵になったのです』
「そんなことが……分かった、任せてくれ」
集まっていた虫のモンスターたちは俺に頭を下げ、一体ずつ去っていき、俺だけ残された。
「じゃあ一旦拠点に……あれ? インベントリにしまえない?」
卵に手を翳してインベントリにしまおうと試みるも出来ない。
ここから運べないのか。これは予想外だ。
孵化装置を運んでこないといけないのか。
颯音に持って来てもらうか。俺は颯音にメッセージを送った。
直ぐに返事が来て持って来てもらえることになった。
「お待たせっと。なにこの場所……」
しばらく待っていると俺の近くに転移した颯音は樹海エリアでは見たことない光景に驚いている。
「ここって秘境的な感じ?」
「まぁそんな感じ。颯音、ここに孵化装置を置いてくれ」
「はいよ。……あのさ、フィールドだから孵化装置置けないって表示されるんだけど」
「ええ……マジで? 困ったな……」
これじゃ孵化装置を使っての孵化が出来ない。てことは、条件を揃えて孵化させるしかないかけど、条件が分からない。
こういうときはヘルプ機能だ。
ポチっとヘルプ機能を押すと上空から球体の機械が飛んでくる。
「樹海エリア担当カルと申します。以後、お見知りおきを」
「よろしく。それじゃ早速なんだけど、こいつらの孵化条件ってわかる?」
俺の後ろにある五つの卵を見せると、カルは観察し始める。
「なんとなく察していたけど、春名……まだ仲間を増やす気なの?」
颯音が若干呆れながら聞いてくる。
「ちげぇよ。頼まれたんだよ、この卵を孵化してくれって」
「誰に?」
「このエリアの虫系モンスターたちに」
「は? 本気で言ってる?」
「嘘つく意味ないじゃんかよ」
そんな話をしているとカルがこっちに来る。
「なんかわかった?」
「申し訳ございません、条件はさっぱりわかりません」
「そうか。まぁ仕方ないよな。ありがとな」
ヘルプ機能でも分からないと自力で見つけるしかないか。
「一つ提案があります。鑑定士を探すことをお勧めします」
「鑑定士?」
「名前の通りで、隠されたステータスや条件などを暴くことが出来る希少なジョブです。全プレイヤーで一割に満たないですが……」
「そんなに少ないんだ……ありがとう、探してみるよ」
「それでは」
カルは飛び去っていく。
「鑑定士か~知り合いにはいないよね」
「一応みんなにメッセージを送ってみるよ」
「希望薄そうだな」
「まぁあんま期待はしないけど」
俺はコガネたち全員を呼び出した。
「みんな、一体ずつ順番であの卵を触ってくれ」
コガネたちは順番に卵に触れるけどなにも起きない。
『じっ……』
クロガネだけ何か言いたげに俺のことをずっと見ている。何が言いたいのかわかるけども。
「春名、コガネたちになにさせてんの?」
「ここに色んな属性のモンスターがいるんだろう? 条件に属性があるかもなって思ってな」
「あーなるほど。で、クロガネはなんで春名を凝視してんだよ?」
クロガネに視線を向けると器用に足を使って座れとジェスチャーする。
俺はクロガネの前で正座をする。
「クロガネ、俺が出来る範囲でお願いします」
クロガネは無言で近づいてくる。なんか怖いんだけど……!
目を瞑っているとクロガネが膝の上に乗っかってくる。
『……今度、火山エリアに連れてって』
「え、それだけ?」
予想外なお願いに俺は拍子抜けした。
『なによ……悪い?』
「悪くはないけど……それぐらいなら言ってくれれば行くけど」
『うっさい!』
「痛っ!?」
クロガネは思いっ切り俺の太もも挟んでから卵の方に歩いて行く。
「少しは手加減してくれよクロガネ!」
クロガネは止まってこっち一瞬見るけど、直ぐに前を向く。
俺は長いため息を吐いた。