第203話
オピオさんと世間話をしていると大量に本を抱えてウィルが戻ってくる。
「随分と持って来たのう。一日では読めぬだろうから、貸出しておるがするかの?」
「貸出してるんだ。それなら、もうちょっと借りていけば?」
「そうします!」
ウィルは持ってきた本をカウンターに置き、本棚に戻っていった。
オピオさんから紙を渡され、自分の名前を記入する。
「貸出期間ってどれくらいなんですか?」
「いつでもいいぞ。儂も暇だからのう」
そんな話をしているとまた沢山の本を抱えてウィルが戻ってくる。
「かなりの量だな」
俺はウィルが持ってきた本を全てインベントリにしまった。
「もう行くのかのう?」
「そうします。まだ、街の案内残っているんで」
「そうか。またくるのじゃぞ」
「本を返しにまた来ますよ?」
「それ以外にもっていうことじゃ」
「時間が合えばまた来ますよ」
「僕もきます!」
「楽しみにしておるぞ」
オピオさんの店を後にして上層に向かった。
上層はとても広い公園で休むところも多く憩いの場になっている。
「気持ちいいですね」
「そうだな。一応これで案内は終わったかな。まだ先だと思うけど、他のエリアにも案内するよ」
「この街以外にもあるんですね。いつか行ってみたいなぁ」
俺とウィルはベンチに腰かけ少し日向ぼっこをした。
「そろそろ拠点に帰るか」
「はい、借りた本も読みたいので帰りましょう。今日は案内ありがとうございました、ハルナさん」
「よし、じゃあ帰りは空から行こうか。アカガネ」
俺はアカガネを呼び出した。
『呼んだ?』
「おう。クモガネと一緒に【共鳴】してくれ」
『あ、クモガネ! 戻ってこないと思っていたらなにしてんの?』
『街の観光』
『ふーん……』
アカガネは水色の球体を見つめる。
『まぁいいけど』
そう言ってアカガネも黒い球体と一体になる。
二個の球体は混ざり合い、赤と白の翅を展開した。
ウィルを背負い浮かび上がる。
「しっかり掴まっていろよ」
「はい!」
俺は一気に上昇して、拠点がある方に向かって飛び去った。
「ハルナさん! 下!」
ウィルに言われて下に視線を向けると海面から沢山の水柱が上がる。
止まって観察してみるとクジラみたいなモンスターが沢山あっちこっちで潮を吹いていた。
上から見てざっと五体はいる。その中でも一番大きのが一体、それよりも小さいのが四体の群れ。
一番大きいのはアストロブルーホエール。小さい方がブルーホエール。うん、クジラだな。
「ハルナさん、あれはなんですか?」
「ホエールっていうモンスターだな。近寄って見てみるか?」
「え、危なくないんですか?」
「平気だと思うけど」
少しずつ降下していく。
上空から見ていたから気付かなかったけど、めちゃくちゃデカいな。リアルのクジラよりも大きい気がする。
「結構大きいんですね」
「あそこまでデカいのは俺も見たことない」
「そうなんですか?」
俺はアストロブルーホエールを指差す。
「ああ。多分だけどあいつホエール系列で上の方に位置する奴なんじゃないかって思ってる」
「なるほど」
しばらく見ていると俺たちに向かって水が飛んでくるが普通に躱す。
すると、クジラたちが一斉に鳴きだした。
『どっか行けって』
クモガネが通訳してくれた。
俺は水に当たらないように上昇していく。一定の高さまでくると水は飛んでこなくなった。
アストロブルーホエールを一瞥してから移動。特にモンスターに遭遇することなく無事に拠点に戻ってこれた。
クモガネとアカガネを戻してから拠点に入り、リビングのテーブルの上にインベントリにしまってある大量の本を置く。ふと時計を見ると昼手前だった。
「ウィル。一旦落ちるけど、すぐ戻ってくるよ」
「僕のことは気にしないでくださいハルナさん。リアルの方を優先してくださいね?」
心配そうに言うウィル。
ウィルにそんなことを言われるのは予想外だな。
「……わかった。それじゃ後でな」
「はい、お気を付けて」
ウィルの頭を撫でてからログアウトした。
昼飯を作っているとスマホが鳴る。颯音から電話だ。
「もしも……」
『ごめん春名! 今起きた!』
耳元で大声で話されスマホを遠ざけた。
『もう……終わっちゃった?』
「おう、終わったぞ、無事にウィルの冒険者カード発行できた」
『良かった……』
「あ、颯音。この後ログインする予定か?」
『昼飯食べてからやるつもり』
「明日用に色々と買出しに行くからさ、ウィルの様子みててくれない? いらないと思うけど」
『買出しに行くなら手伝おうか?』
「平気だ」
『了解ーじゃああとで』
通話を終わらせて、昼飯を食ってから着替えて買出しに向かった。