第202話
「それ……どうしたんですか?」
「プレイヤーの方が忘れていったものなんです。取りに来るのかと思って残していたのですが、市販されている物だったらしく取りに来なかった忘れ物です。これをハルナ様がつければ逆にバレないかと思うんです!」
「お、俺がつけるんですか……?」
恐る恐る聞き返すとカスティさんは頷いた。
「ダメ……ですか?」
カスティさんとウィルからの視線に耐え切れなくなった俺は溜息をつく。
「……分かりました、つければいいんでしょ」
カスティさんから受け取り頭につけると普通の耳が消え毛量が増えた。
ケモ耳に意識を向けて動かしてみると、ちゃんと動いた。
動かしているとみんなの視線に気付く。
「なんですか……」
「意外と似合うなぁと思いまして」
「ハルナさん、似合います!」
『ハルナ似合う!』
「みんなして揶揄わないでくれよ……」
俺は深く溜息を吐いた。
「ウィル様にはこの帽子を」
そう言ってウィルには耳がついたニット帽子をカスティさんが渡す。
ウィルは試しに被ってみた。
「おお、違和感ないな。ってかその帽子あれば俺つけなくていいじゃん!?」
「いえ。二人でするからこそ視線をハルナ様に向けさせられるんです」
「そ、そういうもん?」
「そういうもんです」
あんまり納得は出来なかったけど渋々納得した。
「てか、その帽子はどうしたんです?」
「ああ、これはプレイヤーの方から無理矢理に渡されたものです」
少し怒っている様子のカスティさん。これは聞かない方がいい奴だ。
「代表失礼します」
ドアがノックされ受付嬢が入ってくる。
「代表、お客様がお越しです」
「わかりました。応接室にご案内しておいてください」
「畏まりました」
受付嬢は一礼してから部屋を出ていく。
「それじゃあ俺たちはこれで。今日はありがとうございましたカスティさん」
「また何かありましたら頼ってください」
「……カスティさん、手を出してください」
俺はインベントリから蜂蜜が詰まった瓶をカスティさんに渡した。
「これは?」
「シロガネが集めてくれた甘くて美味い蜂蜜です。カスティさんには色々と助けてもらっているのでそのお礼です」
「ありがとうございます、ハルナ様」
あまり見たことないカスティさんの微笑みに俺は少しドキッとした。
『ハルナ、そろそろ行こう』
「え、あ……そう、だな。それじゃカスティさん、また」
「はい」
俺はウィルとクモガネを連れて執務室を出る。
「クモガネ、戻す――」
『い・や・だー』
クモガネは【共鳴】を使って黒い球体と一体となる。
『これなら一緒にいてもいいでしょ?』
「……その姿なら別にいいけど、ただ街を案内するだけだぞ?」
『知ってる。早く行こう』
「わかったよ。行こうぜウィル」
「あ、はい」
組合所を後にしてまずは下層を散策した。
「ねぇ、あれ何? 可愛んだけど。兄弟なのかな?」
「片方NPCだし、違うんじゃない?」
「あー確かに。え、じゃあお揃いでケモ耳装備つけてるの?」
「えー何それ尊い!」
「拝んでおこう」
ケモ耳のカチューシャのおかげか遠くで会話している女性プレイヤーの声が聞こえてくる。
ちらっとみると、本気で拝んでいた。
まぁどうにかごまかせているみたいだから大丈夫っぽいな。
「どうかしましたか?」
溜息を零していたらウィルが聞いてくる。
「いや、何でもない。下層はこんなもんかな。今度は中層のモレルさんとルーシャさんのお店を紹介するよ」
中層に行く道を進んで軽く中層の特徴を説明する。
説明が終える頃にお店の前に到着した。まだ開店前だからお店は閉まっていた。
「ここが二人のお店なんだけど、まだ開いてないんだよな。あ、そうだ。ウィルって本を読むの好きだよね?」
「はい、好きですけど……」
「本がいっぱいあるところに案内するよ」
今度はオピオさんのお店に向かった。
お店の暖簾を潜るとレジのところで本を読んでいるオピオさんと目が合う。
「ハルナじゃないか。いらっしゃい」
「お邪魔します」
「お、そちらの子は初めてだのう」
よいしょっと、とオピオさんは声を出して立ち上がり、ウィルの前に。
「オピオじゃよろしくの」
「ウィリアムです。ウィルって呼んでください。あの、ここの本って読んでもいいんですか?」
「勿論じゃ。あっちに椅子もあるから座っても良いぞ」
「ありがとうございます!」
ウィルは嬉しいそうに店内を回った。
「その耳……獣人族の真似事かの?」
オピオさんは俺の頭部を見て聞いてくる。
「まぁそんなもんです」
「似合っておるぞ」
「オピオさんも揶揄わないでくださいよ……」
俺は早くこの耳を取りたいと内心思った。
いつも読んで頂きありがとうございます。
六月も不定期更新になると思います。