第199話
食事が終わって、ルーシャさんが作った洋菓子を食べた後、軽くみんなのことをウィルに紹介した。
「左からルーシャさん、モレルさん、颯音のことは……覚えている?」
「はい、覚えています」
「大きくなったよな。その身長……羨ましい……」
颯音とウィルが隣同士で並ぶ。ウィルは俺と同じぐらいだから颯音の方が低いんだな。
「あはは……ハヤトさんはまだ成長しますよ」
「そのフォローはやめて! もう成長期終わったんだよ……」
颯音は膝を抱えて落ち込んだ。
ウィルが困った表情で俺を見てくる。
「そいつのことは気にすんな」
「そうそう」
モレルさんが頷く。
「モレルだよ。よろしくねウィル……君でいいのかな? 歳いくつなの?」
「歳……いくつなんでしょうか」
逆に聞かれてしまって俺とモレルさんは顔を見合わせる。
「ウィルってプレイヤーカードみたいの持ってない?」
「あ、冒険者カードですか? 組合所で登録しないと手に入らなかったはず……」
「へぇーそうなんだ。そうすると……ルーシャさんなにしているんですか?」
そんな話をしているとルーシャさんがウィルの周りをぐるぐる回り観察している。
「推定年齢……十……五、六?」
「ルーシャもそう思う? 私もなんだ」
「二人はどう思う?」
颯音が一番最初に答える。
「俺はもうちょっと上だと思う」
「俺は同い年かな」
「みんな、意見バラバラ」
「冒険者カードがあったらいいんだけど、今は厳しい……あ、行けるかもしれない」
みんなの視線が俺に集まり、颯音が聞いてくる。
「なんか良い方法があるのか?」
「あるっちゃある。カスティさんに頼んでみないと分かんないけど」
「カスティさん? なんで?」
「あの人、海原エリアの組合所代表だから」
「ええええ!? そうなの!? 超すごいじゃん!!」
「颯音、うっさい……」
「あ、ごめんごめん。そっかそれなら何とかなるね」
「あの、カスティさんってだれかな?」
話しについていけてないモレルさんが聞いてくる。俺はルーシャさんとモレルさんにカスティさんのことを説明した。
「ハルナ君って色んな知り合いがいるよね。じゃあその人に協力してもらえば」
「はい、冒険者カードが貰えると思う」
「明日行く?」
ルーシャさんに聞かれ時計を見るともうすぐ夜の十時だった。
「時間も時間だし、明日にします。早朝が良いかもだけど」
「早朝……私、インできない……」
「私も」
モレルさんとルーシャさんは来れないみたい。
「仕事ありますもんね」
「夏休み、羨ましい……」
「あーあ、学生に戻りたい」
「あはは……インした時にでも報告しますよ。颯音はこれそう?」
「行けると思うよ」
「じゃあそう言うことで。あ……」
ウィルの意思を聞かずに話しを進めていたことに気が付く。
「ごめんウィル。勝手に予定決めちゃって」
「え、いえいえ。大丈夫ですよハルナさん。自分も年齢とか知りたいから構いません」
「そんじゃ明日よろしくな。俺はそろそろログアウトするよ」
「俺も落ちよう」
「私たちもそうしようか」
「そうね」
「じゃあ今日はお疲れ様でした」
三人がログアウトするのを見送る。
「あ、そうだ。ウィル、付いてきて」
ウィルを連れて俺の部屋に案内する。
「まだウィルの部屋を用意出来てないから俺の部屋を使ってくれ」
「わかりました」
部屋に入ったウィルはベッドに腰かける。
「一応安全だと思うけど、なんかあったらベッド下にボタンあるから、それ使って避難してくれよ」
「あ、これですね。分かりました」
ボタンを確認したウィルが返事をする。
「じゃあ俺もログアウトするな。おやすみー」
「おやすみなさい」
ウィルに手を振ってから俺はログアウトした。
「喉乾いたな」
部屋を出てキッチンに向かう。コップに飲み物を注ぎ飲んでいると兄ちゃんの部屋のドアが開いて兄ちゃんと目が合う。
「お帰り兄ちゃん。まだ寝てなかったんだ」
「色々準備をしていたからな」
「準備? なんの?」
「俺のメッセージを見てなかったな」
兄ちゃんは溜息をつく。
「明日から急だけど出張行くことになったんだ」
「出張? いつまで?」
「来週の金曜まで」
「一週間か。大分長いね」
「生活費は置いて行くけど、無駄遣いはするなよ」
「わかってるよ。気をつけてね兄ちゃん」
「ん」
兄ちゃんは俺のところに来て頭を撫でる。
「だからさ、俺もう高校生なんだけど……」
「ふ。明日早いから朝食はいらないから」
「あ、うん」
「おやすみー」
そう言って兄ちゃんは部屋に入っていく。
兄ちゃん、明日からいないのか。まぁ土曜から颯音と海都が来るし大丈夫だろう。
兄ちゃんを送り出したいから早めに起きよう。
自室に戻った俺はアラームを設定して眠りにつく。