第2話
地上に落下した俺は地面に横たわって空をしばらく眺めていた。
体を起こして怪我が無いかを確かめる。
「傷は……ないな。体力も減っていない」
立ち上がった俺は辺りを見渡す。どうやら落ちた先は森の中のようで近くに池があった。
「何で森の中スタートなんだよ。普通街中からだろう……どっち行けばいいんだかわかんないよ」
マップ機能とかないのかメニュー画面を探していると見つけた。
マップを開くと東に進めば「はじまりの街」があるようだ。そこを目指して進もう。
のどかな雰囲気が漂う森の中を歩きながら今使えるスキルを確かめた。
俺が使えるスキルは二十秒間防御力をあげる【プロテクト】と盾の形状を変えることが出来る【トランス】の二つだ。
どういう形状にするかを細かく想像して【トランス】と唱えれば盾の形状が変わるみたい。ただ、一度使ってしまうとその形状にしか変形出来ないようだ。スキルのレベルを上げれば変形できる回数が増えるみたいだけど、今変形させるなら攻撃が出来る剣とか……あ、高速回転させて斬りつけるなんていいな。
俺は武器を構え回転する刃物を想像しながら唱えた。
「……【トランス】」
六角形のシールドが丸くなり回りに小さなギザギザした刃が付いた姿に変わった。
スキルツリーを見ると【トランス】から派生して【トランス・スピンエッジ】ていうスキルが追加された。
これでいつでも変形できるな。
「ん? なんの音だ?」
近くで獣のような鳴き声が聞こえ近くの茂みに身を隠し様子見をした。
「モンスター同士で戦ってる?」
戦闘していたのは緑色の肌をした子供ぐらいの身長のモンスター――ゴブリンが二体。どちらもレベルは3。
もう一方は全体的に濁った黄色の体色にサッカーボール並みの大きさを持ち腹部に特徴的な紋様がある蜘蛛のモンスター――スパイダーというモンスターが戦っていたのだ。スパイダーも同じくレベル3だ。
錆びた短剣と棍棒を所持して数的にもゴブリンが有利に見えたけど、スパイダーは賢いようでゴブリンの攻撃が届かない距離を維持しながら糸を飛ばしたり、素早い動きで攪乱させている。
その時、木の上にいるスパイダーを目掛けて火の玉が飛んでいくのが視界に入った。
「危ない!!」
咄嗟に声を上げたらスパイダーは火の玉に気付き綺麗に躱して何故か俺の頭に乗っかった。
「お、おい! なんで頭に乗るんだよ!」
「シュ」
スパイダーに文句言うと前足を上げて見ろと指示してくる。視線を向けるとゴブリン二体が俺を睨んでいた。さらにその奥には杖を持ったゴブリンマジシャンというモンスターも睨んでいた。
火の玉を飛ばしたのはあいつのようだな。
「てか、ちゃっかり俺を巻き込むなよ……!」
「シュ」
そんなの知らないとでも言いそうな鳴き声を頭の上でするスパイダー。
「戦うの初めてなんだからどうなっても知らないからな……!」
そう言いながらトランスシールドを展開した。
「グギャ!」
ゴブリンマジシャンが二体のゴブリンに指示を出しこちらに向かって走り出した。
ゴブリンたちは同時に武器を振り上げて攻撃してくる。タイミングよく後ろに飛び攻撃を避けると火の玉が飛んでくる。
「あっちぃ……!」
盾で防いだけど火の粉が舞い、少しダメージを受けてしまった。
魔法は防ぎきれないのか。避けないとまずいな。
「おい! お前もじっとしてないでなんかしろよ!」
頭の上にいるスパイダーに文句を言いながら右から攻めてくる棍棒を持ったゴブリンの攻撃を防ぐ。その間にもう一体のゴブリンに後ろから短剣を刺しに来る。
正面のゴブリンを一旦吹き飛ばし、後ろからのゴブリンの攻撃を躱し腕を掴んで正面のゴブリンに放り投げた。
態勢が崩れたゴブリンを庇うようにゴブリンマジシャンが魔法を放ち距離を離された。
その間にゴブリンたちは態勢を立て直されてしまう。あのマジシャンを先にどうにかしないと。
こんな事になるなら遠距離攻撃が出来る弓とかにすればよかった!
「てか、お前もなんか……あれ?」
頭の上にいたスパイダーがいつの間にかいなくなっていた。
戦闘に集中していたから気付かなかったけど、あいつ逃げたか?
「グギャ!グギャ!」
後ろにいるゴブリンマジシャンが突然悲鳴を上げて暴れだした。
よく見るとゴブリンマジシャンの背中にスパイダーが引っ付いていた。
スパイダーは攻撃しているようでゴブリンマジシャンの体力が少しずつ減っていた。
「あいつやるな。俺も負けてられないな」
ゴブリンマジシャンを助けに二体のゴブリンが背を向けた。
「【トランス・スピンエッジ】」
六角形のシールドを回転刃に変え走り出す。回転刃はギュイーンと音を鳴り響かせ回転しだす。
俺は勢いを付けて回転刃で斬りつけ、隙を見せているゴブリン二体の首を跳ね飛ばした。
二体のゴブリンはそれぞれが持っていた武器を落として消滅した。
「クギャッ!」
「シュ!?」
ようやくゴブリンマジシャンは背中に引っ付いたスパイダーを引き剥がし放り投げた。
俺は放り投げられたスパイダーをキャッチした。
「大丈夫か?」
「シュ」
俺の手を抜けだしたスパイダーはまた俺の頭の上に乗っかってきた。
「お前……はぁ……もう好きにして」
俺はスパイダーに色々と言うことを諦めた。
「クギャ! クギャクギャ! クギャ……?」
ゴブリンマジシャンは怒鳴り散らす。そして、自分が一人でいることに気づき顔を青くさせた。
顔は緑色で分かんないけど、なんとなく察し。
「クギャーーー!」
「あ、逃げた」
「シュ!」
逃げるゴブリンマジシャンをスパイダーが追いかけて森の中に消えていく。
「置いてけぼりだな。まぁ一体だし大丈夫しょあいつなら」
消えていった方向見つめた後、本来の目的の「はじまりの街」に向けて足を進めた。