第198話
颯音と海都を掴んでいる手を離して二人が降りてからゆっくり降りる。
背負っているウィルを降ろすと、ウィルはクラっと体が揺れ俺は急いで支えた。
「無理すんなよ」
「はい……すいません……」
「颯音、運ぶのを手伝って」
「おう」
颯音と一緒にウィルをベッドがある部屋まで連れていく。
「先に戻ってるな」
「サンキューな。あ、船を動かしておいて」
「街?」
「その方がいい」
「わかった」
ウィルをベッドに寝かせると颯音が部屋を出ていく。
「ハルナ、さん……」
今にも泣きだしそうな表情をするウィルは俺のマントに手を伸ばす。起きたら記憶を全て取り戻すってウォルが言ってたな。俺は近くの椅子に座り、手を握る。
「我慢しなくていいから、今は思い切り泣いた方がいい」
ウィルは毛布で顔を隠すと、堰を切ったように泣き出す。
ウィルは大分泣いて疲れたのか寝てしまった。
俺は音を立てないように部屋のドアを開けるとみんながドアの前にいた。
「なにしてんの……」
「え、あ……いや~……」
口ごもる颯音の代わりに海都が言う。
「泣き声が聞こえてきたらそら気になるだろう。話してくれるんだろう」
「まぁ話すけど、ウィルのプライベートに関しては省く」
俺はここにいるメンバーに何があったのか説明した。
説明が終わると少し静かになり最初に口を開いたのはベオルさんだ。
「これからどうするのか決めているのか?」
「まだアプデ前で獣人族が街中にいると色々聞かれると面倒くさいから、それまでは俺の所で引き取ろうかと、まぁあいつの返事次第ですけど」
「なんかあったら直ぐに助けを呼べよな」
「ありがとうございます、グレンさん。そん時は遠慮なく頼ります」
「俺っちたちも協力するっすよ」
「アレンさん、フリッジさんありがとうございます」
トオルさんが言う。
「うーん、俺個人ならいいけど、うちのクランには言わない方がいい。こういうネタを好んでいる奴がいるからさ」
「トオルさんもありがとうございます」
「お、街が見えてきたようだ」
グレンさんの言葉で船の外を見ると水門が見えてくる。
船は門を潜り桟橋のところに止め、ウィルを船内に残して俺たちは降りた。
「今日はありがとうございました」
「おう、また面白そうなダンジョン見つけたら誘ってくれよ」
「はい」
「またねハルナっち」
「じゃあね〜」
グレンさんたちとアレンさんとフリッジさんが帰っていく。
「ハルナ、この後暇なら……」
「今日は戦う気ないですよトオルさん」
「ちぇ。まぁいいわ。そんじゃーな」
手を振って去っていくトオルさん。やれやれだ。
「みんなはこれから予定ある?」
モレルさんが聞いてくる。
「俺は一旦拠点に戻ってからログアウトする予定かな」
「ウィルを運ぶんだろう? 手伝うよ」
「それなら私たちも手伝うよ」
「うん、手伝う」
そう言って三人は船に戻っていく。
「悪い……俺は落ちるわ」
「わかった。なんかあったら連絡するよ」
「おう。それじゃ」
海都がログアウトするのを見届けてから船に戻り拠点に向かった。
拠点に着いてからウィルが寝ている部屋に行き、ドアを開けると目を覚ましたウィルと目が合う。
「お、起きたのか。気分はどうだ?」
ウィルは体を起こす。
「大分、落ち着きました……ハルナさん、お礼を言うの遅くなりました。助けてくれてありがとうございました」
「気にしないくていいのに」
俺は近くの椅子に腰かける。
「で、これからこのとなんだけど。しばらくウィルには俺たちの拠点にほしい。期限は来週の土曜までだ」
「理由を聞いてもいいですか」
「現状、ウィルのような獣人族がいないんだ。どの街にも。それなのに街中に獣人族がいたら色々と面倒くさいことに巻き込まれるだろう? 期限を設けているのがその日、獣人族……他にもいるんだけど、追加されるんだ。それまで窮屈な思いをさせてしまうんだけど……」
「僕なら大丈夫です」
「そうか……ごめんな」
「大丈夫ですってハルナさん」
――ぐう~……。
「すいません……」
ウィルのお腹から可愛いらしい音が聞こえウィルは耳を真っ赤にする。
「拠点を紹介がてら飯にするか。立てるか?」
「はい、大丈夫です」
ウィルにペースを合わせて部屋を出る。後部デッキに行きアオガネを呼び出した。
アオガネに船に近づいてもらって、先に俺がアオガネの背中に乗り、ウィルに手を伸ばし背中に乗せて海を移動して砂浜に降りる。
「島の拠点……綺麗ですね」
「仲間が改造してんだけどな。一人いないけど紹介するよ。ありがとなアオガネ」
アオガネの頭を撫でてからアオガネを戻して俺はウィルを連れ家に向かいドアを開けた。
すると、美味しそうな匂いが襲ってくる。
「急にメッセージくるからこれしか作れなかった」
少し怒っている様子のルーシャさん。
「ウィル君、こっちに座って」
モレルさんが手招きして、ウィルは椅子に腰かけた。
「遠慮しないで食べてね」
「はい、いただきます」
ウィルは一口食べると目を見開いて、どんどん口に運んでいく。
美味しそうに食べるウィルの姿を見て俺は胸を撫でおろした。