第197話
「よし、俺が指示を出す……って、おい!」
俺が言う前にコガネとビートル隊の六体が鮫に向かって駆け出す。
『ハルナ、今更よ』
シロガネの指摘に俺は溜息をつく。
「そうなんだけども……まぁいいや。クモガネとアカガネとクロガネはあいつらの援護を頼んだぞ」
『分かってる』
『行ってきまーす』
『ふん』
クモガネとアカガネは先行した六体を援護しながら飛んでいく。クロガネは地中に潜ってしまう。てか、潜れるのかよこの黒い床。
『私はみんなのサポートすればいいんでしょう?』
「俺も回復に回るよ」
『私一人で十分よ。行きなさい、兵たちよ!』
シロガネは三色の蜂兵を召喚して、周囲に青い色の蜂兵を配置、赤色と緑色をみんなの邪魔をしないように配置している。
コガネたちは見事な連携で巨大鮫の体力をどんどん削っていく。巨大鮫の攻撃を受けてもシロガネの手厚い回復があるからほとんどノーダメージ。数の暴力もあって一方的だな。
てか、俺だけなんもしてねー。俺は苦笑いする。
『ゴオオオオオオ!』
巨大鮫の体力が半分を切ると、雄叫びを上げ三体に分裂して、闇に溶け込んだ。
『何処行った……』
「コガネ! 後ろだ!」
鮫を探しているコガネの後ろに現れたことを大声で伝えると、コガネはギリギリで躱す。鮫は直ぐに姿を消した。
「みんな! 三組で動け!」
コガネとクモガネとアカガネ、アインとゼクスとフュン、ツヴァイとドライとフィーアの三組に分かれた。
お互いに警戒しているおかげで、闇に溶け込んだ鮫の攻撃を躱して反撃し始めている。
更に二割ほど体力が削れると三体の鮫が姿を見せ、再び巨大な鮫になる。
『許さない……許さない……!』
耳を劈くような雄叫びを放たれ、俺は耳を塞いだ。
『兄様は渡さない! 僕のだあああ!』
巨大な鮫は怒り狂って突進してくる。
その時、ミシミシと音が聞こえ、パリンと空間が砕け散った。
「なん、で……」
『これでいいんでしょう?』
ひょっこり地中から戻ってくるクロガネ。
「これやったのクロガネなのか?」
『変なの感じたから……ちょっと……』
「最高だよクロガネ!」
一番嬉しい事をしてくれたクロガネを抱き上げた。
『そう? じゃあこの後先延ばしにされている約束果たしてよね?』
「うぅ……は、はい……」
俺はクロガネを降ろして、今度こそ盾を構え、黒い球体を展開した。
「クロガネ、アオガネ、シロガネ。行くぞ」
三体は頷き黒い球体と一体化する。
「アオガネ」
『う、うん……!』
革靴の姿が変わり両サイドに水中用ピット装着。俺は駆け出してジャンプするタイミングで地面に向け一気に水を放出して、上空に飛んだ。
「クロガネ!」
『失敗しないでよね』
右腕に巨大なドリルが装着され、もう一度水を凄い勢いで放出して加速する。
「【共鳴技・ブレイカードリル】!!」
高速で回転するドリルを、コガネたちに意識が行っている巨大鮫の腹部にぶつける。
巨大鮫は悲鳴を上げる。残り一割になると巨大鮫は三体に分裂して逃げ出す。
「逃がすかよ! コガネ」
『いいとこどりなんだから』
そう言いながらもコガネは黒い球体と一体化して、直ぐに特殊な革手袋に形が変わる。
「【共鳴技・スパイダースネットボルト】!」
両手から放たれた電気を帯びたワイヤーを展開して逃げ惑う鮫を捕らえ、鮫たちに電気が流れた。
黒焦げになって横たわっている鮫は体が消え、ウォルの姿になる。
『いてて……強いねお兄さん……負けちゃったか……』
俺の足元に指輪が転がってくる。
『その指輪を壊せば兄様は目が覚めるよ。全ての記憶を思い出すけど』
俺は指輪を拾う。
『夢はいつか終わる……早く兄様を起こしてあげてくれ』
ウォルの姿が少年から青年になっていた。回想の時と姿が一緒だけど右腕はある。
「ウォル、君は……」
『兄様のことは頼んだ、ぞ……』
ウォルは安らかな笑顔で消滅した。
指輪を壊すと、ウォルがいた場所に少年の姿じゃなく、青年の姿のウィルが現れた。
俺は急いで駆けつける。怪我はないようだな。
近くに大きな瓦礫が落ちてきて船が崩壊していることを思い出す。
「ヤバっ……みんな【共鳴】をしてくれ」
共鳴をしていなかったメンバーも黒い球体と一体化する。
俺とほとんど身長が変わらないウィルを背負う。地味に重いな。
「ハルナ、さん……?」
「お、起きたか。起きて早々で悪いんだけど、しっかり掴まってくれるか? 一気に飛んで船を脱出する」
「あ、はい」
しっかり掴んでいるのを確認してから、赤と白の翅を展開して急いで飛び立つ。
くり抜かれたような大穴を通っていくとウィルが慌てた様子で話し掛けてくる。
「ハルナさん! 後ろから白い手が!」
ちらっと後ろを見ると壁から白い手が生え俺目掛けて迫ってくる。
「一気に飛ばすぞ! 口を閉じとけよウィル!」
スピードを上げ迫りくる白い手を躱していると、上から炎の矢が飛翔してきて、白い手を貫く。
見上げると、そこには炎の矢を番えている海都の姿があった。その隣に颯音もいた。
「海都! やっちゃえ!」
「分かってる! リュウオウ!」
「ガウ!」
リュウオウは光りの粒子になり弓と一体化して海のような青さを持つ弓になる。
「【共鳴技・タイダルショット】!」
先端が螺旋を描く巨大な水の矢が放たれ、俺の横を通り過ぎていった。
極太ビームのような一矢は白い手を一掃する。ナイスタイミングだ。
俺は二人の前に降り立つ。
「他のみんなは?」
「みんな、船で待ってるけど……後ろの人誰? 見覚えがあるような……」
成長した姿のウィルを見て颯音は頭を捻る。
「説明は後だ、手を貸せ」
二人の手を取り飛び立つ。ゆっくりと崩壊していく幽霊船を見下していく。
幽霊船が消えると辺り一帯に発生していた濃霧が晴れる。これで終わりみたいだな。
「「おーい!」」
船先のデッキでグレンさんたちが手を振っているのが見える。俺はゆっくりと船に近づいてみんなの前に降りた。