第181話
光を放ちながらハガネの姿が変わっていく。光が収まりハガネは翅を動かし滞空している。
クワガタを大きくした感じだな。この顎には挟まりたくない。感情表現でクロガネがよく挟んでくるけど、ハガネは違うといいな。
ハガネは自分の変わった姿を見渡すが、直ぐに俺を見つめてくる。
「どうかしたか?」
そう尋ねるがハガネは頭を横に振った。
幼虫の時にも思ったけど、ハガネはなぜか喋んないよな。俺の言葉はわかるみたいだし、別にいいんだけど。声が聞きたい。
「ハガネ、みんなの所に行こうか」
ハガネを連れて外に行きみんなを集める。
「クモガネとアカガネとクロガネは知っていると思うけど、新しく仲間になったハガネだ」
ハガネはペコリとみんなにお辞儀した。
みんながハガネに色々と聞いてるけど、ハガネは頷いたり、頭を横に振ったり、笑ったりしている。うーん、喋れないのかもしれないな。まぁいいか。
アインが俺の元にやってくる。
『主、レベルを上げたいのですが……』
アインとツヴァイとフィーアの三体は進化してレベル1に戻っている。
ヒガネはレベルリセットしたみたいだし、ハガネもレベルを上げた方がいいよな。
そんなことを考えているとドライとフュンとゼクスが俺の周りくる。
『主、我らのもお願いします』
「分かってるよ」
一気にやることが増えた気がする。
まずは、ドライとフュンとゼクスの石を探しに行こう。見つかってからアインとツヴァイとフィーア、ハガネとヒガネのレベル上げ。見つからなければトオルさんに挑んで石を手に入れる。上位職に転職した方がいいけど、転職したらレベルって戻るっけ? スキルがリセットされるって言ってたしレベルもリセットしそうだな。だったら今のレベルで挑んだ方がよさげか? わかんね。
まぁいいや。とりあえず進化の石を探しに行こう。
コガネたちを戻してから樹海の街に向かった。
「アトラさんのお店やってないか……」
アトラさんの店の入り口には「CLOSED」と看板が掛かっていた。
しゃーない。他の店を探すか。
「全然ないんだけど……」
この街のお店というお店をしらみつぶしに探したけど一個も見つからなくて、ベンチに座って俺は落胆していた。
「おや、ハルナではないか。どうかしたかの?」
顔を上げるとそこには少年ぐらいの背丈に下駄を履いた着物姿のオピオさんが立っていた。
「え、オピオさん? なんでここに?」
NPCはプレイヤーみたいに転移門を潜って他のエリアには行けない仕様だ。
海原エリアで出会ったオピオさんが樹海エリアに来れるわけがない。
そう聞くと困惑した表情をするオピオさん。
「あはは……ちと、訳アリでな。お主の質問には答えられないのじゃ。すまんの……」
「あ、いえ、大丈夫です。俺の方こそすいません」
オピオさんがここに来れるってことは近いうちにNPCも移動が出来るようになるんだろうな。そん時はヴェルガを拠点に招待したいな。
「隣に座ってもいいかの?」
「あ、どうぞどうぞ」
俺は少しずれて席を空ける。
「それで、お主は何故こんなところで落ち込んでいたんじゃ?」
「そんなには落ち込んでいないんですけど……探していたモノがこの街で見つからなかっただけです」
「探し物とは?」
「え、あー……進化の石なんですけど」
「進化の石のう……」
「心当たりなんて――」
「あ、それなら持っているのじゃ」
「ないですよね……え、今なんて?」
「進化の石なら持っているといったのだが」
「えええええ!?」
驚きのあまりに俺は立ち上がる。
「声を下げてくれ」
「あ、すいません……」
オピオさんに一言謝ってからベンチに座る。
「本当に持っているんですか? オピオさん」
「お主に嘘ついても仕方ないだろうに。ほれ、これじゃよ」
オピオさんの手元には黄緑色、紫色、紅色の三色の石があった。
「本当だ。オピオさん! その石を譲ってください! お願いします!」
深々と頭を下げる。
「どうしようかの……」
「お金なら払いますからお願いします!」
「凄い必死じゃなのう……そうじゃのう、儂の手伝いをしてくれた――」
「何でもします!」
オピオさんが言い切る前に手を取り承諾した。
「内容も聞かずに承諾するとは……まぁそこまで難しくはないから安心してくれ。ちと、場所を移すかの」
オピオさんが手を叩くと視界が暗転して、気がついたら俺が知らない草原に立っていた。