第176話
太陽の光はほとんど通らない薄暗い森を進んで行く。近くの濁っている水溜りはぶくぶくと水風船が出来ては割れてを繰り返している。触れたら絶対毒になるよな、あれ……
「コガネ、まだ歩くのか?」
『もうすぐ着く』
一本の大木の前に止まったコガネは大木を見上げるとの登り始めた。
「待てよコガネ」
コガネの後を追って木を登る……と思ったけど、掴める場所が無くて登れない。木に糸を飛ばして登るか。
そう思っていると、腰辺りに糸が巻きついて一気に引っ張られた。
俺は落ちないようにコガネに掴まった。
「びっくりした……引っ張るなら先に言ってくれよコガネ」
『ハルナ、静かにしてないと危ないよ』
コガネに言われ辺りを見渡すと毒々しい姿の蜘蛛たちが俺を見ていた。
見ているだけ一向に攻撃してこないな。これも【女皇蟲の加護】のおかげだな。
パラライズスパイダーにナイトメアスパイダー。カースドスパイダーにデススパイダー。
状態異常系の蜘蛛のオンパレードだ。
俺の聖天道虫のマントで状態異常には耐性があるんだけど、相手にしたくないぜ。
そんなこと思っていると目の前にさっき出会ったアシッドポイズンスパイダーがやってくる。
『ちょっとあんた! なんでこんなところに来てるのよ! 死にたいわけ?』
別個体かと思ったけど同じ奴みたいだ。
「あはは……俺もそう思うよ」
呆れた表情をするアシッドポイズンスパイダー。
コガネが話し出す。
『ねぇ君』
『誰よあんた?』
『僕はコガネ。こっちは人間のハルナ』
もうちょっと良い紹介の仕方ないかと内心俺は思った。
『人間と一緒なんて可笑しいわね』
『そう? 色々と楽しいよ~』
『ふーん』
『興味があるなら君もくる?』
コガネがアシッドポイズンスパイダーを勧誘するとはな。
『ここにいても楽しくないし私もいこうかしら……』
『それなら』
アシッドポイズンスパイダーは頭を横に振る。
『行けない。マザーから離れられないの』
『マザー?』
俺も知らない単語。マザーってことはこいつらの母ってことだよな。
離れられないってこはそう言うスキルを持っているんだろう。
『マザーは私たちを産んだ時に眷属契約で縛ったの』
『眷属契約……ハルナ、どうにか出来ない?』
「どうにかって……うーん。あ、ちょっと待ってて」
俺はメニュー画面にあるヘルプ機能を使い、沼地エリアの案内役カルトを呼んだ。
少しすると上空から丸い機械の球体が飛んできた。
「お呼びでしょうか?」
機械音声だけどやる気のなさが伝わってくる。ここだと使う人いないもんな。
「えっと、多分だけどマザースパイダー? の【眷族契約】ってどういうスキルか知りたい」
「畏まりました。まずはマザースパイダーについてご説明しましょう」
カルトによる説明が始まる。
「マザースパイダー。レベルは50。この沼地エリアのボスモンスター蛇神クイーンナーガの眷族の一体になります」
「マジか……」
「マザースパイダーのスキル【眷属契約】は契約した眷属が取得した経験値を得る効果と、眷属にマザースパイダーのほんの一部の力を分け与えるという効果。それと、マザースパイダーが倒される際、眷属を身代わりにすることで消滅を避ける効果の三つが主な効果です」
「主な効果ってことが他にも?」
「はい、眷属が一定距離マザースパイダーから離れると眷属が消滅する効果もございますが、こちらはプレイヤーの皆様には関係ない効果になります」
「なるほど……」
アシッドポイズンスパイダーが離れられないのはそのせいか。
「質問なんだけど、その【眷属契約】って消せたり出来る?」
「不可能です」
カルトは速攻で否定する。
「不可能か……テイムで上書きできればよかったけどな……」
「テイムが可能なんですか?」
カルトは考え込む。
「テイムならマザースパイダーの【眷属契約】を消せるかもしれません」
「本当か!」
「成功率は低いですが可能です。ただ、失敗すれば消滅するリスクもあります」
「うぅ、マジか……わかった。ありがとうカルト」
「……またのご利用お待ちしております」
そう言ってカルトは飛んでいった。
『ハルナ、どうだった?』
俺はコガネとアシッドポイズンスパイダーに伝えた。
話し終えた俺は尋ねる。
「どうする? 決めるのは君だよ」
『……』
『行こうよ』
『うん……行きたい! お願い!』
コガネの後押しのおかげでアシッドポイズンスパイダーも行きたいと呟く。
「わかった。それじゃ――」
――ゴゴゴ。
アシッドポイズンスパイダーをテイムしようとしたら地面が揺れ、そのせいで俺がいる大木が揺れ始め、必死にコガネに掴まった。
地上を見ると地面が割れ、超巨大な蜘蛛が姿を見せ凄い勢いで登ってくる。あれがマザースパイダーか? 急がないと!
俺はコガネを掴まりながらアシッドポイズンスパイダーの額に手を翳した。
「ヒガネ!」
そう叫ぶとアシッドポイズンスパイダーの体が光りだす。アシッドポイズンスパイダーの体は光の粒子になり、俺の右手の紋章に吸い込まれていく。どうにか成功した――なっ!?
全てが吸い込まれたと思ったら、光の粒子は逆流していく。
アシッドポイズンスパイダーの姿に戻っていくと思ったら、そのまま丸くなり、光が収まると卵になってしまった。
「コガネ! 卵を!」
『分かってる!』
落ちていく卵にコガネは糸を飛ばして引き上げて受け止めた。
「コガネ、拠点に戻るぞ!」
マザースパイダーが迫る中、俺はインベントリに卵をしまい急いで拠点に戻った。