第174話
久しぶりの沼地エリアの街。相変わらず閑散としていて人が全然いない。
数人見かけるもほとんどがNPCだ。
街を出た俺はクモガネとアカガネを呼び出した。
周りが薄暗いせいなのかクモガネとアカガネが輝いて見えるな。
呼び出されたクモガネとアカガネは俺の両肩に止まる。
右肩に止まるクモガネが尋ねる。
『ここでなにするの?』
「スタッグビートルをテイムしに来たんだよ。クモガネ、アカガネ。【共鳴】を頼む」
二体は黒い球体と一体になり、同時に背中に移動して赤と白の翅を展開する。
上昇した俺は大分前に教えてもらった場所に向かった。
マップを見ながら上空を移動して直ぐに目的地に辿り着く。地上に降りた俺はクロガネを呼び出した。
前に来た時はクロガネが地中にいたビートルたちを見つけてくれた。多分、スタッグビートルも地中にいるんだろう。クワガタだしね。
『また、変なところで呼び出して……こんどはなんなの?』
「あはは……悪い。スタッグビートルを探してほしんだ」
『ビートルを探してくればいいのね』
「ビートルじゃなくてスタッグビートルね。クロガネみたいな顎がある奴な」
クロガネは見上げてきて、俺の足元に近づき思いっ切り顎で挟んでくる。
「痛っ!? なにすんだよクロガネ!」
『ふん』
少し怒った様子のクロガネは地中に潜っていく。
『今のはハルナが悪い。ねえクモガネ』
『うん、僕もそう思う。後で謝った方がいいよハルナ』
「……」
二体がそう言うならさっきの言葉でクロガネを怒らせてしまったのかもしれない。戻ってきたら謝ろう。
しばらく待っているとクロガネは大量のビートルワームを探してきた。
『まだいるよね? 取ってくる』
「もういい! もういいから! そこまでにしてくれ!」
『そう?』
再び潜りそうなクロガネを止める。
このビートルの山……どうすんだよ……
「クロガネ……さっきはごめん。本当にごめん。次から言葉には気をつけるから許してほしい」
俺は地面に額を付けて土下座をした。
『ふん』
クロガネはそこら中で転がっているビートルに近づき、一体ずつ地中に戻していく。
許してくれたのか? それだといいんだけど……
全部のビートルを戻してくれて俺は胸を撫でおろした。
後ろ向きで地中から戻ってくるクロガネの顎には白いモノが挟まれていた。
「クロガネ、もうビートルはいいんだけど……」
『違うわよ、よく見て』
クロガネに言われ、確認してみるとスタッグビートルワームと名前が表示された。
「え、マジ? いつの間に見つけたんだよクロガネ」
『最初から』
「最初から……?」
すでにスタッグビートルは見つけてて、俺への嫌がらせのためだけにあんなにビートルワームを見つけてきたのかよ。
俺は深く溜息をついてからクロガネの頭を撫でる。
「色々と言いたいことはあるけど、見つけてくれてありがとなクロガネ」
『別にハルナのためじゃないし……』
「はいはい」
クロガネの頭を撫でてから目を開けないスタッグビートルワームに近づく。寝ているのかな?
しゃがんで顔を覗き込むとスタッグビートルワームは目を覚ました。
「寝ているところ起こしてごめんな」
スタッグビートルワームは辺りをきょろきょろしだす。
インベントリから瓶に詰まった蜂蜜を取り出して、指で掬って口の前に運ぶ。
スタッグビートルワームはゆっくりと指を舐め始めた。いや、食われているに近いなこれは。少し痛いな。
蜂蜜がなくなると俺を見てくる。
「まだ食べるか?」
そう聞くとスタッグビートルワームは頷いた。
俺はスタッグビートルワームを地面に置いて、目の前に瓶を置く。
スタッグビートルワームは瓶に近づくも舐めようとしないで俺と瓶を交互にみる。手渡ししてほしいのかな?
試しにやってみるとスタッグビートルワームは舐め始めた。
様子を見守っているクモガネが尋ねてくる。
『その子、大分ハルナに懐いているね』
「そう思う?」
アカガネが近づくと慌てて俺の後ろに行こうとするも、移動が凄く遅い。
スタッグビートルワームから避けられてアカガネがしゅんとする。幼虫にはアカガネの熱さは厳しいか。
クモガネがアカガネに飛んでいって慰めている間に俺はスタッグビートルワームに額に手を翳す。
「ハガネ」
スタッグビートルワームの体が光の粒子になり右手の紋章に吸い込まれていく。
スタッグビートルワームゲットだぜ! なんてな。