第170話
「春名! そろそろだよな!」
時間が経つにつれ海都はソワソワしだす。
「落ち着けよ海都。ほら、孵化が終わったようだぜ」
機械は止まり、透明な蓋がゆっくりと開いて行く。
俺と颯音と海都は開いた蓋の中を覗き込むと、青い瞳と目が合う。
煙が晴れると、海のように青い鱗に、鋭い爪や牙を持ち、背中には翼。リヴァイアサンみたいに胴長だと思っていたけど、四つ足タイプだったとはな。これがブルードラゴンか。
「グラ?」
見上げてくるブルードラゴンを海都がそっと抱き上げ頭を優しく撫でる。
「額に手を翳して名前を呟くんだよな?」
「ああ、それであってる」
「よし……」
海都はブルードラゴンを床に置いて、額に手を翳した。
「お前の名前はブルーアイ――」
「海都ストップ! その名前はアウトだ」
「冗談だよ。お前の名前はリュウオウだ」
リュウオウと名付けられたブルードラゴンは光の粒子になり、海都の右手の人差し指に集まり青い石がついた指輪になった。
「リュウオウ」
海都が名前を呼ぶと指輪から光の粒子が溢れ、海都の目の前にブルードラゴンのリュウオウが呼び出された。
「これからよろしくなリュウオウ」
「グラ!」
リュウオウは元気に返事をする。
「じゃあ一旦戻すぞリュウオウ」
「グラ」
海都はリュウオウを戻した。
「リュウオウ……竜の王って書いてリュウオウ?」
「凄い名前だね」
「それぐらいに育てるからいいんだよ。この後さ、二人暇?」
俺と颯音はお互いに顔を見る。
「レベル上げに行きたいんだろう?」
「付き合うとも!」
「ありがとな。それじゃ……樹海エリアが妥当か?」
「そうだな。レベル1だし、スライムで力を見るのもありだろう」
「そんじゃレッツゴー!」
転移装置を使い、樹海エリアに転移した。
人気が少ない草原に歩いて行き、そこで海都はリュウオウを呼び出した。
「よし、リュウオウ。あのスライムに【ウォーターボール】だ」
「グラ!」
口を大きく開け、拳程度の大きさの水球をスライムに飛ばす。
水球はスライムに命中。レベル1のスライムの体力が一気に消滅した。
「「「強っ!」」」
三人の声が重なる。
リュウオウの初期ステータスが元々高いんだろうけど、一撃か……名前通りに育ちそうだな。
「リュウオウのスキルに【神秘の雫】があるんだけど、そのおかげで水魔法の威力が上がったんだな」
「あーそれで一撃だったんだね」
「名前通りに育ちそうだな」
「おう、将来が楽しみだ」
リュウオウの頭を撫でる海都。
「このステータスなら樹海の中に入っても行けそうだな」
「じゃあ移動しますか」
リュウオウを戻してから樹海に入る。
樹海に入った俺たちは奥に行かず、レベルが低い場所からリュウオウのレベル上げを始める。って言っても俺と颯音は見守っているだけど。
リュウオウのレベルが上がるたびに少しずつ奥に進んで行く。
「っ! 二人とも、この先異常な数のモンスターの反応がする」
俺は小声で話す。
「何体いるんだ?」
「軽く五十はいる……増えてるな……一旦街に戻るか?」
「そうだな。リュウオウのレベルも10まで上がったし戻ろう」
颯音と海都は静かに頷く。
俺たち三人はゆっくりと後退る。
風が吹いてもいないのに森が騒めき始めた。
「やばい……囲まれた……!」
海都がそう言うと木の上や茂みから俺たちを狙っている視線を感じた。
武器を構えた颯音が言う。
「春名、海都。逃げるか戦うか」
「この数は疲れるから逃げる」
「同じく」
「グラ!」
鋭い歯を剥き出して威嚇をするリュウオウ。
『我ガ認メタ者ノ気配ヲ追ッテ来テミタラ、珍シイ者ガ居ルノデハナイカ』
三人の前に黒い髪に黒いドレスを纏い、背中には幾何学模様が入った翅を持つ容姿端麗の女性が姿を見せる。この樹海エリアのボスモンスターだ。
相変わらずステータスは見えな……あれ? 名前が表示されている。
ボスモンスターの名前はティターニア。レベルが上がったから見えたのか?
『久シイナ、人ノ子ハルナヨ』
「あ、はい。お久しぶりです……ティターニア、さん」
そう言うと女性は一瞬目を見開くが直ぐに表情を戻した。
『竜ヲ仲間ニシタノカ?』
少しがっかりした様子の女性。
「俺のじゃないですよ」
『ソウナノカ? ソウカ……』
女性は何故か胸をなで下ろす。
「えっと……あ、そういえば……まだプレイヤーって訪れますか?」
『多少ハ減ッタガナ。誰ノセイダカ……』
「あはは……すいません」
『気ニスルナ。コガネタチハオラヌノカ?』
「今日はリュウオウ……あ、このドラゴンの名前なんですけど。こいつのレベル上げしているから呼び出していないだけです。コガネたちは元気にしていますよ」
『ソウカ。ソノ言葉ガ聞ケタラ満足ダ。同胞タチヨ、行クゾ!』
草木が騒めきだし風が吹き、俺は思わず目をつぶる。
風が止み目を開けるとティターニアの姿はなかった。