第168話
次の日。いつも通りに兄ちゃんを見送り、食器を洗ってから俺はログインした。
二人とした約束の時間よりもかなり早い時間にログインした目的は組合所に行くためだ。
拠点の転移装置を使い海原エリアの街に転移した。道を進んで行き、下層にある組合所に到着する。
朝だからか人が少なく、少しだけ並べば直ぐにカウンターに行けた。
空いているカウンターに行くと、カスティさんが座っていた。
「カスティさん、おはようございます」
「ハルナ様、おはようございます。本日はどのようなご用件で?」
「転職先について聞きたいことがあって」
「と、言いますと?」
「ちょっとここじゃ話せないので、個室とかあればいいんですけど」
「畏まりました。空いている応接室にご案内いたしますのでこちらへ」
カスティさんの後ろについて行き、案内された部屋に入る。テーブルとソファーがあるだけの部屋だ。
「お座りください」
俺はカスティさんの反対側に座る。
「それで、どういったお話でしょうか」
「俺の転職先のインセクトテイマーについて」
「インセクトテイマー? 初めて聞くジョブですね。少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
そう言ってカスティさんは立ち上がって部屋を出る。しばらくすると、カスティさんは分厚い本を持って戻ってきた。
パラパラと本を開くカスティさんの手が止まる。
「ありました。インセクトテイマーは虫系モンスターをテイムし、テイムしたモンスターとの絆が紡がないとなれないジョブ。ということはハルナ様は虫系モンスターをテイムしていらっしゃると」
「あ、はい。もう十二体いますね」
「それは、凄いことなのでしょうか?」
カスティさんに逆に聞かれて俺は困惑する。
「さあ? どうでしょう……テイムしているプレイヤーを見かけないので、自分で言うのも変ですが凄い方かと」
「そうですか」
「カスティさん、その本読んでもいいですか?」
「基本的にプレイヤーの方には見せてはいけないモノなのですが、ご自身の転職先のみでしたら構いません」
「え、本当に見ていいんですか? これがバレてカスティさんに迷惑かかるなら……」
「問題ありません。私、こう見えても偉い立場なので」
カスティさんが名刺を渡してくる。
「海原エリア組合所代表カスティ……え、代表!? カスティさんが!?」
カスティさんの予想外の肩書に俺は驚いた。
「だから安心してお読みくださいハルナ様」
「あ、ありがとうございます」
カスティさんから本を受け取りインセクトテイマーの項目を読み始める。本にはより詳しく書かれていた。
インセクトテイマーになるとコガネたちのステータスが大きく上昇しスキルの威力も上がる。
それと、モンスター同士の合成が出来るそうだ。
モンスター同士の合成……ロマンはあるけど、コガネたちを合成なんてしたくない。インセクトテイマーは見送りかな。
てことは、改造盾士だな。
「カスティさん、改造盾士のところを捲ってもらってもいいですか?」
「畏まりました」
本をカスティさんに返して、ページを捲ってから戻してもらった。
改造盾士の説明欄を見たけど、【トランス】を使用した武器を一度だけ改造できると転職条件を見た時の説明しか書いてなかった。
俺のスキル【エキストラトランス・レゾナンス】が転職した時どうなるか知りたかったけど、まぁ載ってないよな。
「カスティさん、転職した際ってスキルはどうなりますか?」
「スキルと割り振った分のSPは一旦リセットされます。SPを振りなおせば同じスキルを取得可能です」
「へぇー、初めて知りました。それなら、安心して転職できるな」
「転職されるんですね」
「今すぐじゃないですけど、そのうち」
「そうですか、その時はまた組合所にお越しください」
「わかりました」
俺は部屋に置かれている置時計を見る。丁度いい時間だな。
「カスティさん、俺はそろそろ行きますね」
「お見送りいたします」
部屋を出ると、組合所内は少し騒がしくなっている。
「カスティさん、お見送りは大丈夫なんで仕事に行ってください」
「申し訳ございません」
カスティさんは一礼してカウンターに向かった。
俺はメニュー画面を開いて、拠点に転移した。
「まだ、来てない――お、来た来た」
丁度拠点に戻ってきたタイミングで颯音と海都がログインしてきた。
「おっす、ふたりとも」
「はよう~、春名早いね~」
「この前遅刻したからな」
「それじゃあ全員揃ったし行こうか」
俺と颯音は頷く。
拠点の転移装置に触れ、アトラさんのお店がある樹海エリアの街に転移した。
アトラさんのお店について店内に入ると、アトラさんが笑顔で手を振って待っていた。