第160話
俺とトオルさんの試合が終わったことで専用エリアがなくなっていく。
そのタイミングでコガネたちは【共鳴】を解除して各々自由にしていた。
こっちに向かってモレルさんとルーシャさんが歩いてくるのが視界に入る。
手を振ったモレルさんが言う。
「ハルナ君、トオルさん。お疲れ様。ハルナ君、惜しかったね」
「トオルさんの最後のあれ、チートですよ」
「チートじゃねーよ。お前の方がチートだろう。何発共鳴技使ってんだよ」
「何発って……テイムの数だけですけど?」
「テイムの数だけって……マジかよ……」
呆れながら言うトオルさん。
俺の横に来たルーシャさんが脇を突っつく。
「なんですか? ルーシャさん」
「ハルナ、アオガネ進化した?」
「はい、進化してジャイアントシーセンチピードになったんです」
「屋上のカブトムシたち、幼虫から進化したの?」
「はい。約束してたの見せるの遅くなってすいません」
ルーシャさんは首を横に振る。
「ううん。なかなか会えなかったから仕方ない。触ってもいい?」
「聞いてみないと。ビートル隊集合!」
そう号令を出すと、隊列乱れずにアインたちは俺のところまでやってくる。
『『『主、なにか御用で』』』
「嫌じゃなければでいいんだけどさ、ルーシャさんが触りたいって」
アインたちは互いに顔を見合わせてから、俺を見て頷いた。
「ありがとうみんな。ルーシャさん、触ってもいいそうです」
「うん」
ルーシャさんは恐る恐るアインたちを触れ始める。
ルーシャさんは優しく撫でているようでアインたちは目を細めている。気持ちよさそうだ。
トオルさんが俺の肩に手を置く。
「そんじゃ俺は帰るわ」
「送って行かなくても大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。ディオガなら……ログアウトしてやがる……」
ディオガさんのところに転移する予定だったのだろう。
「他にいます?」
「うーん、クランメンバーもいない……すまんハルナ。街まで送ってくれ」
「わかりました。モレルさんとルーシャさんはどうします?」
「ルーシャどうする?」
「うーん、私も帰ろうかな。もう、夜遅いし」
「そうだね。ハルナ君、私たちも帰るよ」
「わかりました。先に船に行っててください」
三人は船の方に歩いて行く。
見送っていると後ろから視線を感じ、振り向くとコガネたちが俺を見ていた。
「……なんだよ、みんなして」
クモガネとアカガネが俺の背中に止まる。
『ハルナが落ち込んでいるんじゃないかみんな心配してるんだよ』
『僕は心配なんてしていないから!』
『コガネはツンデレなんだから』
『うんうん』
『シロガネとアカガネは黙って!』
わいわいがやがやと騒ぐコガネたち。
その光景を見て俺は嬉しくなり、微笑みをこぼす。
「お前ら最高かよ……ごめんな、負けちゃって。今度は絶対勝つからまた力を貸してくれよな」
『ハルナには僕がいないとね!』
『いや、私よ!』
ぐぬぬと睨め見合うコガネとシロガネ。
『僕はいつでも力貸すからね』
『遠慮なく言ってね』
嬉しいことを言うクモガネとアカガネ。
『ぼ、僕も……』
『アオガネ、性格変わった?』
クロガネが頭を傾げてアオガネに聞く。
『そ、そんなこと……ないけど……』
「クロガネ、頼りにしてるよ」
『ふん』
クロガネはそっぽを向く。可愛い奴め。
『『『主! 次は我らも!』』』
「おう」
「ハルナ―! まだかー!」
船の方から大声でトオルさんが催促する。
「今行きまーす! 一旦戻すぞ」
俺はコガネたちを戻してから船に向かった。
船に乗った俺は操縦席に行き、自動操縦にしてから街に戻る。
桟橋に船を着け、三人が降りてから俺も降りて船を回収した。
「そんじゃ帰るわ」
そう言ってトオルさんはログアウトした。
「ハルナ君、またね」
「また島行くね」
「はい」
二人がログアウトするのを見送ってから組合所に向かう。組合所は夜中なのに意外と混んでいた。
三十分ほど並んでようやく自分の番が来てカウンターに行く。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
俺が行ったカウンターには、船の時に対応してくれたNPCのカスティさんだった。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ……俺のこと覚えてますか? カスティさん」
「……ハルナ様?」
「あ、はい。あってます。よかった……なんか久しぶりですね」
「ハルナ様がいらしていたのは存じておりましたが、仕事が忙しく……」
「忙しいですもんね。あ、用件は拠点までの転移装置と船のアップグレードと、もし買えるのなら船を購入したいです」
転移装置はクランメンバー限定で街から拠点の行き来が出来るようになる便利な装置だ。
船のアップデートは設備はそのままで、大型にする予定だ。
「畏まりました。書類をお持ちいたしますのでお待ちください」
用件を伝えるとカスティさんは立ち上がり奥に引っ込む。しばらくして、カスティさんは書類を持って戻ってきた。
「こちらの用紙にご記入をお願いします」
俺は用紙とペンを受け取り記入していく。
書き終わった俺は用紙をカスティさんに渡した。
「記入は問題ないですね。では、こちらが金額になります」
カスティさんが見せてくれた合計金額に俺は驚く。
「そんなに高いんですね……船買えないのでレンタルでお願いします」
「畏まりました」
レンタルにしたことで、お金は無事に足り支払った。
「それじゃカスティさん俺はこれで」
「はい、またのご利用お待ちしております」
カスティさんに一礼してから組合所を出て俺はログアウトした。