第15話
薄暗い部屋の中央にダンジョンボスのゴブリンシャーマンが佇んでいた。
レベルは驚きの10。今の俺達よりほんの少しだけ高い。モレルさんに視線を送ると頷き返してきた。
ゆっくりと部屋に入ると扉が消え、部屋の灯りが点き始めた。
部屋の中は外周に柱があるだけで隠れる場所はそこしかない。
「クギャアアアアア!」
佇んでいたゴブリンシャーマンが咆えだし俺達を見据えていたが、右手に持っていた杖を掲げ詠唱を始めた。
「クギャア!!」
ゴブリンシャーマンは複数の火の玉を飛ばしてくる。
俺は【バリア】を使い火の玉を対処する。
「モレルさん、あいつの動き止めるから砲撃お願いしますね!」
そう言って俺はゴブリンシャーマンに向けて、変形させた回転刃を投げる。
ゴブリンシャーマンは杖で弾き、回転刃は上空に打ち上げられた。
再度詠唱に入るゴブリンシャーマン。俺とモレルさんは的にならないように別方向に走り出す。
ゴブリンシャーマンは俺を狙って火の玉を放つ。防ぐ手段がない俺はひたすら避ける。
放ち終わったゴブリンシャーマンがまた詠唱を始めるタイミングで俺は叫ぶ。
「今だコガネ!」
「シュ!」
最初の火の玉を対処した時に煙に紛れて天井に待機していたコガネはゴブリンシャーマンに飛びかかり首元に噛みつく。
ゴブリンシャーマンがコガネを取ろうともがいているうちに俺は回転刃を回収しておく。
コガネのおかげでゴブリンシャーマンは毒と麻痺状態にすることが出来て少しずつ体力は減っていき、動きも若干鈍くなってきている気がする。
「クギャア!!!」
ゴブリンシャーマンは突然叫びだすと杖を地面に突き立てて直ぐに炎の渦が起きゴブリンシャーマンは包まれた。
「シュッ?!」
コガネが吹き飛ばされたのを確認した俺は急いで駆け寄り受け止め近くの柱の裏側に隠れた。
ゴブリンシャーマンは俺が隠れている柱にひっきりなしに火の玉を飛ばしてくる。
「大丈夫か? コガネ」
「シュ……」
コガネの体力は半分まで削れてしまった。
「コガネ、一旦休んでくれ。あとは何とかするよ」
「シュ!」
コガネは頭を横に振る。
「……そんなに戦いたいのか?」
「シュ!」
コガネのやる気満々の目を見て俺は戻すことを諦めた。
「分かった。ただし、俺から離れちゃだめだからな」
「シュ!!」
やる気満々に答えたコガネの体が急に光りだし、武器に吸い込まれていった。
「え……なんで……やばっ!?」
隠れていた柱がとうとうゴブリンシャーマンの攻撃に耐えかねて折れてしまって急いで別の柱まで走る。
「ハルナ君! 伏せて!」
モレルさんの声がする方を見ると武器を構えて溜めている。そして、直ぐにモレルさんの砲撃が放たれ、俺は身を伏せる。
静かになって俺はゆっくりと立ち上がり辺りを見渡す。相変わらずモレルさんの砲撃の威力は凄まじいな。
モレルさんが駆け寄ってくるのが視界に入る。
「モレルさん、さっきはありがとうございます」
「無事でよかったよ。あのダンジョンボス倒せたのかな?」
未だに砂煙が舞い上がる中央をみてモレルさんが尋ねてくる。
「多分、まだ倒せていないと思いますよ……」
砂煙が晴れると怒り狂った目をしたボロボロのゴブリンシャーマンが姿を見せる。
体力は半分まで削れたけど、モレルさんの砲撃はもう使えない。打撃武器として使えば何とか行けるけどキツイな。
「クギャアアアアア!」
ゴブリンシャーマンが咆えだすと地面がボコボコと盛り上がり沢山の泥状の人型をした何かが生成された。
「クギャ!!」
ゴブリンシャーマンが指示を出す泥状の人型が迫ってくる。
俺は盾を回転刃に変え、モレルさんも武器を持つ。
『ハルナ!』
その時、誰かが直接頭に語りかけてきた。
『ハルナ、僕を使って!』
今度は武器が光り出すと姿が変わっていく。装備している両手の将軍蟷螂の革手袋の甲にリールが装着され、そこから指の方に小さなギザギザの刃が付いたワイヤーが伸びてる形状に変わった。
この武器の使い方が頭に流れてきた。
「ハルナ君それ……」
「モレルさん後ろに」
「う、うん」
迫りくる泥状の人型に向けて俺は叫んだ。
「【共鳴技・スパイダースネット】!!」
指から伸びるワイヤーに触れた瞬間泥状の人型は細切れになっていく。
ワイヤーは勢いを衰えることなくゴブリンシャーマンまで伸びていき囲い始める。
「クギャ!?」
焦り出したゴブリンシャーマンは炎の渦を使い守りに入る。
「そんなことしても無駄だよ!」
両腕を引くと囲んでいたワイヤーがゴブリンシャーマンに纏まりだし繭状に閉じ込めた。
そのままギュッと絞ると繭の内側からゴブリンシャーマンの断末魔の叫び声が響き渡り、盛大なファンファーレが流れ出した。