第147話
「樹海エリア、組合所にようこそ。本日のご用件はクランの設立でしょうか? それとも、上位職に転職でしょうか?」
笑顔だけど少し疲れていそうな受付嬢が用件を尋ねてくる。
「あれ? プレイヤーの方ですか?」
俺は受付嬢の頭の上には名前が表示されていないことに気付く。
「ええ、まぁ……今日が初仕事なのにこんな忙しいとは思わなかった……やめたい……」
「あはは……お疲れ様です」
涙を流して愚痴を零す受付嬢。NPCじゃなくても組合所で働くことが出来るんだな。
「それで、ご用件は?」
「あ、はい。クランを設立したくて」
「では、こちらの用紙にクラン名とメンバー名の記入をお願いします」
受付嬢から用紙を受け取り俺は颯音に渡す。
「俺が書くの? 別に春名が書けばいいじゃん」
「ここはやっぱりリーダーの颯音が書くべきだ」
「うんうん」
海都は頷いて同意する。
「意味わかんないんだけどその理屈……わかったよ……」
颯音は渋々といった表情で用紙を受け取り書き始める。
書き終えた颯音は用紙を受付嬢に返した
「条件もクリアしているので設立が可能ですね。リーダーのハルナさんというのは……?」
「はぁ!? 俺?!」
俺は視線を颯音に向けると、颯音は口笛を吹いて天井の方を見ていた。
こいつ……やりやがったな。
「まんまとしてやられたな春名」
けらけらと笑う海都。
「へへ、俺に用紙を渡すからだよー」
「あなたがリーダーでよろしいですか? 混んでいるので早く決めてほしいんですが……」
「……はい、俺で……」
受付嬢から急かす視線に耐え切れず俺は諦めて頷いた。
「では、クラン設立に手数料をお願いします」
「はい」
俺は受付嬢にお金を渡す。
「以上で申請は終わります。皆さん、プレイヤーカードを見てください」
受付嬢に言われ俺たちはプレイヤーカードを確認する。
プレイヤーカードの名前の上に「所属クラン、テイマーズ[★]」と追加されていた。
「プレイヤーカードに所属しているクランが表記されているのが確認できましたか?」
「この星マークって何ですか?」
「そのマークはクランのリーダーという印です」
「なるほど」
颯音と海都のプレイヤーカードを見せてもらったけど星マークはどこにもなかった。
「あ、それとこのマニュアルもお渡しします」
受付嬢から分厚い本を渡された。
「そちらのマニュアルは後程お読みになってくださいね」
「ありがとうございます」
俺たちは組合所内に設置されている出口への案内の矢印に従って組合所の外に出た。
「この後はハウスのところにいくんだよね?」
颯音が予定を確認してくるから俺は頷いた。
俺たちは転移門を潜り海原エリアに到着。下層にある桟橋に向けて歩いて行く。
途中ルーシャさんのお店に立ち寄ろうか迷ったけど、二人がログインしていないのをプレイヤーカードで確認してやめた。
桟橋に着いて俺は船をインベントリから取り出し海に浮かべる。
颯音に船を操縦してもらい目的地に向かう。
俺はその間に受付嬢から渡された分厚い本に目を通す。
「春名、なんか甘いもん持ってないか?」
「金貰うぞ?」
「ケチだな……はいよ」
海都からお金をもらい洋菓子を渡す。
「コガネたちにも食べさせよ」
「全員呼び出すのか? 流石に窮屈じゃね?」
「あー確かに、順番に呼ぶか」
俺は最近呼び出していないコガネとクロガネとアオガネを呼び出した。
コガネが進化して体が大きくなったからか、コガネは少し窮屈そうに見える。
『ハルナ……ここ狭い……』
実際に窮屈だった。
「そうだな。もう少し大きい船にするのもありだな。コガネ、ケーキ食うだろう?」
『食べる!』
コガネの前に洋菓子を置いていると、クロガネが右足を顎で挟んでくる。
「クロガネ、痛いんだけど……」
『他のみんなは?』
「順番に呼び出しているから後で呼ぶよ。ほれ、クロガネの分」
目の前に置くと足から顎を外して洋菓子を食べ始める。
「アオガネ?」
「アオガネならさっき出ていったぞ」
海都に言われ、俺は船先のデッキに行くと気持ちよさそうに日向ぼっこしているアオガネを見つけた。
久しぶりの海だもんな。
俺はそっと隣に行くと目を覚ましてアオガネは見上げてくる。
「寝てていいよアオガネ」
『う、うん』
俺は腰を下ろしてそっと頭を撫でた。
流れていく景色を見ながらのんびりしていると船に付いているスピーカーから「もうすぐ着くよ」と颯音が教えてくれた。
「アオガネ、泳ごうか」
『うん!』
そう聞くとアオガネは嬉しそうに返事をする。
「颯音、先に行くぞ」
それだけ伝えて、俺は水中でも呼吸できる機械を咥えアオガネに掴まり海に飛び込んだ。
アオガネは凄い速さで海を泳いでいき、船よりも先に目的地の島に辿り着いた。
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