第138話
しばらく海の景色を眺めているとスピーカーからアレンさんの声が聞こえてくる。
『もうすぐ街に着くっすよ~』
アレンさんの声で寝ていた人たちは目を覚ました。
「んー! よく寝た! ハルナ、街に着いたらさっそくやろう!」
「グレンさんたちと予定を立ててからでもいいですか?」
「おう、いつでもいいぞ」
「戦闘狂……」
「うるせぇぞリン」
「お姉ちゃん! トオルさんごめんなさい」
ペコペコと箒に跨ってた女性が謝る。
顔は似てるけど雰囲気は正反対だな。
「何みてんのよ?」
睨まれてしまい俺は視線を逸らす。
「もうお姉ちゃんってば……ごめんなさいねハルナさん」
「えっと……」
「私はラン。こっちがお姉ちゃんのリン」
「ふん」
リンさんはそっぽを向く。
「出発の時に挨拶できなくてごめんなさい」
「あ、いえ。大丈夫です」
後ろからカーボーイ姿の女性が肩を組んでくる。
「アタイはフリッジ。シーガゥの群れを撃退した時は凄かったよ!」
そう言いながらフリッジさんは俺の背中を叩いてくる。
シーガゥとはカモメみたいなモンスターのことだ。
「あ、ありがとうございます」
「フリッジ、叩くの良くないっすよ~」
アレンさんがいつの間にか船内に来ていた。船は動いているから自動操縦にしたんだろう。
「ダーリン!」
フリッジさんは甘えた声でアレンさんの右腕に腕を絡める。
「フリッジ、みんなが見てるっすよ!」
「気にしない~気にしない~」
トオルさんが耳元で呟く。
「こいつら、オフ会で出会ってそっから付き合ってるんだよ」
「へぇーそうなんですね」
道理で仲がいいわけだ。
「ちなみにギンとブレスは仲がいいが付き合っていないぜ。まぁ時間の問題だろうけどな」
指さしながら壁側にいる忍者の姿をした男性がギン、褐色の女性がブレスとトオルさんが教えてくれた。ついでに二人の関係も。
目が合うと、ギンさん手を振ってくれた。俺はお辞儀して返した。
突然、袖を引っ張られ視線を向けるとユランさんだった。
「ユランだよ~よろしく~」
「よろしくお願いします」
ユランさんはプレイヤーカードを渡してくれたので俺も自分のプレイヤーカードを渡した。
他の人たちとプレイヤーカードを交換しているとようやく街に着く。水門を潜ると沢山のプレイヤーとNPCが桟橋に集まっていた。
俺たちの船を見た瞬間拍手喝采が起き、壮大な音楽が流れた。
船を桟橋に付け、最初にディオガさん船から出て、他のメンバーも順番に出ていく。俺は船の中で待つことにした。注目されたくないしね。
騒ぎが引いてから俺は船から降りて、インベントリしまう。そのままグレンさんに連絡を入れる。
ルーシャさんのお店にいるとのことで向かった。
お店に着いてみんなが居る部屋に行く。扉を開けるとなんかババ抜きをしていた。
「お、お帰り~遅かったな」
「戦闘でも見てたのか?」
「はい」
俺はモレルさんに用意された椅子に座り温かい紅茶を飲む。
「すいません。直ぐ戻る予定だったんですけど、あまり見れない戦闘だったので、つい……」
「気にしてねぇよ。カンスト勢のチーム戦なんてそうそう見れないんだからその気持ちはわかるーーっあ!?」
「はい、私の勝ち!」
「くっそう……!」
エレナさんは椅子から立ち上がり勝ち誇った顔をグレンさんに向ける。
グレンさん、相当悔しがってんな。
「最下位のグレンにはこのモレル特製のとても苦い飲み物を飲んでもらいまーす」
嬉しいそうにエレナさんはやばい色をした飲み物が入っているジョッキーをグレンさんの前に置く。
その色を見て俺は引いた。
「ま、まぁこれは一旦置いといて、ハルナも戻って来たから先に予定を立てようぜ!」
冷や汗を垂らしてグレンさんは言う。
どうしても飲みたくなくて先延ばしにしたな。
ベオルさんが手を挙げる。
「俺から一つ提案がある、ダンジョンに行こうと思う」
「どこの? もしかして、砂漠の?」
「そうだ」
エレナさんの言葉にベオルさんが肯定する。
「どんなところなんですか?」
「ピラミッドの形をしたダンジョンでとにかく広いのが特徴だ」
「出てくるモンスターはゾンビ系、ミイラ系、虫系かな〜」
「虫系はハルナ君の得意分野でしょう?」
ユリーナさんが聞いてくるけど俺は渋い顔をした。
「俺のスキルがダンジョンでも使えるかわからないのでなんとも……」
「他に提案はあるか?」
グレンさんが尋ねるが他に提案者はいなかった。
「よし、じゃあそのダンジョンで決まりだな」
「グレン、話も決まったんだからそれ、飲みなよ?」
「うぅ……」
エレナさんの笑顔の圧力に嫌々ジョッキーを持って覚悟を決めて一気にグレンさんは飲んだ。
案の定、グレンさんは悶絶したのだった。
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