第133話
ルーシャさんのお店で洋菓子を買い足して、この後どうするかを暇になったモレルさんも交えて話し合っているとドアの向こう側から「止まってください」と女性の声が聞こえ、扉が急に開いて豪華なマントをなびかせたフルプレートの厳つい男性が部屋に入ってくる。
「ちょっと! 勝手にはいらないでよ!」
モレルさんが注意をしたけど男性は気にせずみんなを見渡す。
「虫使いはどいつだ?」
「そいつになんの用だ?」
グレンさんが立ち上がりガンを飛ばす。
男性はインベントリから何かが詰まった袋をテーブルの上に置くとどさりと重い音がした。
ベオルさんが袋を調べると大量の金が詰まっていた。
「これは前金だ。成功後、同じ額を支払おう」
「仕事内容はなんだ?」
グレンさんが尋ねると男性は扉を閉める。
「悪魔の島まで空を経由して数人のプレイヤーを運ぶ依頼だ」
突然やってきた男性――ディオガさんからさらに話を聞いた。
悪魔の島には船では近づけない。それで、話し合いの結果、気球を作って魔法で打ち上げて少数精鋭で空から行くことになったそうだ。
だけど、街から島まで距離があって魔法使いたちの力も島に着くまでに尽きてしまう。そこで、打ちあがった気球を俺に島まで引っ張ってほしいとのこと。
アインたちが進化したから出来なくもないが……やってみないとわかんないな。
「何人運ぶ予定なんですか?」
俺が質問するとディオガさんは俺を睨んでくる。こっわ……
「俺を含めて十人だ」
十人か……
「ハルナ、どうするんだ?」
静かに聞いていたベオルさんが聞いてくる。
「うーん、やってみないとなんとも。出来たら受けようと思いますけど……」
「お前が……虫使いなのか?」
「盾士です」
そう言うとディオガさんは目を見開く。
「ハルナの盾士は例外だ」
「盾要素ほとんどないよね~」
ベオルさんとエレナさんが会話に割り込む。
「ちゃんと盾を使ってますよ、一応は」
ごほんとディオガさんは咳払いをした。
「話しを続けるぞ。可能なら受けるということでいいんだな?」
「あとは……いつ行くかによりますかね。行けない日なら断ります」
「この大金でもか?」
俺は頷く。
「友人との時間の方が優先なんで」
「……日時は一時間後だ」
「一時間後……」
グレンさんたちと予定あるから今回は断ろうかな。
「あの、今回は――」
「ディオガさんよ、その依頼は島まで運ぶだけでいいんだろう?」
断ろうとしたらグレンさんが質問する。
「勿論だ。島の攻略は俺たちでやる。島に着いたら帰ってもらっても構わない」
「そう言うことだハルナ。この依頼を受けてみろよ」
「でも、グレンさんたちと――」
俺が言うタイミングでグレンさんは人差し指を向ける。
「俺たちのことはそのあとでもいいさ」
「そそ。パパッと送って、パッパッと戻ればいいんよ。そんでお金がっぽり貰おうよハルナ!」
「待っている間、モレルの試作品を食べてますわ」
「試作品まだまだあるから助かる~」
「受るだけ受けてみろハルナ」
「そう、ですね……受けてみます。ディオガさん、さっきの条件でお願いします」
ディオガさんは頷く。
「案内するからつい来てくれ」
「俺もついていくぜ」
「なら、俺も行こう」
グレンさんとベオルさんが付いてきてくれるみたいだ。
「じゃあ私たちはここで待っているね、いってらっしゃい~」
「ハルナ君、気を付けてね」
エレナさんとユリーナさんとモレルさんに見送られてディオガの後をついて行く。
しばらく歩き下層エリアに。少し進み倉庫みたいなところに着く。
そこには個性豊かな装備を身に纏っているプレイヤーたちが集まっていた。
人数は九人。ディオガさんが十人って言ってたし、この人たちが行く人たちかな。
「ディオガ、そいつらか?」
手甲を付けたツンツンしている髪型の男性が話しかける。
ディオガさんは俺の肩に手を置く。
「いや、こいつだ」
「ふーん、そいつね……」
男性は俺のことをじろじろと見てくる。
「名前は?」
「ハルナです」
「トオルだ。よろしく」
トオルさんは手を差し出す。
俺は握手をしようと手を伸ばすとトオルさんは手を掴み背負い投げされた。
空中に投げられた俺は頭上にある鉄骨に糸を絡めて体勢を整え地面に降りる。
「面白れぇスキルを持っているんだな。島行く前に俺と戦おうぜハルナ」
「普通に嫌ですけど?」
「そう言うなよって、俺を楽しませてくれたなら良い物をくれてやるよ」
そう言ってトオルさんはインベントリからキラキラした物を取り出した。
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