第124話
島からかなり離れたところで俺は颯音に言う。
「颯音、そろそろ船を出してくれ」
「わかった。……春名、もう少し高度を下げて。この高さだと出せないっぽい」
「了解」
俺はゆっくりと下降する。
「出せるようになった」
そう言って颯音はインベントリから船を取り出して海面に浮かべた。
俺は船先のデッキに颯音とカイトを降ろしてから船に着地した。
「船を操縦してくる。街でいいんだよな」
「おう、よろしく」
操縦席に向かう颯音を見送り、俺とカイトは船内に戻る。
船内に入ろうとした時に、何か音が聞こえ船先のデッキを覗くとシーセンチピードが船に乗っていた。
俺たちの船をよく見つけるよなあいつ。
「シ、シャ!」
シーセンチピードと目が合いお辞儀された。
俺もお辞儀をするとコガネとシロガネとクロガネが共鳴を解除してシーセンチピードのもとに向かった。
クモガネも共鳴を解除するとアカガネに少し近づく。
「キュゥ?」
「キュン」
「キュゥ」
さっきのことで心配して声をかけたのかな?
まぁ何を言ってるかわかんないけど。
「ハルナ? どうしたんだ……ってモンスター!?」
シーセンチピードを見て驚いたカイトが弓を構えそうになるが俺は止めた。
「ストップ。あいつは大丈夫だから武器を降ろしてくれ」
「え、そう……なのか?」
俺が頷くとカイトは武器を降ろしてくれた。
「そういうのは事前に言ってくれよ……」
「悪い悪い」
軽く謝るとカイトは船内に戻っていく。
カイトを見送ってからシーセンチピードに視線を向けるとびくびくと怯えていた。
あーあ、怖がっちゃったな。
「これ、みんなで食べて」
インベントリから洋菓子を取り出して床に置いた。
「じゃあ、俺は行くよ。クモガネとアカガネもみんなのところ行っておいで」
そう聞くとクモガネとアカガネは首を横に振った。
「コガネ、シロガネ、クロガネ。なんかあったら船内に戻れよ」
それだけ言い残して俺は船内に戻ると同時に船はゆっくりと動き出した。
「お帰り」
船内ではカイトがソファーに寝転がっていた。
「あれ、お前のモンスターたちは?」
「あのモンスターと遊んでいるよ」
俺も空いているソファーに座った。
クモガネは右側に、アカガネは左側に止まる。
「あのモンスターもテイムする予定か?」
「そのつもり。ただ、すっげぇビビりだからなかなか懐かなくて……てか、カイトのせいであいつビビったんだからなあいつ」
「知らねえよそんなことは。それよりも、ドラゴン見た奴いないんだけど……」
「ドラゴンのこと本気だったんだ。あ、あいついるじゃん」
天井を見ていたカイトが俺に視線を向ける。
「ヒドラ」
「あいつは却下。なんか見た目が嫌だ」
「わがままだな。なんならいいんだよ?」
カイトは少し考えてから口を開く。
「やっぱりファンタジー映画とかに出てくる炎を吐くドラゴンっしょ!」
「毒の方も強いと思うけど?」
「炎を吐く方がいいに決まってんだろう!」
「知らんがな」
熱弁するカイトに呆れる。
ドラゴンならいそうだけど、見かけないというならもっと奥の方……モンスターのレベルがカンストしているエリアにしか出ないのかもしれない。
カレンさんならなんか知っていそうだな、今度聞いてみるか。
「一人だけ知っていそうな知り合い居るから今度会ったら聞いてみるよ」
「お、おう」
『春名、カイト。もうすぐ街に着くよ』
スピーカーから颯音の声が聞こえる。
「コガネたちを戻してくる。クモガネ、アカガネ戻れ」
二体を戻してから立ち上がた俺は船先のデッキに向かう。
「コガネ、シロガネ、クロガネ。そろそろ街だから戻すぞ」
三体はシーセンチピードに別れの挨拶をしてから俺のところにくる。
洋菓子は全部食べてくれたようだな、ルーシャさんのお店で補充しないとな。
集まってきた三体を戻して、こっちを見るシーセンチピードに声をかける。
「また来いよ」
「シャ……!」
手を振って立ち去ろうとしたらシーセンチピードが俺に近づいてくる。
俺は中腰になり視線を合わせる。
「どうし――」
『春名! 急いで船内に戻って! なんかくる!』
スピーカーから颯音の声がした瞬間、海のあちらこちらで水柱が立ち、無数の触手が現れた。
「うおっ!」
船が浮き上がり俺は咄嗟に手すりを掴んだ。
船は凄い衝撃とともに海面に落ちて、俺は衝撃に耐えきれずに手すりを離して海に投げ出されてしまった。
海に落ちた俺は急いで呼吸機械を口に咥える。
「ぐっ……!」
一本の触手が俺の足を掴んで深海に引きずり込もうとする。
「シャ!」
すると、どこからともなくシーセンチピードが駆けつけ、足に絡んでいる触手を断ち切り俺を連れて、海中を凄い速さで動く。
沢山の触手は無差別にモンスターを引きずり込んでいた。
俺たちは触手の攻撃を避けながら海中を移動していると、シーセンチピードは見えない壁に衝突した。
「シャ?」
シーセンチピードは何度もぶつかるが先に進めない。
俺は手を翳すが壁はなく、すんなり先に行けた。
後ろには街を囲う外壁のようなものがある。ここから先はモンスターは入れないのか。
「!!」
シーセンチピードの後ろから触手が近づいているのをみて、シーセンチピードに浮上するように手で合図する。
浮上した俺は呼吸機械を外して言う。
「この中に入れば安全だ! 俺の仲間になってくれ! アオガネ!」
シーセンチピードの額に手を翳し名前を呟くと紋章は光りだして、シーセンチピードの体は光りの粒子になって紋章に吸い込まれた。
よし、テイムに成功した!
触手は見えない壁にぶつかり、引き下がっていく。
その光景を見て俺は心の底から安堵した。
「ハルナーー!」
カイトが俺の名を叫んでいる。
「こっちだーー!」
俺は手を大きく振って場所を知らせると、船はゆっくりと向かってくる。