第108話
「なるほど、状況は理解した」
そう言いながらカレンさんは大斧を投げて蛇のモンスターを真っ二つにした。その光景を見て顔が引き攣る。
あのモンスター、レベル37なのに一撃って……怖っ!
「どうかしたのか?」
「え? あー……なんでもないです……カレンさんってお強いんですねぇ〜」
「そんなことはない、私よりも強いプレイヤーは山程いる。恥ずかしながらイベント戦は不意打ちを受けてしまい脱落してしまったのだ……」
落ち込むカレンさん。相当ショックだったんだな。
「次は油断はしない……!」
そう意気込みながらカレンさんが掴んでいる木が変な音を立ててる。この人やっぱりこえー!
「が、頑張ってくださいねカレンさん」
「ありがとうハルナ。お、また幼虫たちが集まってきてるな」
「そうですね……」
ビートルワームたちは蜂蜜が欲しくって俺に集まっているのだ。だから、蜂蜜をあげれば離れてくれるのだ。
俺はインベントリから沢山の蜂蜜を取り出して地面に置いて離した。
この様子だとテイムは出来そうかなぁ。
ビートルワームたちに近づくと、全員見上げて俺を見てくる。
一体のビートルワームの額に俺は手を翳した。
「アイン」
俺の右手にある紋章が光り、ビートルワームが光の粒子になって紋章に吸い込まれていった。
一体目は成功したか、続けてやってみよう。
順番に額に手を翳して名前を呟いてく。残りの五体を光りの粒子になって紋章に吸い込まれた。
「六体テイムしちゃったか……」
ちなみに残りの五体の名前はツヴァイ、ドライ、フィーア、フュン、ゼクスだ。
一気に六体仲間になったけど育成大変そうだ。
「おお! 今のがテイムなのか! なんでもテイム出来るのか?」
目を輝かせてカレンさんが聞いてくる。
「なんでも……はわからないけど、運が良ければ出来ますよ」
「私にも可能ってことだな! この後、時間はあるか? テイムが可能かどうか見てもらいたいんだが……」
俺は時間を確認した。兄ちゃんの弁当を作るからそろそろログアウトしないといけないか。
「ごめんなさいカレンさん、俺そろそろログアウトしないと行けないので……」
「そうか……」
しゅんとするカレンさん。
「あー……明日の昼以降なら大丈夫ですけど――」
「本当か! なら、明日の昼1時に樹海エリアの転移門前に待ち合わせしよ!」
食い気味でくるカレンさん、勝手に待ち合わせ時間と場所を決める。
「遅刻厳禁だからな!」
そう言ってカレンさんは去って行った。
「嵐のような人だな……てか、返事してないんだけど……」
プレイヤーカードを交換してないから、連絡する手段がない。遅刻出来ないな、これは……
「帰ろう……クモガネ、また【共鳴】を頼む」
「キュゥ」
光りの粒子になったクモガネは黒い球体に吸い込まれた。
翅を展開するとコガネとシロガネとクロガネの三体も【共鳴】を使った。
「ただ、街に戻るだけだぞー」
『共鳴したいだけだから気にしないで!』
『そうそう! 気にしなくていいからねハルナ!』
コガネの意見に同調するシロガネ。
『やっぱりハルナのこと好きなんだね、コガネもシロガネも』
『『余計なことを言わないでクモガネ!!』』
『怒られちゃった……』
落ち込むクモガネ。
『ハルナって意外と鈍感だよね』
クロガネの言葉に頭を捻る。
「普通だと思うけど、そんなに鈍感か?」
『知らない、自分で考えて』
クロガネは教えてくれない様子。
「なぁ――」
『『僕(私)たちに聞かないで!』』
コガネとシロガネに聞こうとしたら速攻で拒否られた。
『僕はハルナのこと好きだよー』
「そう言ってくれて嬉しいよクモガネ」
翅を羽ばたかせ上空に舞い上がり、俺たちは街に戻っていく。クロガネの言葉を考えていたらもう街が見えてくる。考えるのは後回しだ。
街の手前で地上に降り、コガネたちを戻してから街に入り、そのままログアウトした。
現実に意識が戻った俺は弁当用の材料を下拵えする。
「げっ! もうこんな時間!」
大分時間が経っていることに気がつき、急いで冷蔵庫にしまい、俺は眠りに就く。
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