第1話
帰りのHRが終わり急いで勉強道具を鞄に突っ込み教室を出た。
下駄箱に着いて「小日向」と名前が書かれている下駄箱の蓋を開け、靴を履き替えて自転車置き場に向かう。
自転車の籠に鞄を入れ自転車に跨ぐと、遠くからクラスメイトが呼ぶ。
「春名ー! カラオケ行こうぜー」
「悪い! 今日は予定があるから行けない!」
「わかったー!」
立ち去るクラスメイトを見送ってからペダルを漕いで学校を後にした。
寄り道をせずに居候先である兄ちゃんが住んでいるマンションに帰宅。玄関のドアを開けると美味そうな匂いが漂ってきてお腹が少し鳴ってしまった。
リビングのドアを開けるとキッチンで料理をしている兄ちゃんが視界に入った。
テーブルにはいつもより豪勢な料理が並んでいる
「お帰り春名。朝言った通りに早く帰ってきたな。もうすぐ出来るから」
「今日はなんか豪勢だね。なんかの日?」
そう聞くと兄ちゃんは目を見開いて俺を見た。
「今日、お前の誕生日だろ? 忘れていたのか?」
「あ、今日は俺の誕生日じゃん!」
カレンダーの日付を見て今日が誕生日だったことを思い出した。
ちょっと学校が忙しくてすっかり頭からすっぽ抜けていたな。
「マジかよ……まぁいい。さっさと着替えてこい」
「はーい」
自室に戻り着替えてからリビングに戻ると、兄ちゃんに席についていろと言われた。
並び終えた兄ちゃんはエプロンを外して向かいの席に座る。
「えー、本人が忘れていたという衝撃的なことがあったけど、誕生日おめでとう春名」
「そこは触れなくてもいいじゃん」
「これは俺からの誕生日プレゼントだ」
「ありがとう兄ちゃん。開けてもいい?」
兄ちゃんは頷き、ゆっくりと包みを剥がすとプレゼントの中身は最新のヘッドギアと最近発売されたVRMMOのレゾナンス・オンラインというゲームソフトが入っていた。
レゾナンス・オンラインとは百以上のジョブと百以上のスキルが存在して広大なフィールドを冒険したり、何かを作ったり、農業したり、はたまたのんびりと遊んだりと自由度が高いゲームだ。
テレビの広告を見た時から惹かれてやりたかったけど、ヘッドギアが高すぎて諦めていたけど、まさか兄ちゃんから貰えると思ってなかった。
「兄ちゃん、本当にありがとう! めっちゃ嬉しい! 大事に使うよ!」
「そうか。あ、そうだ。一つだけ約束な」
「約束?」
「ゲームのし過ぎで成績が下がることがあれば没収するからな。来年には受験なんだから勉強も欠かさずやること。この約束守れるか?」
「勿論! 絶対守るよ兄ちゃん」
兄ちゃんと指切りを交わした。
「よし、冷めないうちに食べるぞ」
「はーい」
箱を床に置いてから兄ちゃんと一緒に夕飯を食べた。
食器洗いを手伝ってから部屋に戻って早速セッティングする。
ヘッドギアをつけ、ベッドの上で横になりスイッチを入れると、段々と意識が遠のいて行く。
「ここは……」
気が付くと本棚が沢山並んでいる場所に立っていた。
辺りをキョロキョロしていると一冊の赤い本が目の前に飛んできてパラパラとページが捲れ止まった。
「えっと……あなたの名前は? か。特に決めてないし自分の名前でいいか」
本に触れるとキーボードが出てくる。そこにハルナと入力すると本は閉じ別の所に飛んでいった。
すぐに別の方向から青い本が目の前に飛んできた。
「今度はジョブか。いっぱいあるけど、どれがいいんだろう……」
無難に剣士とか槍士とか近接職がいいのか、遠くから狙いすまし射抜く弓士か、はたまた魔法職か。
回復とかできる治癒士でもいいかも。うーん、迷うな。
「お、これなんかいいかも」
俺が見つけたのは盾士。攻撃手段は少ないがどんな攻撃も防ぐ守りのエキスパート。
VR初心者だし、守りあった方がいいよな。これにしよっと。
盾士を選ぶと本が三つに分裂し、体が隠れるほどの大盾、腕に付けられるバックラー、そして手に収まるほどの小さい球体が出てきた。
球体に触れると光りだし、半透明のパネルが展開され六角形の盾になった。
「おお、カッコイイ!」
俺は興味を惹かれ詳細を確認した。
トランスシールド。プレイヤーしだいで変幻自在に変形する盾。
「うん、これにしよう!」
決定ボタンを押すと、トランスシールドは右手に吸い込まれ、右手と一体になり紋章が現れた。
すると、俺の足元が光り始め、徐々に光は広がり、本棚は光の粒子になっていく。光が収まると青空が広がっていた。
「……マジで?」
視線を下に向けるとあるはずの床はそこに存在していなく空中に放り出されていた。
俺はそのまま地上に落下していった。