天真爛漫
第二部です。読んで頂けたら嬉しいです。
宜しければ感想もお願い致します。
指定された横浜駅へ到着したのは13時。
改札を抜け、地上への階段を上がると小さな売店の前に彼女はいた。僕を見つけ、人目を憚らず笑顔で大きく手を振るその姿は滑稽で近寄り難かった。
「家光君!カモーン!」
近くを歩く外国人が2人振り返る。周りの日本人は驚き、彼女に視線を送った。
僕は俯きながら彼女の元へ近寄る。
「私の発音が良いから2人も外人さんが振り返ったね!」
と得意げに言う彼女の代わりに近くにいたかもしれない本当の家光さんに心の中で謝罪した。
「じゃないよ!遅刻だよ!1時間も遅刻!横浜市の時給は1000円くらいだから1000円の罰金だよ!」
「じゃあ、僕の1日を奪うつもりの君はいくらの罰金になるの?」
「奪うだなんて人聞きが悪いですなぁ。でも物は言いよう!私は家光君の為に家光君の休日を奪うんだよ!人の為に奪う!鼠小僧みたいな私に感謝してもいいんだよ?」
「それで鼠小僧は僕をどこに連れて行くの?」
「まあ、そう焦りなさんな。まずは私を鼠小僧と呼ぶのをやめよう!そして動物園に行こう!」
ため息を飲み込み、無駄な反論をせず電車で30分程の動物園へ連行された。その間も彼女は喋り続け、僕は相槌を疲れる程打った。
中山駅で下車し、程なくして目的地には到着した。
彼女は終始、高揚感を溢れさせていた。犬なら尻尾が千切れるほど降っていただろう。
到着した動物園はとても良心的な入園料で鼠小僧は何故か自慢げにその料金を僕に紹介した。
「お邪魔しまぁーす」
と陽気に入園口を通る彼女。
僕は本能から距離を取る。
そんな僕に気付いた鼠小僧はもう一度入園口に近づきやり直すように歩き出した…忍足で。
「私鼠小僧だもんね!そろりそろり」
何故か嬉しそうに笑みを溢し歩く彼女。
人目を憚らない姿を見て
「何をしてるんだ…」
と僕は彼女と僕に対して呟いた。
「家光君!、家光君!家光君!」
「その名前で呼ばないでくれ、恥ずかしい」
「動物がたくさんいるよ!!」
「もしかしたらここは動物園なのかな。」
「もー!そういう事を言ってるんじゃないの!見て!あれみんな生きてるんだよ!」
何を当たり前な事を言っているんだ…
そんな事は幼稚園児だって分かっている。
彼女は変な事を言う。
キリンを見て首が長いと感動し、
ゾウを見て鼻が長い、
ウサギを見てネコだと。
最後のは本当に分からない。
15時を過ぎる頃、オカピを見ていた時に
「グゥゥー」と低い音が聞こえた。
丁度彼女のお腹の辺りから。
「今のはなんの鳴き声かな。」
すると彼女は照れ隠しか腕を高く挙げ、
指を上に刺しながら
「私のお腹の猛獣が騒いでる!!」
「それは怖いね。そろそろ帰った方が良さそうだ。」
「何を言いますか!今日は始まったばかり!まずは遅めの昼食へ!!」
るんるんと歩き出す彼女。
そう言えば僕もまだ何も食べていなかった。
きっと彼女は僕を待っている間空腹に耐えていたのだろう…
もう少し、付き合うか。
読んで頂きありがとうございます。
二部目は短めにしてみました。
感想やご意見を頂けると嬉しいです。
三分目も投稿致しますので宜しくお願い致します。