処理完了
「気合いを入れる必要は無い。いつも通りだ」
「「はい」」
暗殺するのに気負う必要は無い。呼吸をするように。起きて、飯を喰い、殺し、寝る。単なる日常の一部だ。相手が誰であろうと何も変わらない
「時間だ。行くぞ」
相手が貴族だろうと、王族だろうと関係無い。護衛が何人居ようと対象を殺して終わりだ
「返事はどう……した」
2人が返事をしないので、後ろを振り返ってみると居なかった。どういう事だ……
「……」
落ち着け。2人消えたが、まだ反対側に2人残っているから仕事は出来ると捉えるか、あの一瞬で2人をこの場から消す程の化け物が何処かに居るから標的を消すのは無理と捉えるか……
「~~~♪」
「……!?」
何処かから笛の音のような物が聞こえてきたと思ったら声が出なくなった。声だけでは無い。自分の足音も、武器に手を掛けても音が聞こえない。明らかな異常事態だ
「あなた良いですね」
「……!?」
さっきまでまるで気配すら感じなかったのに後ろに何者かが急に現れて気が付いたら天地がひっくり返っていた
「まぁ、やろうとしている事はダメですけど」
「…………っ!!」
全身を貫く雷を浴びたような衝撃で意識を勝手に失ってしまう。せめて最後に相手の顔だけでも確認しないと……
「時間も無いのでさようなら」
最後に見えたのはこちらに伸ばされた手。相手の顔を確認する事は出来なかったが、今回の仕事はとんでもない難易度だったようだ……
「何してるんだ……」
「なんだ。まだ合図が来てないのか」
「全く、アイツらまたか」
この仕事を終わらせれば大金が入ると言うのに何をもたついてるんだ?
「もう俺達だけで……っ!」
「あ?何だこの音……っ!?」
何か笛の音らしき物が聞こえて来たと思ったら声が出ない。どうなってるんだコレは……
「今日はお客様が多くて忙しいですねぇ?」
「「……!」」
何だこいつは……明らかにプレッシャーを感じる気がするのにそこに居るのかどうかも分からない希薄な存在。相反する圧をコイツから感じる
「では」
「「……!」」
執事が妙な笛を吹いたと思ったら突然耳を劈く様な雑音が聞こえてきた。なんだこの音は……明らかにあの笛から聞こえる音では無いし、こんな音なら周りの奴が気が付かない訳が無い。どうなってるんだ……
「……」
雑音で一瞬前から目線を切った瞬間に執事の姿が消えた。奴は、奴は何処に行った?
「全く、仕事が増えて大変ですよ。特別給与とか無いんですよ?」
執事が仕事の愚痴をこぼしたと思ったら背中に激痛。かと思えば次は腹からこみ上げる吐き気。鳩尾に一発喰らったのか?全く認識出来なかった……なんだこのバケモンは?王族はこんなバケモンを飼いならしてるのか……
「……っ!?」
男として致命的な一撃。暗殺者だからとこんな所まで鍛えてる訳ないだろ……
「ふぅ、全く。にしてもセーレさん。戦闘まで協力してもらって悪いね?」
(まだ前払い分しか払ってもらってないけどな)
「オッケー。仕事が終わったら好きな物作ってあげるからね」
シンフォニアを持つ際にハーモニカ状にしてしまえば邪魔にならないし、ちゃんと音を選択して届ける事も出来た。範囲指定【ハシャフ】で試合に集中している周りに気付かれない様にして、【ノイジック】で耳を塞がせた直後にセーレさんによるワープで敵の背後に移動。暗殺者らしき集団に対しても有効だったし、一通り気絶まで持ち込んだらセーレさんが相手を送ってくれるので、戦闘の痕跡もほぼ残らない。どっちが暗殺者だと言わんばかりになってるなぁ
「でも、これで一応さっき感じ取った怪しい気配は全部捕まえたかな」
フードを被ってた奴とか、怪しい位置に陣取ってた奴は捕まえ切ったと思う。これ以上何か起こるって言うならそれは新しく外部から何かやって来るくらいしかないだろう
「とりあえずこれで席に戻ってももう問題無いかな。流石に少しくらい試合を見たいよ」
あの人達が目指してただろう場所は特別な観客席みたいな感じになってる所だからそこは迂回して席に戻ろう
「ルクレシアさん。どうです?怪しい奴居ました?」
「あ、ハチさん。いえ、今の所はまだですね」
「良かった良かった。お腹の調子がやっと良くなってきたので……」
「それなら良いですけど、緊張したらお腹痛くなりますもんね。薬草茶ならありますけど飲みます?」
「いただきます。おー、これ美味しいですね。これはルクレシアさんが?」
「はい、作ってきました」
「お腹にも優しそうです。ありがとうございます」
「い、いえ……」
温かいお茶を貰って喉を潤す。試合の方は……あれ?もしかしてもう終わっちゃう所か
「さぁ!会場の皆様!模擬試合はここまでとなりますが、実は今回、会場の皆様に豪華賞品のチャンスがございます!」
何か急にアナウンスが掛かった。なんだ?
「今回、来場の皆様の中に腕に自信がある方!先程模擬戦の最終試合をしていた学生の攻撃を見事避ける事が出来たら豪華賞品を進呈させていただきます!」
なんだその条件……
「やるぜ!」「やってやる!」「豪華賞品ゲットだ!」
所々でやる気の声が聞こえるけど、今やる気の人達は話を分かってるんだろうか?攻撃を避けるんだぞ?反撃で倒す訳じゃないのに筋骨隆々の人とかも普通に手を上げてるし
「ハチさんは行かないんですか?」
「あの、ルクレシアさん?僕達護衛ですよ。そんな所に勝手に行ったらマズいじゃないですか」
「え、でも……」
ルクレシアさんが見つめる先を見てみたらそこには2人手を上げるピンク髪の姿が目に入った




