利用される者
「今日はお前らの初任務だからな。気を付けるんだぞ」
「「はい!」」
「まぁ、この辺はそこまで凶悪な奴も居ないし、居たとしても先に見つけるから安心しろ」
「はい!」
「お願いします!」
今日が初の実戦という剣士と白魔術師の2人を連れて森で実践訓練をする事になったが、まぁ森の猿や猪程度であればこの2人でもどうにかなるだろう。強いて言うなら熊とか来ると危険かもしれないが、熊ならこの2人が気が付くよりも先に感知して全員で逃走出来るだろう。弱腰だの逃げ腰だの言われているが、新人は生き残る事が出来なければ成長する事が出来ない。勇敢だとしても力が伴わなければそれはただの蛮勇。生きて帰る事を最優先にするべきだろう。そのせいなのか、よく新人教育を回される事が……
「丁度良い。まずはあの兎を倒してみろ」
「へ?兎?」
「楽勝ですよ!はぁ!」
兎に対して切りかかる剣士。簡単に一刀両断して兎を倒す。が
「言ったでしょ。この程度楽勝です!」
「よくやった。と言いたい所だが、そんな風に切ってしまうと取れる毛皮の品質があまり良くない。自身の技量に余裕があるのなら可能な限り外傷が少ない突きで倒した方が良い。雑に戦うと色んな意味で自分の為にならないからな」
あまりそこに固執してしまうと危険だが、この森で出てくる程度の奴であれば失敗しても撤退して、反省する事が出来る。多少の挫折は経験した方が自分の為にもなるし、基礎を鍛えるのは良い事だ
「なるほど……勉強になります!」
「えっと、じゃああそこに転がっている死体は?」
「ファイターモンキーか。ん?ん!?」
白魔術師の子が指差す方を見てみると、草陰にファイターモンキーの死体が転がっていた。見た所切り傷も刺し傷も無い。剣や弓で倒した訳では無さそうだが……毒か?
「これは!ほとんど傷が無い……焼けたり、凍ったりしてないし、どうやって……」
「本当にどうやって……こんなの誰が……」
「……背後から毒蛇にでもやられたんだろう。いいか、どんな事にも絶対は無い。最大限注意はするが、俺も見落とす事はある。2人も警戒を怠るな。俺も駆け出しの頃に毒蛇に噛まれた事があるが……あれは辛いぞぉ?」
「「っ!はい!」」
仮に毒蛇の仕業だとしたら、死体の影に毒蛇が居る可能性がある。新人に注意力を付ける為にもこの死体は利用させてもらうが……もっと警戒度を上げておこう
「あの……さっきから傷らしい傷が付いてない死体が何体もある気がするんですけど……これも毒蛇の仕業なんでしょうか?」
「これは流石に毒蛇では説明がつかないな……一度帰還しよう」
「こういう時は調査しに行った方が良いのでは?」
明らかに異変が起こっているから調査しに行くべきだが、これは流石に相手が不明で危険過ぎる。獣の爪痕などがあれば新人達を連れて調査に行く事も考えたが……何処にも痕跡らしき物が無いのも不気味だ
「じゃあ仮にこのまま3人で調査に向かったとしてそこに強敵が現れ全滅してしまったとしたらどうなる」
「……この森に何か得体の知れない存在が居る事が分かっているのは今はこの3人だけ。その3人が帰る事が出来なかったら、現在の森の危険性を伝えられなくて更なる被害者が出てしまうかもしれない……」
白魔術師の方は中々に先が見えているみたいだ
「敵を確認すべきという気持ちは分かるが、まずは自分達の身の安全を確保しろ。何より危険なのはこの死体。まだ温かい。これがどういう事か分かるか」
「倒されたばかり……つまり、まだこの近くに居るかもしれないって事ですか」
剣士の方もほぼ正解に辿り着いて辺りを警戒しているが、これは正直俺の手に余る
「正解だ。ただ、一番マズいのは俺は索敵をしながら進んでいたハズなのに、その索敵に引っかからずに敵が倒されている事だ」
「「!?」」
こちらの索敵範囲ギリギリで敵を倒し、死体を放置している。そうでなければこのまだ温かい死体が残っているハズが無い
「街に帰還するぞ。殿は俺が務める」
「「はい」」
これは流石に異常過ぎる。早く街に戻ってこの森の異変を伝えなくては……初戦がこんな事になるなんてな……こいつらもツイてない。が、教育係としてこいつらは絶対に守り抜いてみせる
「こいつは……持ち帰ろう」
森も後少しで抜けられそうになったので、最初に見つけたファイターモンキーの死体を持ち上げる
「その死体を持って帰るんですか?」
「何かの目印として置かれている可能性もあるが、この森に居る謎の存在の攻撃手段がコレを持ち帰る事で分かるかもしれない。調査の一環として持ち帰る」
「それなら僕が持ちます!筋力は多分このパーティの中だと一番高いと思うので、パーティ全体の機動力低下が抑えられると思います」
「よし、敵が出た場合はすぐにその死体を捨てろ。そして街まで逃げるぞ。生きていればチャンスは来るが、死んだら終わりだ」
「「はい!」」
こいつらは強くなるな
「よし!最後まで油断するなよ!」
「「はい!」」
後少しで森から出られる。そういう時が危険だから気を引き締めさせる。何も来るなよ……
「あ、そこの御三方」
「「「っ!?」」」
おかしい。なんだこの執事は……とっくに索敵範囲内なのに、今の今までコイツの気配が全く掴めなかった
「その死体、持ってきてしまいましたか」
「はっ」
すぐに死体を地面に落として戦闘態勢を取っている点は褒められるが、コイツの隠密能力なら声を掛ける前に俺達全員殺れるハズだ……
「申し訳ありません。私の鍛錬でご迷惑をお掛けしました。森の中に落ちてた猿の死体は全て貴方達にお渡しします」
「「「え?」」」
「お嬢様をお守りする為の鍛錬でしたが、ご迷惑をお掛けしてしまったのなら別の鍛錬を致しましょう。では」
そう言って謎の執事は目の前から消えてしまった
「んー、一応協力してくれたお礼として残して来たけど、ちゃんと回収してくれるかな?」
適当な作り話を作って、残したモンスターの死体処理を任せたけど、流石に言葉足らずだったかなぁ?まぁ別にもうどうでも良いか!




