迫る選択
「貴様は自分の便所の掃除すらマトモに出来ないのか!」
「はい!すみません!」
「徹底的に磨け。それが今の貴様の姿だ。クソ虫」
まずは部屋の掃除と言う事で居間以外の部屋の掃除をする事にしたけど、和式トイレに若干の黒ずみがあったので綺麗に掃除させる。立場を分からせるというか、厳しく当たるならドラマに出てくる嫌な姑みたいな立ち回りがベストかも
「あの…」
「なんだ」
「掃除用具が……」
置いてあった掃除用具は正直古すぎて使い物にならない
「だからどうした。何も無いのなら素手でやれ。何かあるならそれを使え」
「は、はいぃ!」
両手から冷気を放ち、ブラシのような物を作り出したセッカさん。それで良いのかちょっと疑問だけど、半泣き状態でちゃんとトイレをピカピカにしていく所を見たらそこを指摘しなくても良いだろう。やる事はちゃんとやってる
「終わりました!いかがでしょうか!」
「ほう、やれば出来るじゃないか」
「へ、へへへ……」
流石に作業の邪魔にならない様に【恐怖圧】は切っておいたけど、三下感滲み出てるなぁ……
「出来るなら最初からやれ」
「すみませんでしたぁ!」
【恐怖圧】を再起動させたらまた直立の姿勢で返事をするセッカさん。ちょっと面白いな。とりあえず展開を続けたら会話にならないから逐一解除はしてるけども
「あの…こ、この次は……」
「なんだ、指示が欲しいのか?」
「お、おねがいしましゅ…」
噛む程怖いか……でも【恐怖圧】はもう解除してるからこれ以上低減とか出来ないんだけど…まぁ、掃除が終わったなら次は……
「自身の住居の清掃を終えたなら今度は自分が喰う分の飯でも取ってこい。手を抜けばどうなるか分かってるな?」
「行ってきます!」
セッカさんが敬礼して家から出ていく。やる気はありそうだ
「よし、行ったな?あっ!やられた……」
セッカさんが外に出たのを確認したら即座にシロクマコスチュームを着て体温を確保する。外に出ようと思ったけど、外出する時に家に鍵を掛ける感覚でなのか、家の玄関が氷漬けにされていた。閉じ込められた……
「窓もガッチガチに凍って開かないな。これじゃあ出られないか」
家を破壊すれば出られるだろうけど、家に罪はない。この家はセッカさんの両親が残してくれた大事な家だろうから、想いを尊重してそういう選択は取りたくはない
「どうするかな。一応紅茶とかは持ってはいるけど……軍服を着てるならコーヒーだよなぁ。ブラック飲めないけど」
家に閉じ込められてるし、セッカさんが帰ってきた時にコーヒーでも飲んでる状態で待ってようかと思ったけど、コーヒーはそもそも持ってないし、ブラックのコーヒーもそこまで得意ではないからちょっと恰好が付かないかな。とりあえず何か飲んで待つのは止めておこう。寝て待つのも違うな……何か資料でも書いている風が良いかな?
「取ってきました!」
「あぁ…肉ならば薄く切って湯の中に突っ込んでおけ。それで喰える」
【察気術】でセッカさんの反応を確認したら即座に軍服に変えて、今後の計画って程でも無いけど、フィフティシアに戻った時の警護計画とか書いていたらセッカさんが戻ってきたみたいだ。とりあえず、失敗する方が難しいだろうしゃぶしゃぶをかなり雑に説明したけど、合ってるかな?肉を焼いて焦がしてしまうなら、茹でるのが一番だ
「あー、いや、その……」
「ん?なにを取って来たんだ?」
そこにあったのは野菜。キャベツやほうれん草、ニンジンといった越冬野菜的ジャンルの物が並んでいた
「ほう?中々良い物ではないか」
これならポトフとか美味しそうだけど……ここで僕が作ったらまたさっきと同じ様な事になってしまうだろうから作りたい欲をグッと抑える
「あの…出来れば作っていただけたらなぁと……いや、やっぱり何でもないです!」
甘ったれた事を言い出したので【恐怖圧】を展開したらすぐに提案を取り消した
「貴様が一口で食えると思うサイズで肉と野菜を切って、コップ一杯の水とスプーン1杯の塩で茹でろ。あとはお前お得意の酒を少量加えて味を調えると良い」
「あ、あの……」
「今度は何だ。まさか料理出来ないとでも言うまいな?」
「その、今教えてもらったものの中でいま家には酒しか調味料がありません!」
そういえば塩は僕の持ってる調味料から出したんだった。この家には塩がないから味付けが非常に難しい。うーん……確かにこれは由々しき問題だ
「貴様の見た目ならば人のフリをして調達する事は可能なのではないか」
「もしかしてシクサームの事ですか?あそこはダメですね。入口で追い返されちゃうので」
あぁ……そういえばあそこは僕も拒否されたからなぁ
「生きていくのは難しいですけど、この家を捨てる訳にもいきませんので……」
「つまり貴様が一番大事なのはこの家なのか?」
「はい」
解決法は簡単だが……でもなぁ?
「ならば問おう。この家の為に働けるか」
「え、いや、えっと……」
「ならば致し方あるまい。俺が教育した者が働く事も出来ない様であれば、後顧の憂いを断つしか無いな。家が無くなれば生きる為に本気になれるだろう」
「働きます!頑張って働きます!なのでそれだけは!」
家を人質にするような事をしたくないけど、今のままグータラ酒浸り生活を続けさせない為にも一肌脱ぐか
「よし!良く言った。それならば貴様に働き口を紹介してやろう!どうした喜べ」
「わ、わーい……いったい私どうなっちゃうの……」
またセーレさんに一仕事頼みますかね。丁度供物になりそうな食べ物も作れそうだし
 




