鬼の復活
「やだやだ!行っちゃやだ!」
「えぇ……」
「ぶぇぇぇ!こんなご飯作れないし、部屋も綺麗になってるし、こんな良い奴手放せないよぉぉ!行かないでぇ!」
「うっわ……」
ヤバい、これモルガ師匠以上のダメ人間だ
「いやいや、今まで1人で生活出来てたんだからこれからも出来ますって」
「絶対逃がさない……こんな尽してくれる人が来たのは運命だからぁ!」
何とか引き剥がそうとしてみたけど、かなり力強い……もの凄い執念を感じる
「いや、単なる偶然ですから!」
「いーや!運命だね!逃がさない!」
クッソ…何とか振りほどいて逃げようと思ったらさっきまでグータラだったのに、こんな時に限って機敏に動いて外に繋がる扉の前に陣取られた……
「それだけ元気なら絶対1人でやっていけますって!」
「ハハハハハ!生活の水準が上がるって分かってて手放すバカは居ないわぁ!独り身の雪女の執念舐めんなぁ!」
「くっ……」
セッカさんが手から冷気を放ち、窓を氷で封鎖された。退路が無くなっていく……雪女らしい所をこんな所で見せないでほしい
「この辺で止めておきませんか?今ならまだ間に合いますから……」
「ハッハァ!ここで一生私と暮らすんだよぉ!」
いやもうイキイキし過ぎでしょ……絶対1人で暮らしていけるって。でもこれは流石にやり過ぎだ。多少お灸を据えた方が良さそうだな。一応あと3回までがチャンスかな
「もう一度考え直しましょう?」
「ヒャッヒャッヒャ!よく見たら見た目も良いし、これは最高のパートナーになってもらわないとなぁ!」
1アウト
「冷静になってください。まだお互いの事も分からないのに何を言ってるんですか?」
「クハハハ!名はセッカ!歳は136!趣味は酒!よろしくどうぞ!」
2アウト
「最後の警告です。この家の封鎖を解いて、外の吹雪を止めてください。じゃないと……」
「ノコノコやってきた優良物件を解放する訳無いだるぉ?私の輝かしい生活の為に一緒に暮らして行こうね!ダァーリン!」
はい、3アウト。終了です
「……どうやら教育が必要な様だな」
「へ?」
久々に鬼教官モードを使うしかないな。寒いけどお説教が終わるまでは何とか持つだろう。とりあえずテアトルクラウンの服を即座に軍服にして、首輪にしていた仮面を軍帽に変えて後ろ手に腕を組んで休めのポーズを決める
「アイツは緩すぎてダメだ。貴様のようなウジ虫は俺が叩き直してやる。そこに直れ」
「え?いったい何を言って……」
咄嗟にやったけど、二重人格的なノリでやるのが一番の突破法な気がする。この人に気に入られたままだとここから帰る事が出来ないし、かと言って単純に突き放してしまうと自ら命を絶つ可能性がある。幸い、一人で生きる能力自体はあるはずだから心を鍛えれば何とかなると思うから教官モードでビシバシやってやろう
「そこに直れ」
「ちょっと貴方、急にどうしたのよ?」
「二度も言わせるな」
「ひぅっ……」
【恐怖圧】を起動して、有無を言わせなくする。ビビってその場で気を付けの姿勢をするセッカさんにまずは立場を分からせる
「おい、ウジ虫。口の利き方には気を付けろ。感謝の言葉も碌に言えないのであればまずは礼儀から叩き込んでやろう。何かしてもらった時は何と言うんだ?」
「え…」
絶賛【恐怖圧】発動中だから言葉が出てこないんだろう。まぁ切らないけど
「なんと言うんだ」
「あ、ありがとうございます……」
「感謝の言葉は覚えている様だなウジ虫。覚えているならもっと腹から声を出せ!」
「あ、ありがとうございます!」
「飯を作ってもらったのなら」
「ご馳走様でした!」
「掃除をしてもらったのなら」
「掃除してくれてありがとうございます!」
人との接触が少なかったせいか、感謝の気持ちが薄れてるかなと思ったけど、ちゃんと感謝する事は覚えていたみたいだ。この古風な家を傷付けるのは出来る限りしたくないから可能な限り言葉だけで何とかしよう
「最低限の感謝の気持ちがあるのなら0から教える必要が無いな。おいウジ虫。お前、死にたいらしいな?」
「いや、それは……」
ここですぐに「はい」と言わなかったという事は、今まで自己肯定される事が無くて生きる意味を失ってたけど、僕が褒めたから人並みに生きたいという気力が出てきたと見て良いかな?
「では生きたいのか?」
「えと、はい……」
「はっきりと答えろ。生きたいのか死にたいのか」
【恐怖圧】たっぷりでプレッシャーを掛ける
「し、死にたい……」
「よし分かった。そこに跪け。その首叩き落としてやる」
「い、生きたいですぅ!」
口では死にたいと言っても、いざ死の危機に瀕したら生きたくなっちゃう物だ。「死にたい」って誰かに言うって事は「見捨てないで欲しい」と言っているのとほぼ同義。やっぱり寂しいだけなのかもしれない
「貴様は今、自分の口で生きたいと言ったな。ならその命尽きるまで死に物狂いで生きろ。もし、また死にたいと口にしてみろ。その時は楽に死ねると思うなよ」
「は、はいぃぃ!」
かなりの荒療治だけど、これで僕に対して依存しようとはしないんじゃないかな?