温泉のルール
「ちょいちょーい!何封鎖しようとしてるんだ?」
「え?だって女性のお風呂を覗くとかそれはマズいでしょう」
「ここ温泉は日替わり予定だぞ?」
「あ、それなら閂にしましょう。それなら簡単に片方封鎖出来ますし」
板を打ち付けて入れないようにしようと思っていたけど、日替わりならそれは出来ない。代わりに扉に閂を設置して、男湯側だけ開ければ良いだろう。我ながらナイスアイディア
「ハチくぅ~ん?もっと曝け出そうや?女湯が見たいんだろう~?」
酔っ払いのオッサンみたいな絡み方で僕の肩を組んでくるウカタマ。いつの間にか花魁スタイルになっている
「興味0かと言われればそんな事は無いと言っておきますけど、理性はしっかり持ってますから。それに皆ここにはリラックスする為に来てるんですから邪魔したらダメですよ」
ここは温泉。ゆっくりしたいに決まってる。もしかしたら覗きとかする人は居るかもしれないけど、男湯女湯と守られたスペースを侵害するのはダメだろう。そんな事をしたら気が休まらない
「偉いな~」
「ウカタマは神様だし、どっちでも良いかもしれないけど、僕は人間だから性別はしっかりあるし、そのルールに従うだけだよ」
まぁ、そのルールが緩いのが男女どちらでも入れる温水プールなんだけど
「……そうか!ルールはルールだな!」
「ん?」
何かウカタマは思いついたみたいだけどどうせどうでも良い事だろうと思い、スルーして僕専用の入り口を使わせてもらい、男湯に入る事にする
「おぉぉ!」
そこかしこに並ぶ露天風呂。ヒノキ風呂みたいな木製タイプもあれば、岩を組んだタイプの露天風呂もある。これはどれに入るか悩む奴だ!
「それじゃあ男として温泉に入らせてもらおう!」
ウカタマが狐状態で男湯にやってきた。どうやら花魁スタイル状態で女湯に行かなかったようだ
「「ふぅぅぅ……」」
体を洗ってからお湯に入ったら全身を温かいお湯が包み込む。いやぁ、気持ちいい!
「むっふっふっふっふ!ハチよ。私は気が付いてしまったのだよ」
「何に?」
「飯綱は女故に男湯には入って来れない!だからここでサボっても怒られないとな!」
それでさっきルールの話の時に何か思いついたみたいな感じだったのか。まぁ多分すぐにそれは崩されそうな気がするけどなぁ……
「もう少し温まったらプールの方に行ってみようかな。一応どういう出来になったか確認したいし」
「ふっふっふ。その手には乗らんぞハチ?温水プールの所は男女共用。つまり飯綱が来る事が出来る。そこに行ってしまえば強制送還だ」
「絶対行っておいた方が良いと思うけどなぁ……」
この温泉施設完成で盛り上がっている今の内にある程度話を決めて置いた方が良い気がするんだけどなぁ。まぁ行った時に話が出来そうなら少しは勘弁してあげてと飯綱さんに言っておくか
「よし、じゃあ僕は温水プールの方に行ってみるよ」
「はいよ~」
程良いサイズになっているウカタマはお湯の中で浮かんでいた。もう完全にリラックス状態だな
「こっちも凄いな?」
温水プールに行ってみると、そこには無数の狐さん達が流れるプールとウォータースライダーで遊んでいた。何処から持ってきたのかボールでバレーみたいな事もしている
「ハチ様」
「あ、飯綱さん」
水着姿の飯綱さんが声を掛けてきた。とりあえずウカタマの交渉だけ代わりにしておくか
「ウカタマ様は……」
「強制送還に怯えて男湯から出て来てないよ。一応少しは手加減してあげて欲しいかなって」
「分かりました。それでしたらご相談があるのですが……」
「何かな」
「ウカタマ様が男湯に籠城した場合、白武と黒武を貸していただけますか?」
「白武と黒武……」
熱湯が弱点の蟲人の白武と黒武でウカタマを男湯から出すって事か。それはちょっと2人に相談してみないと分からないな
「ちょっと待ってて。白武と黒武カモン」
とりあえず少量のMPでパンドーラを使い、白武と黒武を呼び出す。魔法体で一度試してもらおう
『いかがされましたか』
「ちょっとこのお湯の温度が平気かどうかだけ確認してくれる?」
『このくらいなら だいじょうぶです』
個室風呂のお湯を触ってもらって確認したけど大丈夫そうだ。本当にホワイトボードのお陰で本当に意思疎通がしやすくなったなぁ
「なら、大丈夫そうですね。白武黒武。飯綱さんがこのお風呂で困った時に2人に手を貸してほしいそうなんだけど良いかな?」
「簡単な頼みです。あっちに居た時よりは遥かに楽な作業ですから」
『わ わかりますた』
なんか飯綱さんをちょっと恐れてないか?御稲の国に置いていた間に何があったかは聞かないでおこう
「飯綱さんは2人を呼び出せるんでしょうか?」
「口笛を吹けば集合の合図です」
絶対これ教育されてるよ……
「じゃあ、2人とも。その時が来たらよろしくね」
無言で敬礼をする2人。飯綱さんには逆らわない方が良さそうだなぁ
「それじゃあ僕もウカタマにあんまり籠城すると良くない事が起こるって事を伝えてきます」
「そうしてもらえると助かります。ついでに今ここに来るようにも言って貰えるとありがたいです」
「分かりました!」
その後、ウカタマに男湯に逃げてもちゃんと捕らえる手段がある事。あと、悪だくみをして飯綱さんがちょっとブチギレるかもしれないと言ったらすぐに温水プールに出頭して、籠城では無く、常識の範囲内で温泉を楽しむという事を約束させられていた