情熱を思い出して
「おーい、もう床ネタ切れかい?これ取って帰れって事で良いの?」
台座の裏にはもう道は無かった。ここでおしまいという事なのだろう。なら、ここからは僕の番だよなぁ?
「これで終わり?なんかあっけないなぁ……もう少しやり応えがあると面白かったんだけど、この程度じゃ正直つまらないなぁ?」
つまらないと言われたからなのか、部屋が震える。怒ってるみたいだ
「どうせやるなら床に数字を書いてそれを足し算なり掛け算なりして規定の数値にならないと進めないとか、床の模様の間違い探しをさせながら部屋にゆっくり砂を上から降らせて焦らせるとか、そういうの欲しかったなぁ」
動く床、消える床、一瞬だけ見える迷路。3つとも違う物だけど、本質的には同じ様な物だ。最初の色覚え橋みたいな物の方がやっていて面白い
「勿論せっかく部屋っていう利点があるんだから壁からも何かしら一部分から風が出てきて勝手に移動させられるとか、天井から攻撃が来てしゃがむ事を強要するとか、そういうギミックが足りてない。満足度で言うなら10点満点中4点って所かな」
辛口採点をした事によって部屋が更に震える。これもうちょっとで何か起きそうだぞ?
「ほぼ床しか弄れないって所を見たら……この部屋のギミックとか弄れるのはそこまで大した存在じゃないんだろうな」
「もう許せん!」
天井が開いて何か出てきた!
「黙って聞いておけば貴様文句ばかり……とっととその報酬を持って出て行け!」
「……そう簡単に持って行けと言われる報酬を受け取るのは面白くないなぁ?」
天井から出てきたのは子供の様な見た目だけど……なんだろう?単純な子供というより大人をそのままギュっと小さくしたような……ドワーフ的な?
「もー!なんで初めての挑戦者がこんな変な奴なんだよ!」
「悪いねぇ?簡単に突破しちゃってさぁ?」
とりあえず煽っておこう。一応自分が優位な状況にしたい
「くぅー!ムカつく!!おいお前!勝負しろ!」
「勝負?別にやっても良いよ。何にする?手足がへし折れるまで戦う?頭捩じ切るまで戦う?それとも心臓をぶっ潰すまで?」
「コイツ怖いよぉ……」
明らかに委縮してる。やっぱり多少頭おかしい事を言った方が相手を威圧出来るよね
「どうする?勝負は止めとく?」
「……やめとく」
【悪魔を唆す者】の効果なのかやっぱり会話になればこっちが主導権を握りやすいのかもしれない
「挑戦者云々言ってもそもそもこんな所じゃ人も来ないだろうけど……」
「そんなに人が多く来られても困るから場所選んでるんだよ……」
「じゃあここは試作って感じ?」
「そうだよ!試作をお前みたいなとんでもない奴にダメ出しされてんだよ!」
そりゃあ悪い事しちゃったかな
「でも流石に床ネタだけじゃ辛くないかな?」
「そりゃあそうなんだけど、これが一番簡単なんだよ」
「相手の事を嵌めるつもりならそこを妥協しちゃダメでしょ。簡単だからとかじゃなく、相手をリスペクトしたうえで、全力を尽くさないと相手を嵌める事は出来ないよ?そうだなぁ……最初の所は結構良かったと思うけど……もしかして一番最初にあそこを作ってその後はアイデアが浮かばなかった?」
じゃなきゃほぼ同じ事を繰り返すような事はしないと思う
「なんで分かるんだよ……それにあそこ自体は正解を2通り用意したけど、当然の様に難しい方でクリアしたし、何なんだよお前」
「名乗るほどの者でも無い……さすらいのダンジョンウォーカーとでも言っておこうか。まぁ、フェイントとかの嫌らしさは中々良かったからそれが壁から来るとか、部屋の中央から攻撃を出すような仕掛けがあればもっと良かったかな。そういう困難な物を乗り越えてこそ、踏破した時、報酬を得た時の嬉しさも大きいし、逆に踏破された側ならその結果を受け止めて、何処をどう改善したら攻略不可にならずにたった一つの正解ルートだけを残しながら難しく出来るかを考えるのが面白いんじゃないかな?」
攻略する側とされる側。それぞれの楽しさってそういう所なんじゃ無いかな
「………」
「今、自分が作った物が突破されて悔しくないのであれば、試作とはいえもうこういう事をするのは辞めて他の何かに打ち込んだ方が良いよ。その方が自分の為になる」
もうほぼ追い打ちみたいな物だけど、一応言っておく。本気で取り組めないのにこういう大掛かりな事をするのは割と時間の無駄だと思う
「……悔しいかどうかだって?そんなもん悔しいに決まってる!お前に言われるまでトラップハウスを作る情熱を忘れていた自分に無性に腹が立つ!」
コイツも何か刺激が欲しかったのかもしれないな……
「腹が立つか?自分に。ここまで簡単に突破した僕に」
「あぁ!無茶苦茶腹が立つ!」
「だったらもう一部屋相手になってやる。お前の本気…僕に見せてみろ」
「良いだろう。そこで待ってろ!今ならお前をぶっ潰すアイデアが沢山思い浮かぶ!今までのとは訳が違うって所を見せてやるよ!」
忘れていた情熱の炎を再燃させたようだ。これは次は本気で行かないとヤバそうだな
「はぁ、はぁ……出来たぜ」
「来たか」
また天井が開いてさっきの奴が出てきた。後ろを振り返ってみると扉が新しく出来ている
「俺の情熱を込めたトラップハウス。これを突破されたら俺は完全敗北だ」
「分かった。最後の勝負だ!」
情熱の籠ったトラップハウス。どのくらい殺意マシマシなんだろうなぁ……




