砂漠の街に
「ストーーップ!」
「うわっ!?」
「ぶへっ……ぺっぺっ砂が……」
大声をあげて、意思表示したら空中で回転して顔面から砂に落ちた。首やられちゃうって……
「うぷっ……気持ち悪い」
「いきなりそんな事言わなくても良いだろう……」
ちょっと待ってよ……フォローは後でするから今はこの吐きそうな状態から一旦落ち着かせてくれ
「いきなり肩に乗せられて振り回されて吐きそうなんです。少し休憩させてください」
「すまない。少し休憩しよう」
誤解は解けたんだろうか?一旦休憩させてくれるみたいだ
「別に逃げたりはしませんから、お腹を圧迫するのは止めてください」
「すまない……」
一応悪い事をしたとは思ってくれてるみたいだからここからは少しマトモに進めるだろう
「ふぅ…とりあえず水でもどうですか」
泡沫バッグに詰まっている水を城から持ってきたコップに注ぎ、銀髪さんに差し出す
「もらう。結構冷たいな?」
「冷たいお水を持ってきてますから」
暑い地域の人達は常温の水が普通なのかもしれないけど、僕は冷たい水派だ
「次からは運び方に気を付ける」
「そうしてもらえると助かる……いや、普通に走ってついて行きますよ?」
「いや、客人を歩かせる訳にはいかない」
なにかそういう掟とかでも砂漠の街にあるのかな
「慣れてないと砂漠は歩きにくい。そうしたら街に着くのが遅くなる。だから私が運ぶ」
「もしかして夜は出歩かない方が良いとかですかね」
「あぁ、夜は寒いし敵も強い。だから急ぐ」
確かに砂漠を歩き慣れてないと踏み込みが上手く行かなかったり、咄嗟のステップが難しかったりするかもしれない。そうなると街に「連れて行く」が、街まで「護衛する」に変わってしまうだろうから急ぐのだろう。それならそっちに合わせた方が良さそうだな
「分かりました。お水を飲んでサッパリしましたし、先を進みましょう。僕も頑張りますから」
急いで進むならさっきの肩に担ぐ運び方が一番早いのかもしれない。吐かないように頑張ろう
「いや、さっきは私も悪かった。運び方を変える」
「え?」
てっきりまた肩に担がれて運ばれるのかと思ったら、膝裏と背中に手が回り、ヒョイっと持ち上げられた。これは所謂お姫様抱っこと言う奴なのでは?
「しっかり掴まれ」
「あ、はい」
掴まれと言われたけど、とりあえず落ちないように首に手をまわした方が良いのか?それとも腕を掴んだ方が良いのか?
「遠慮しなくても良い」
「えっと、はい……」
とりあえず腕を掴む事にするが……凄いなぁ?筋肉を感じる。これはパワーあるわ
「行くぞ」
「どうぞ」
肩に背負われていない分、景色が良く見える。一面の砂だ。蠍とかハゲタカみたいな敵が見える。あのサボテン……あれも敵か。急に走り出したりしないよね?
「おぉ……」
僕を抱えて砂の上なのに全く足が砂に取られていない。走り方も綺麗だし、確かにこれなら普通の人が走って追いかけるのは無理だろうなぁ……僕の場合は紫電ボードがあるから、路面状況に囚われないけども、これは素直に凄い
「何処を見ている?」
「砂に足を取られない綺麗な足さばきだなぁって……」
「そうか」
おっと、普通に関心して見てたけど、これも一種のセクハラ的な行為になってしまうのかも。今後は気を付けなきゃ。とりあえず前を見てよう
「うわぁ、あれは砂嵐か?」
前方に壁の様な黄土色が動いている。あれは避けないと大変だぞ……
「あれは単なる防壁だ。問題は無い」
「ん?今なんて……」
「街に帰るからあそこに突っ込む」
「ちょまっ」
急に速度が上がり、砂嵐に突っ込んでいく銀髪さん。これはヤバイのでは?一応仮面を首輪状態から顔面フル防御しておかなきゃ……今まで仮面で飛んで来る破片とかも防げていたからこういう時に役に立ってくれるな
「着いたぞ……どうしたその顔?」
砂嵐の中に突き進むと台風の目に入ったかの様にスッと晴れた……が
「いきなり砂嵐に突っ込まれたので砂まみれになったんですよ……」
フードを被った状態でお姫様抱っこ。身動きの取れないこの状態で砂嵐に突っ込まれたらまぁフードに砂が溜まる溜まる。多分今の僕は発掘されたような状態だろう。仮面を着けてなかったら呼吸も出来なかったかもしれない
「すまない。そういう所まで気が回らなかった」
「まぁ……初めての事でしょうし、仕方ないですよ」
とりあえず降ろしてくれないかな……砂を落としたい……
「すまない。今砂を落とす」
「あばばばば……」
お姫様抱っこ状態のまま、上下ひっくり返されて左右に振られて砂を落とされる。加減してくれぇ……
「どうだ?」
「あ、ありがとうございます……でもそろそろ降ろしてくれませんかね?」
「すまないがそれは出来ない」
……どういう事?締め付けは強くはないけど、逃げ出そうとしたら間違いなくガッチリ掴まれて逃走は出来なさそうな状況だ。とりあえず何故降ろしてくれないのか知りたい
「あの、それは何故ですか?」
「まだ君は仮で街に来ているに過ぎない。勝手に動かれると困る」
僕が自由に動けない理由はそれか。まさかの街に足を降ろす事すら出来ないって言うのはビックリだが、女の子にずっと僕を持たせるのは流石に申し訳なさすぎる
「なら僕を降ろして手枷で繋ぐとかならどうですかね。それなら僕は逃げ出せませんし、僕も降ろして欲しいという2人の要望を叶えられると思うんですが……ほら、丁度良い枷も僕の手についてますし」
お姫様抱っこ状態のまま手首の呪枷を見せる
「むぅ……それなら問題無い……か?」
「僕も女の子にずっと持たれるのは心が痛いので……」
「分かった。鎖を探す」
良かった。これで降ろしてもらえそうだ




