ナンパ救出
「とりあえずこのくらい用意しておけば何とかなるかな」
「いやいや、大量に作ったねぇ?」
「足りないよりは多い方が良いですし、余ったら皆のおやつになるだけですから」
インベントリというプレイヤー全員の標準装備でありながら冷たい物も暖かい物も運べる超有能な存在のお陰で沢山作り過ぎたアイスでも楽に持ち運び出来る。まぁ、大き過ぎる物は仕舞えないけどそういう物は泡沫バッグに仕舞えば良い。最近使ってなかったけど、今回は大量の水を持ち運ぶのに泡沫バッグが使えるので、砂漠で2か月くらい迷っても喉が渇いて死にそうになる事はないくらい水は持てる
「うーんうーん、期待したいけど、多分無くなりそうだねぇ」
師匠がそう言うって事は砂漠の街の人口自体は結構居るのかな?
「準備自体はこれで大丈夫かな」
「はいはい、ハチ君これ」
『魔法の傘 を入手しました』
師匠から何か渡されたぞ?
「それはそれは、魔法の傘。勝手に日差しから守ってくれるし、雨からも守ってくれちゃう優れものだよ!」
「お、アクセサリーじゃなくてアイテム枠か。それはありがたい」
魔法の傘は使うと頭の上にバサッと傘が開く様なエフェクトが見え、一見すると何も無い様に見えるが、試しにコップの水を上に向かって投げてみたら、そこに傘があるみたいに水が何かを伝って僕に当たらずに床に落ちた。これは急な雨の時にも体が濡れたりはしないね?まぁ濡れたら乾かせば良いだけなんだけど……でもこの感じで日差しも軽減してくれるなら砂漠でもかなり動きやすくはなるかな?
「よし、それじゃあ行ってきます!」
「うんうん、もう相手も待ってるハズだから早めに行ってあげると良いよ。もしかすると街で遊んでるかもしれないけどね……」
いつ来るか分からないなら確かに街で遊んでてもおかしくないなぁ……探す必要が出てくるとしたらちょっと面倒だな
「その相手の見た目の情報を教えてください」
「えっとえっと、褐色で銀髪でかわいい子!」
あ、ダメだ。これ以上情報出てこないタイプだ
「大丈夫大丈夫、見たら分かるから!」
「本当かなぁ……」
大分怪しいけど、そういう事なら一旦信じて行ってみよう
「じゃあ行ってきます。一応ゲヘちゃんに城に師匠が居たらおもてなししてあげてとは言ってあるんで僕が居ない時でもおやつは出ますから」
「オマカセクダサイ」
「流石流石!準備良いねぇ!」
保育園かな……ゲヘちゃん先生あとは頼んだ
「さて、フィフティシアに来たけども……」
到着した時点で視界内に例の褐色銀髪の可愛い子とやらは居ない。となると、まずは外と繋がる門の付近を探してみよう
「散歩しながら街を見てたらその内会うかな?」
何かあったとしても騒ぎが起きれば分かりやすいし、何も起きなければそれは平和で良いし……
「いい加減にしろ!私はお前らに用は無い!」
「良いじゃねぇかよ。一緒に遊ぼうぜぇ?」
「うわぁ、典型的……」
学生が女の子に絡んでいた。明らかに面倒事になりそうだけど……絡まれてる女の子の外見が師匠の言ってた特徴と合致してるんだよなぁ……
「わぁ!怪物だー!」
「「「「何っ!?」」」」
街中でそんな事を叫べば普通は当然注目を浴びる事になるだろう。但し、今の僕は【擬態】で風景に紛れている。そして深淵を使ってなんか怪物的な大口を開ける何かをその場に作る
「「「キャー!」」」
「わぷっ!?」
街中は騒然とし、ナンパ云々では無くなっただろう。怪物的な物が注目を浴びている間にその女の子の方に駆け寄り、男達と引き離す。急に騒がれるとまたこっちに注目が向いてしまうので口を押える事になるが、すぐ近くに路地があったからそこに駆け込んで解放しよう
「手荒な真似をしてごめんなさい。あなたがモルガ師匠の言ってた人ですかね?」
「モルガ……と言う事はお前が案内して欲しい奴」
わぁお、当然だけどめっちゃ警戒されてるぅ
「ごめんなさい。余計なやり取りをあの学生達としたくなかったんで、少々手荒な真似をしました。これ、お詫びとして受け取ってくれますか」
「これは?」
「アイスと言って、甘くて冷たい食べ物です」
「もらう……んー!おいひい」
おい、大丈夫か?これはちょっとチョロすぎるのでは?
「うまっうまっ!この甘さ!この冷たさ!これを追い求めていたんだ!」
「早速キャラ崩壊してるなぁ……」
最初はクール系というか誰も寄せ付けない系かと思ってたけどアイス一個でこれか……砂漠の民の事が心配になってきた
「よし、お前!砂漠の街連れて帰る。行くぞ」
「え?」
僕を肩に抱えてそのまま走り出す銀髪さん。ヤバイ、思ったよりこの人力持ちだぞ?
「うおっ!?」
ガッチリと掴まれて、走られるのでお腹が肩と押さえる腕で圧迫されるし、人を運ぶのに慣れてないだろうから滅茶苦茶上下にシェイクされる。マズい……このままだとガチ宮さんみたいになってしまう!
「す、ストップ!止まって!」
「急いで帰る!皆待っていてくれ!」
限界は近い……だが、かと言ってこの辺で急に止めたらまず間違いなく転ぶと2人とも怪我をする。砂漠に入るまで何とか頑張ろう。砂の上ならまだこけてもクッションになってくれるだろう




