ニャラ様脱出
「可能な限り早く!」
高速で展開する事に意識を集中して、何度も展開する練習だ。敵が出て来たら球体で撃ち出して攻撃してはいけない奴なら急停止。攻撃して良い奴ならそのまま飛ばして倒すと……
「なんか展開出来る深淵の量がかなり増えたかも?」
高速展開+急制動と戦闘時間自体は短くなるように工夫をして行動していたら、扱える深淵の量が増えた気がした。これなら3、4体同時に攻撃するとかも出来るかもしれないが、そうなるとまず間違いなく今のギリギリ判断は出来ない。正面3体とかならまだ判断出来るかもしれないけど、左右とか上下の様に分けられると見てから判断が出来ない【察気術】と併用しても右手前の奴への攻撃中止みたいに個別に止めるのではなく、全て停止させたりしないと間に合わない。まずは1つの攻撃が完璧に扱えなければならないだろう
「でもそうだなぁ……判断とか抜きにして1体相手にラッシュを仕掛けるとかはかなり強くなりそうだな」
自身の両手と両足による掌底や蹴りのラッシュ。それに追加して深淵の拳とかで更にラッシュ性能を高めるとか……カッコイイし、実用性もありそう。まぁラッシュで深淵まで使ったらスタミナがあっと言う間に無くなりそうだけど……
「おっ?新しい奴出てきて……ん?なんか違うな」
色々想定しながらも先に進むと触手玉かと思ったら、真っ黒なオーブさんみたいなのが浮かんでた。新タイプか?
「どうやら成長はしている様だな」
「その声は……アビス様ですか!どうしてここに?」
まさかのアビス様。ここニャラ様の体内ですよ?
「あいつ面白そうな事を独り占めしようとしていたからな。ハチに1つ教えてやる」
「え?」
まさか僕の修行って遊びの延長みたいな物なの?それ困るわぁ……どう反応して良いか分からない
「このダンジョン。出口は無いぞ」
「ホワッ!?」
出口無し!?じゃあ絶対終わらない修行じゃないか
「無きゃ作れば良い。今までテクニックを育てていたみたいだが、今度はパワーだ。この壁を突き破って脱出して見せろ」
「わ、分かりました!」
ダンジョンの壁を破壊して脱出……というかニャラ様は出口が無いダンジョンに僕を閉じ込めていたのか……これは許せませんね?
「出口が無いなら作れば良い。これがアビス様が僕に課す修行なんですね!やるぞぉ!」
シンプルで分かりやすい答え。使える深淵も増えたから一撃で威力を高めて破壊して行くのか、数を出してコツコツ破壊していくのか。これもまた選択なんだろう
「そうだ。私は見ているだけだ。お前の力だけで何とかしてみせろ」
「見ているだけ……つまり【アビスフォーム】の【深淵の一撃】は使えないって事なんですね。分かりました!」
純粋な破壊の力としてなら、【深淵の一撃】を越える攻撃は持っていない。あの力自体はアビス様の物だから僕の深淵の力で何とかしろと。そういう訳なのだろう。だとすると、この前の的当ての時に使えたあの赤い深淵?あれがここを突破するキーになりそうだ
「すぅ……ふぅ……」
深呼吸をしながら深く集中していく。目の前の壁をぶち抜く為には一点突破の力が必要になる。深く、深く目を閉じて集中。【察気術】で周りの景色の情報などが頭の中に入って来る。床の模様、天井の枝の様な物、硬そうな壁。色んな情報が頭の中に流れてくる。自分の呼吸音、何かの動く音、空気の流れ。様々な物を感じる。集中の為に目を閉じて深呼吸をしているハズなのに周りの事の方がよく分かる。頭の中がドンドン明瞭になって行く。あっ
「これ……」
目を閉じた状態なのに、目の前に何か光が見える。それを掴もうと手を伸ばす
「何だと!?」
アビス様の驚く声が聞こえたので、目を開けてみると、そこには何か手で削り取ったようにダンジョンに穴が開き、外の真っ暗な深淵が見えた
「あ、開いた!出よう!」
これが塞がったら多分次は出られない。今がチャンスだ!
「嘘でしょハチ君……マジぃ?」
「あ、本当にニャラ様の体の中がダンジョンになってたんですね」
穴から飛び出して後ろを見てみたらお腹に穴が開いたニャラ様。段々穴が小さくなっていく所とか、冗談ぽく喋っている所を見るに、平気そうだ
「ハチは本当に期待を裏切らないな。ほら、しっかり立て」
「あ、すみません。ありがとうございます」
もしかしてさっき赤い深淵を無意識の内に使ったのかもしれない。足腰に力が入らなくなってる。アビス様が深淵を操って立たせてくれる。僕も深淵を出して立つ時の補助にしようと思ったけど深淵が出せない
「いやはや、とんでもないねぇ?まさか本当にぶち抜かれるとは……」
「言われてすぐに実行するとは思わなかったな」
「実感はないですけど、やっぱり本気の深淵みたいなのを使っちゃうと全然立てませんね。一発撃ったらおしまいなのは本当に最後の切り札感あって中々使える気がしませんね……」
【察気術】でも僕が出した攻撃は視えなかったけど、自分の攻撃が自分で見えないのは正直どれくらいの威力だったのか分からないという中々の恐怖。実戦で使えるかも分からないし、前回使った時よりも多分威力が増していた気がする
「ハチならその内人間辞めて乱発し出してもおかしくないな」
「あ、分かる~やりそ~」
言いたい放題言われてるけど、しっかり僕の事を支えてくれているので別に文句を言うつもりは無い。そのくらいはもう許せる
「ま、今回はこのくらいにしてあげるよ。それじゃあね!」
「ぐえっ!?」
だから深淵から出す時もう少し優しくしてくれませんかねぇ?




