笑う狂気
「えっと、だから……こうして、こう!」
深淵での拳をイメージして深淵触手の先に取りつけるイメージを膨らませる。すると左手から黒いロープ状の物とその先端に拳が付いていた。これでとりあえずロケットパンチ的なノリで攻撃は可能になった。だからあとはこれの制御だな
「まずは連動からだな」
左手から出してる深淵触手(パンチ仕様)だからまずは実際に左手を前に突き出しながら深淵も一緒に突き出す
「まぁ、普通に連動は出来るな。そこまで複雑じゃないし」
ただ、同じ動きをするだけだから意識をする事も少ない。問題は次だな
「今度はこの状態で敵と戦ってみるか」
実際の戦闘で本気で攻撃しに行って、それが攻撃してはいけない奴だった時に止められるのか。実戦で練習をしなければ成長もしないだろう。
「来たな。よし」
向こうの方か来てくれた。今回は3体居る……これは混ざってる確率高そうだぞ?丁度良い相手だ
「よっ、ほっ、ふっ、はぁっ!」
ボクシングの立ち位置を変えるステップや相手の薙ぎ払い攻撃をくぐるウィービングや、直線的攻撃を避けるヘッドスリップ。上体を後ろに逸らすスウェーとかを使いつつ、まずは相手の隙を作る。攻撃が終わったタイミングでこっちから深淵ハンドによる掌底をその攻撃してきた相手に対して放つ事で相手に回避させない。3体相手にしても僕を取り囲むのではなく、正面から3体並んで来てくれているので、意識を分散させる必要も無いから攻撃回避とカウンターに集中出来る
「っ!」
掌底による攻撃が当たりそうになった瞬間、3体の内の1体が触手が剥がれ落ちて攻撃してはいけない奴になった。止めろ!
「もっと練習すればちゃんと止められる気がしてきたぞ。とりあえずこの近辺の敵相手にもっと試してみよう」
攻撃を止めようとしたら深淵の掌底は止められなかったけど、代わりに攻撃してはいけない奴を躱す様に深淵ハンドが5つに分裂して、攻撃してはいけない奴の後ろに着弾した。軌道がそれこそ直角に曲がる様な急な挙動が出来たと言う事は、やはり完全に停止させる事も可能なのかもしれない。もう一度だ!
「こうしてこうだ!」
今の動きは使えると思ったので、まだ残っている2体の敵の片方に向けて深淵パンチ……を分散してもう片方に向かって再生成された深淵掌底を喰らわせる。しっかり最後まで見て、そいつが攻撃してはいけない奴なのかを最後まで確認してから撃破だ
「やっぱり結構反応良いぞ?」
普通に遅延の様な物は感じない。動かそう、分裂させよう。そう思った時にはしっかり出来ている。これは深淵だけ使って攻略しろと言われたのも出来そうな気はしてきた。今まで使っていたただ相手を貫いたり、切り裂いたり、叩きつけたりするだけの触手とは違う操作。急制動が掛けられるので普通の人では出来ないギリッギリまで本気の攻撃を仕掛けるかフェイントするかの2択の権利。勿論、そっちに意識を集中しなければそのギリギリの判断は出来ないので、それをしてしまうと僕の足が止まるというデメリットもある。けど、これは今はそうであって、練習を重ねていけば、同時に全く違う動作の攻撃を仕掛ける……までは行かなくても、動きながらの深淵だけで攻撃を仕掛けるくらいまでは出来るかもしれない。まずは歩きながらしっかり深淵の急制動が使える所まで頑張ろう!
「さーて、ハチ君は何処かなぁ?」
自身の体内にダンジョンを形成したニャラートホテプ。ハチの反応を頼りに分身を走らせる
「そろそろ見えてくるかな~」
「はっ……っと、ニャラ様?」
び、ビビったー……曲がり角を曲がったらいきなり顔面にパンチ飛んで来たぁ
「すいません!当たってないですよね!?」
「当たってはないよ。にしても凄いねぇ?もう大分制御が出来てるじゃないか」
「まだまだですよ。もう少し素早く、丁寧な操作が出来ないとダメだなって。頑張ります!」
今のでも人間にとっては反応が出来るかどうかというレベルのパンチの速度だったと思う。それを寸止めで当たらない様に止めるという制御をしてみせた。もう充分な程深淵の制御は出来ているのにまだまだだと笑っている。やっぱりハチ君は面白い。ただ深淵を使えると言ってもここまで繊細な操作は出来ない。それなのにハチ君はまだ更に制御出来るように練習すると言っている。流石だねぇ?
「ハチ君が弱音を吐いていたら仕方ないから出してあげようかなと思って様子見に来たんだけど……」
ここであわよくば信奉者になってもらおうという下心を出しながら話しかけてみる
「ははは、面白い冗談ですね。今までの経験上そんな温い事許さないじゃないですか。あっ、さては今回は心も折りに来てますね?負けませんよ~?」
「……ははっ!良いねぇ!やっぱり君は最高だ!」
今までの特訓で大分感覚が麻痺しているんだろう。今回もそういうノリでやっていると思っている。ハッキリ言ってかなり狂っている。だがそれで良い。ハチ君を取り込もうとした計画は完全に崩れているが、それでも見ていて面白いから充分だ。これは更に難易度を上げてあげないと!




