殴りあう魂
「がはっ……へへっ、もう一戦頼みますよ……」
「な、何故だ……どうしてそこまで立ちあがってくるのだ!?」
当然と言うべきか、装備品の効果全消し、スキルも魔法も無し、僕自身の素のステータスだけでドラゴンと戦うというのは無謀過ぎた。決闘システムを使ってるお陰で僕の体がバラバラになってないだけで、実際の戦闘なら多分もう僕はミンチになっていてもおかしくない
「さっきまで自分が負けたら納得が出来ないからもう一度戦えって言ってたのは……どっちかな……はぁ!」
僕が何度も再戦を可能にする為、先に納得の出来ない負け方を与えておいた。自分が先にもう一戦と言ってる手前、こっちからもう一戦とリベンジ宣言したら許可出来ないとは言えないよな
「何故これほどまでに力の差があるにも関わらず立ち向かえるのだ!?」
さっき奪ったHPから考えて、僕が勝つ事は絶対に不可能なのは分かっている。ドラゴンの硬い鱗、巨大な体による圧倒的リーチ差、体重差もあり過ぎて足払いなんてとてもじゃないが効果も無い。まさに勝ち目は0%
「どんな相手も真正面から立ち向かう。その気持ちだけは忘れたくないだけだ」
勝つ為だけなら不意打ち上等、騙し討ち上等だけど、こういう戦いを通した対話なら逃げも隠れもズルもしない真正面から受け止める戦いをするべきだろう
「それは詭弁だ!」
「あぁ、詭弁かもな……それでも!」
フェイントも何も入れない分かりやすい右ストレート。親ゴンの右足にその一撃が入るが、まるで効いた様子が無い
「絶対に退けない時が男にはあるんだよ!ぐはっ……」
親ゴンが右足を振るい、そのまま吹き飛ばされる。痛ってぇ……普通なら絶対に何処か折れてるだろうけど、決闘システムのデッドガードが発動して僕の敗北。また最初の状態に戻る
「へっへっへ、まだ僕は戦える。何回負けても諦めないぞ?」
「これが、人間だと言うのか?!」
おい、それは無いんじゃないか?
「諦めは悪い方なんでね!はぁ!」
「待て、分かった」
「憐みでの降参なんて許さない」
「なっ、なんて目をしてやがる……」
今、絶対に親ゴンが自分の負けだと言いそうだったから全力で睨んでそれは言わせなかった。降参じゃ意味が無い
「降参では無い。我がお前のステータスに合わせよう。それならいい試合が出来るだろう?」
来た
「舐めているのか?憐みでお前に合わせてやると、そう言いたいのか?」
「違う!お前を認めたから対等な状態で戦いたいんだ!」
やっとノッてきた。これでかなり戦いやすくなる
「ステータスを合わせる?なんだ?フォヴォスみたいに人型にでもなるのか?」
そんな事は言ってないだろうけど、話の方向をそっちに向ける。人型になれば使える技もそれなりに増えるし、デカすぎる相手だと戦い方も大雑把な物くらいしか使えないし……
「分かった。人型で勝負しよう。ステータスもお前に合わせる。それで最後にしよう」
「僕にステータスを合わせるのならダメージは半分にする。そうでないと一瞬で終わってしまうからな」
そう言って自分のステータスを親ゴンに見せる。スキル、魔法、装備の能力を切った状態で本当の素のステータスだと、攻撃力と防御力がかなり低いから普通に戦うとすぐに終わってしまう可能性もある。だからダメージ半分にして長く殴り合いに持ち込めるようにする
「なんという尖ったステータスを……貴様狂人か?」
「このステータスに合わせるのならダメージは半分にしないとつまらないだろう?」
「のった」
巨大な親ゴンが光ると小さくなっていき、黒髪イケメンがその場に立っていた。強めのドラゴンって人型になるとイケメンとか美少女とかになる法則でもあるのかな?
「最後の戦い。準備は良いか」
「いつでも良い」
「行くぞ!」
『3、2…1……』
設定を変えた決闘で相対する2人。3カウントがとてもゆっくりに感じる
『スタート』
「「はぁぁ!」」
真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす。くらいの気持ちで相手と距離を詰めると親ゴンの方も同じ考えだった様で互いの右ストレートが顔面に決まる。躱しても良かったけど、今はそういう時じゃない
「らぁ!」
「オラァ!」
「はぁ!」
「ダァ!」
両者ともターン制バトルの様に交互に殴っていく。顔面を殴れば顔面に、ボディを殴ればボディに。まるで戦闘とは呼べない様な物だが、これで良い
「「ははっ!」」
子供の喧嘩みたいな物だが、今まで奇抜でズルい戦い方をしていた僕と、圧倒的強者の様に振舞っていた親ゴンが真正面からノーガードで殴り合っている。その現状が面白くて自然と笑ってしまったら親ゴンの方も笑っていた
「楽しいなぁ!」
「この気持ち……久方振りだ!」
「「ぐはっ」」
最後はクロスカウンター。両者の拳が顎を打ち抜き、お互い後ろに倒れる
「そういえば、名前は?」
「ん?」
「まだ聞いてなかったと思ってね」
「我が名はファーカインだ。貴様からももう一度名を聞いておこう」
「僕はハチだ。ファーカイン。次戦う事があったらその時は絶対に倒してやるからな」
「ふっふっふ、こちらもそのつもりだ」
男のやり取りと言うべきか、真っ白空間だからあれだけど、これが夕日の土手とかだと完全にヤンキー漫画とかの世界観だなぁ……
「あ、戻ってきた」
「あぁ、もう終わりか……」
なんか寂しそうなファーカイン。男なら割と憧れるシチュエーションを組んでみたつもりだが……気持ちの程はどうだろう?
「うおーすっげー!あれがやんきぃって奴なのか!すげー!すっげー!」
外で見てたらしいフォヴォスにはかなり喜んでもらえたみたいだ
「フォヴォス」
「なんだ、親父」
「悪かったな。お前は俺が想像していたよりも、ずっと大きく成長していたようだ」
おっ?口調が厨二感少し抜けたか?
「あぁ!親父も殴り合いなら話を聞いてくれるって分かったからな!」
「「……」」
これは仲直り出来たと言っても良いんだろうか?ちょっと微妙な気もするけど……
「ファーカイン」
「なんだハチ」
「人型で居ると約束出来るのならこの島に住処を作っても良いぞ。他にも住人や客人が居るからドラゴンだと色々と都合が悪いが……娘から少しだけ離れた位置で娘の独り立ちを見る特等席を用意するくらいなら問題はない」
子離れ出来てないならまずは同じ島に居るくらいの距離感が丁度良いのかもしれない。フォヴォスは充分一人でもやっていけるだろう。でも、この島に居てもらいたいからこういう提案をしてみた
「そうか。ならば、その言葉に甘えよう。この島にゲートを作っても良いか?」
「ならあっちの端の方だな。それなら他の人間は来ない」
「分かった」
また島に新しいゲートが出来るのかぁ……