肉林の忍者
ハチ君が逃亡者達の話を盗み聞きしていた時よりも少し前……
「ハチ君、今度は何をしているんだろうか……」
最初にハチ君が言った魂の欠片を1つ以上入手している人を捕まえるようという提案を出した時、キリキリ姉妹の2人が納得するか正直微妙な気がしたが、ハチ君が巧妙に二人の好きそうな感じに話して納得させたのは中々素晴らしい手腕だった。今頃担当エリア内で色々逃亡者の人達を怖がらせているんだろうか?
「にしてもさっき一瞬感じたSの波動はいったい……」
捕縛者としてエリア内の逃亡者をNPC捕縛者と一緒に追いかけていた時に数回だけ何処からかSの責めの波動を感じた。まさかハチ君……私以外の誰かに責めを?なんてうらやま……じゃない。そうと決まった訳ではないのだから決めつけるのは良くないな
「マチョス、マチョリブレ。次の観客に魅せに行こうか」
「「マチョ」」
私の所はこのムキムキでブーメランパンツがトレードマークの下級捕縛者達と一緒にスリーマンセルを組んで相手を追いかけている。エリア縮小前はこれで行っても割と見逃してしまう人が多かったが、見つけたら3人掛かりで捕縛に動くのでかなりの確率で捕縛出来る。しかもエリアが縮小されたお陰でマッチョスリーマンセルの効果がより上昇した。今までは多少見送っても他のエリアのキリキリ姉妹やハチ君が捕まえてくれると考えていたが、きっとイベントも佳境に入ってきたと言っても過言では無いくらいだろう。今の状態では1人取り逃がすのはあまり良いとは言えない。事実、ここが逃げられそうだからという理由でエリア縮小装置の破壊もされず、残っていた。ここからは気合いを入れ直す必要があるだろう
「ハチ君に迷惑はかけられないからね。これからは本気で行かせてもらうよ」
3人である必要性は正直かなり少ないが、それでも圧迫感はある。今まではエリア内で相手を見つけたら「アァン、オォン」と言いながら3人でサイドチェストなどポーズを決めながら追いかけていた。筋肉を見せながら進むと見ただけで一心不乱に逃げ出す人、逃げるけどちょっと気になってチラチラ見る人、「ナイスバルク!」と筋肉に飲まれた人などと反応が様々だったのが面白かった
「私もそろそろアレを使うべきか」
あの装備を使ってしまうと私のアイデンティティに関わるし、ここのエリアの名称に関しても若干の疑問符が浮かんでしまうようになってしまうかもしれないが、NPC捕縛者補充の飛行船が破壊というか撃退されてしまったので、使えるモノをいつまでも隠している訳にもいかなくなってしまったかもしれない
「ハチ君、悪いけどコレを使うからには不意打ち上等で行くから君との約束を破ってしまうかもしれない。でも、この時間まで欠片入手が0の人間も居ないと思うから……行くよ」
見た目がカッコよく、ステータス上昇効果も高い機甲忍者装備。コレを使うとなんでそんなカッコイイ装備を使わないんだと言われてしまうが、私は好きな恰好で遊ぶのが好きなんだ。勿論、この装備の強化にはそれなりの大金を強化費にあてたりした。この装備を強化出来るNPCを探すのにも中々大変ではあったが、その費用分の効果はあった。使わないのが勿体ないが、やはり自分も男たるもの、とっておきな隠し玉は可能な限り隠しておきたい質なのだ
「ハチ君が大々的に暴れてくれているお陰でこっちはかなり目立たなくなるから助かるが……出来ればこの姿は撮らないで欲しい所だね」
今のこの姿は自分のアイデンティティを曲げてまで性能を重視した末路の姿。誰が見てもカッコイイ装備を身に着けてこれから相手を捕縛に向かうが、この姿で居る事はなんかもう逆に恥ずかしくなってくる。この姿は可能な限り見られたくない
「まぁ四の五の言ってられない状況だよね。マチョス、マチョリブレ。注意を引くのを頼んだ」
「「マチョ」」
2人に注意を引いてもらい、その隙にこの装備のパワーを活かして捕縛する。その為にもスリーマンセル、ないしはニ人一組の様なペアなどが必要であった。マッチョというのはそれだけで充分過ぎる程目を引く。その注目を集めてくれるデコイの影から捕まえに動く忍者の発見は遅れるだろう。発見が一歩遅れた忍者の対処がどれだけ難しいのか、この際皆に知ってもらおうじゃないか
「敵数4。行動開始」
「「マチョ」」
2人が返事をするとその筋肉をピクピクさせながら4人の前に立ちふさがる
「オゥイエェ!」
「オォン!」
木の影からポージングしながら現れたマッチョ2人に驚く4人
「うわっ!」
「なんて身体だ……」
「ムキムキの壁だ!」
「撤退!」
そういって撤退をしようとするが、撤退を決めた1人以外の3人は既に捕縛されたあとのポリゴンだけが残っていた
「……えっ?」
そして気が付けば自分も何者かに触れられて転送される最中だという事に気が付くのが遅れた
「光が強ければその分影も濃くなるとは言うが、ハチ君という光がある以上影として何処までやれるかやってみようじゃないか」