上半身が追ってくる
「さて、次は……どうしようかな?」
【バリアント細胞】とテアトルクラウンの服のお陰で僕の取れる姿が爆発的に増えたお陰でどの姿を取ろうか逆に迷ってしまう。選択肢が多くて悩むという贅沢な悩みが出てきたのは嬉しいなぁ
「追いかけるか。でもアレはちょっと体のサイズを弄らないといけなかったしなぁ……」
大男状態だとバランスがとり難いし、別の姿で追いかけよう。今回はどうしようかなぁ?
「よし、アレで行くか」
久しぶりにあの2つの能力が役に立ちそうだ
「まずはボロボロの服にして、人を探すか」
アレを使って前傾姿勢で走ればそれっぽくなるかな?
「はぁ、はぁ……何とかあのムキムキ地獄から逃げきれた……」
「魅惑の主の肉林……何処にも女要素無かった……」
「でもここ……例のあの人のエリアだぜ?」
「逃げるエリアミスったかな……」
ムキムキのブーメランパンツのおっさん下級捕縛者が集団で追いかけてくるとかいう地獄の様なエリアから何とか逃げてきたけど、逃げてきた先が例のあの人のエリア……何が待っているのか
「ここで1つでも魂の欠片を入手出来ればすぐに最後のエリアに移動して脱出にリーチって考えるしか無いだろ」
「頼むからNPCだけ出て来てくれ……」
「白ローブは今は一番見たくない……」
「むしろフラグを立てまくった方が逆に来ないんじゃね?」
追い込まれ過ぎて何を言っているんだコイツは……だけど、何かに縋りたいのも分かる。ここであの人が出て来たら逃げ切れるか分からない。さっきの肉林でのムキムキおっさんNPCからは逃げきれたけど、あの人は気が付いたら後ろに居るってなってもおかしくない。前回のイベントで仲間だったから分かる。あの人の相手を騙す手段とかかなり凄かった。今回のイベントで逆にフラグを立てたら……なんて言って生き残れる気がしない。静かに、無言で魂の欠片を捜索した方が良いだろう
「とりあえずこんなエリアの境目には魂の欠片は無いだろうから、先に進もう」
「エリアの縁はNPC捕縛者が居てもおかしくないしな」
「よし、2つ目の欠片探しに行くぞ!」
「「「おう!」」」
4人で行動しても同じ場所で魂の欠片を入手出来るからありがたいが、このイベントクエストは隠れやすい一人で探す事を考えたらそこまで複数人で一緒に行動する事を推奨している訳では無い。かと言って数人で固まって移動しないと先に敵を発見する事が出来ないだろうから、足が遅いとか、何か特別な理由が無ければ誰かと組んで行動する方が良いだろう
「相手が何処から来るか分からないから、とにかく警戒だけはしておけ。何か罠を置いてるかもしれない」
「な、なぁ?あれはどっちだと思う?」
「ん?なんだあれ……」
「ニトロメロンソーダ……速度アップ効果だってさ」
警戒しながら進んだら、そこにはテーブルの上に1ダース入りそうなケース?みたいな物に入ったサイダーの様な物が置かれていた。既に5つ程無くなっている所を見ると既に飲んだ人が他に居るみたいだ
「なになに……一時的に速度アップの効果があるが、その後徐々に速度低下のデバフが掛かる。なるほど、緊急避難用のアイテムか。今は飲まなくても良いから持っておくだけならタダか」
アイテムの説明に飲んだ瞬間に速度アップ効果が付与されるがその後は徐々に速度ダウンのデバフが掛かるという説明が書かれていた。一時的な速度アップだから一番厄介な相手と出会ってしまったとしても、これを飲めば逃げ切る事が出来るかもしれない。だが、飲んでしまえばその後は速度低下デバフ効果が付いて回るから後が辛い……とっておきとして自身の手札の1枚に加えるのはアリだろう
「一人1つまでだってよ」
「破ったら周囲の下級捕縛者が捕縛しに来るらしいぞ」
「それに、今これを拾っておかないと多分人数分確保するのは難しいぜ?」
確かに、元々12個あったみたいだが、既に5つ無くなっている。ここで自分達が4つ持って行けば残りは3つだ。他に4人以上で行動している奴らとかがこのアイテムを見つけたら俺達全員分を確保するのは難しい。ここで貰った方が良いだろう
「よし、一人1つ貰って行こう」
二度と入手出来ないかもしれないお助けアイテムを確保してエリアの中心方面に向かうとしよう
「な、なぁ?あれ……」
1人が少し離れた道の向こうを指差す
「あれは……ん?上半身だけ?」
「なんかヤバくないか?」
両手を地面につけて、歩いている様に見える。髪が長い何か
「あれって……てけてけ?」
「……」
「「「「っ!」」」」
誰かが呟いた一言で都市伝説のてけてけの姿が頭に過ぎる。あれが追いかけてくる……直感的にヤバいと感じてしまった4人はすぐにメロンソーダを一気飲みして走り出す。相手が見失う程早く走れば、それ以降速度が遅くなっても構わない。ただ、あれは早急に逃げないとダメだ。と本能で逃走を選択した
「はぁ、はぁ、はぁ……大丈夫か?」
「あぁ、なんとかな……」
「何か鳥肌立ったわ」
「ヤバかった……」
お互いに全力疾走して街中に逃げこんだので、あのてけてけは撒いたはずだ
「おい、あれあれ!魂の欠片じゃね?」
「お、マジか!」
「あれ取ってさっさと次のエリアに撤退しよう!」
「地獄に仏か……」
あの魂の欠片を取ってこんな所さっさと出よう。やっぱりあの人の居る所は怖すぎる……そもそもあれがあの人だった。なんて事は無いと思うが、これ以上居たら本当にあの人に見つかってしまうかもしれない
「……嘘だろ?」
「……」
確かに撒いたハズのてけてけが魂の欠片と俺達を挟んだ反対側に現れた
「「「「走れ!」」」」
お互いに言い聞かせるように叫び、魂の欠片に走る。せめて捕まるのならあれだけでも入手しよう
「足が……」
「デバフ来るの早過ぎだろ……」
「間に合え!」
「もしかして、これもあの人の策略かよ……」
「……」
まるで低空を飛んでいるかのようなてけてけが俺達をもの凄い速度で後ろから追いかける。これは欠片に手が届かないかもしれない
「早く取りな」
「えっ?」
一番後ろに居た俺にしか聞こえてないかもしれないが、てけてけが今喋った様な気がした。前の3人は魂の欠片に手が届くが、俺は間に合わずに捕まると思っていた。が、てけてけの速度が落ちた。やっぱりさっきのは聞き間違いでは無い
「やはりあなただったのか……」
4人共そのままデバフで逃げきれずに捕まってしまったが、不思議と後悔は無かった。あの人の配慮で俺は仲間と同じ報酬を得られるんだから