ボス戦の前に
「んー、やっぱり弱くなった気がするなぁ……」
「えぇ……ハチ君?それで弱くなっているのかい?」
「はい」
ハスバさんは両手に苦無を持って出てくるゾンビをなぎ倒していく。ここはゾンビが出てくるようだ。凄いなぁ、的確に首やら心臓を狙って攻撃してスマートだ。恰好が恰好だからカッコイイとは口からは言えないけど、思うだけなら問題無いだろう
「弱くなっててそんな戦い方が出来るのは君だけだと思うが……」
「そうですかね?まぁ街で見た感じ大半の人は武器を持ってましたし、僕だけって言われるとそうかもしれませんね」
ハスバさんが華麗に踊る様にゾンビを倒して行く中、僕は自分に【リブラ】(INT下げのDEX上げ)を掛けてゾンビの腹に貫手を突き刺し、臓物(赤ポリゴン)を引き抜いたり、動きが遅いからゾンビの後ろに回り、首を捻ったりして倒していった。50%下がったら50%上げれば良い理論だ
「そもそもパーティを組んだから分かったが、君がまだレベル20超えていないのが驚きだよ」
「ハスバさんが34レベルって言うのも驚きましたね」
「一応私もβテスターだったからね。基本的にβプレイヤーはβテストの上限レベルだった30まで上げていると思うぞ?」
「へ、へぇ……」
βテスターなのに正式スタート時にレベル1だったプレイヤーが居るらしいですよ?
「まぁ進み方は人それぞれだ。だから私もファステリアスに居るのだが……来たぞ」
「そっちの方お願いします。僕はこっち側をやります」
「任された」
ゾンビの集団が2方向からやって来た。真っ直ぐ進めばマップ上では2階に降りれる階段があるけど戦っていこう。流石にここまで遅い事は無いだろうけど人型の敵を相手に対集団戦の練習が出来るんだからやらないのは勿体無い
ハスバさんはゾンビ集団に走り寄り、苦無で首を斬りながらバッサバッサと突き進む。あの首斬りを手刀で再現してみようかな?いや、まずは対集団の基本をこなそう
「せいっ!」
襲い掛かってくる集団の先頭に立つゾンビの掴みかかりを受け流し、鉄山靠で後ろから来たゾンビに先頭のゾンビを当てる。するとそのゾンビが後ろのゾンビに当たり倒れて、その後ろも倒れて……とドミノの様に倒れる。大体10体くらいか
「おりゃっ!」
起き上がるゾンビの首に手刀を喰らわせ、首を斬り飛ばす。うん、案外出来るものだ
2体首を刎ねた所で他のゾンビが起き上がった。今度は3体が道幅いっぱいに横並びで同時に掴みかかってくる。ここで掴まれるとゾンビ達に袋叩きにされるだろう
横並びと言ったが、完全に横一直線では無く、左端の奴が少し前に出ている。ならまずは奴を狙おう
「ふっ!」
わざと左腕でガードして、掴んでくる場所を左腕に誘導する。そして掴まれたと同時に腕を引く。やっぱりSTRが低いからそこまで引く事は出来なかったけど相手のバランスを崩す事は出来た。バランスを崩したゾンビの脛に左足を低く、速く前に蹴り出す。斧靭脚だ
更に右手でゾンビの顎に向かってかちあげ。相撲とかで使われるけどこれをゾンビの顎に当てた事によって掴まれていた腕も離し、吹き飛ぶ。そして後ろの奴らも巻き込んで倒れる……
集団戦では囲まれない様に、尚且つ誰かしらを盾に使って自分への攻撃を減らし、誰かしらを使って他の奴らへの攻撃に使う。それが僕の中での集団戦の基本だ
倒れたゾンビの心臓(赤ポリゴン)を引き抜いたり、首を270度回したりしてゾンビに止めを刺していく
『Lv17にレベルアップしました』
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ハチ 補助術士Lv17
HP 300→310
MP 575→590
STR 19→20
DEF 17→18
INT 31→32
MIND 87→89
AGI 57→59
DEX 72→74
成長ポイント 170
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「ふぅ……終わった」
ゾンビを倒したからレベルも上がった。でもお金は落ちないんですね……
「いやぁ……見事としか言えないな……」
「ハスバさんだって僕より先に終わらせてたじゃないですか。しかもあんな綺麗に苦無で倒したり……」
ゾンビを他のゾンビに当てたりして倒していたら先にゾンビの処理が終わったハスバさんが苦無を投げて僕の背後に迫っていたゾンビの頭に苦無を当てて倒していた
「あれはまぁ、βプレイヤーの意地もあるから多少は良い所を見せなければな?」
「へぇ……まぁそれはどうでも良いですけど。次の階行きますか」
「くぅ!ハチ君分かってるねぇ!行こうか!」
ハスバさんがゾンビを倒し終わっているのは視界の隅で確認していたからこっちの手伝いしてくれるかな?と多少手を抜いた感があるのは否めない。もちろんダメージを喰らうつもりは毛頭ないけど
「ハスバさん1発喰らってませんでした?」
「ん?まぁ喰らったがこのくらいなら問題無いぞ?むしろこのくらいのダメージを喰らってこそ感覚100%だ!」
「あ、ハスバさんも感覚100%なんですね?」
「も?まさかハチ君も感覚100%なのかい?」
「100%にしないと何かもやっとした感じがして嫌なんですよね」
なんか感覚100%じゃないともやもやを感じて嫌な気分になる。人によっては気にしないんだろうけど僕は気になってダメだ
「いや、うん……やっぱり凄いな君は」
「まぁこれ食べて回復しといてください」
「ん?これは?」
「僕が作った回復薬です。とりあえず飲んでください」
「効果が高すぎないか?だがHPは減っているからありがたく貰っておこう。では……ぐぅ!苦いなっ!」
苦いと言いつつも嬉しそうにするハスバさん。こういうのでも喜ぶんだ……