譲歩
「人間に利用される……失礼な事は承知だが、過去に何があったのか教えてくれないか」
話を聞いて行けばもしかすると何か解決策が出てくるかもしれない。嫌な事だから話してくれないかもしれないけど……ここは踏み込んでみるしかない。そもそもこの問題が解決出来なかったらイベント参加がどうなるかも分からないし
「何故それが知りたい…」
「お互いに何も知らなければ歩み寄りも何も出来ないだろう。こちらが地上に行きたい理由はさっき話した通りだ。人間が嫌で地上に出したくないという事なら何故人間が嫌なのか聞かせてほしい」
人間嫌いになった原因とか分かればどうすれば皆が地上に行く事を許可してくれるのかのヒントになるかもしれない
「良いだろう…話してやろう」
部屋の主はゆっくりとだが語ってくれた
「我は…神によって生み出された生命体であった。何かに危害を加えるつもりもなくただ平穏に暮らしていただけだった…」
何の神様かは分からないけど、産まれはかなり凄い感じだったのか
「そんな中、我を見つけて研究をしようとする奴が現れた…最初の頃はとても楽しそうに調べて、お前のお陰で新しい物が出来たとか何とか言いながら何か液体の様な物を作ったりしていた。多少の擦り傷や切り傷ならそれを塗るだけですぐに回復する。その程度の物だったが、奴は我の力をしっかりと理解して再現するという偉業を成し遂げた…」
単なる回復薬が出来たとしても、薬草とかじゃなく、何らかの謎生物由来の回復薬を1から作るってその人凄いな……
「我も…奴が笑ってくれるのは気分が良かった。協力するのもやぶさかでは無かった…だが、人間とは愚かなものよ…そんな奴の事を良く思わない者達が、得体の知れない化け物を調べている奴もきっと人の姿をしているだけの化け物だ。などと言いがかりをつけて、武器を持った人間の手によって我の目の前で殺された…命を繋ごうとしたが、奴自身に止められ、死ぬ間際に奴が自分のせいでこんな事になってしまった。すまないと謝る姿がずっと頭から消えない…」
異端者みたいな扱いを受けて殺されるなんて……その人も多分、周りの為に研究していただけだっただろうに……
「奴が死んだ時、奴の助手として傍らに居た生き物が我の本体を咥えて、人間から逃げてくれた。アイツも体に矢を受けながらも我を人間から引き離してくれたお陰で我に新しく生きる道を繋いでくれた…」
「……」
「2人には感謝している。我に出来る事と言えば2人の情報を記録して保存し、未来に繋ぐ事くらいだ…」
「まさか?」
「今のこの街の住人は2人の生命情報を元に作り出した新しい種族だ。地上に出たらまた人間に襲われる。数人程度がこちらに来る程度であればあいつらでも対処は出来るだろう…その為の力だが、こちらから地上に行けば確実に不利だ」
人っぽいギルバさん達と、獣人みたいなレナーグさん達。同じ種族と言う事に違和感があったけど、造られた存在という事で同じ種族だったのか。研究者の人とその友であった生物……多分犬か何かだと思うけど、その生物情報を元にこの場所で新しい社会を作ろうとしたのかな……でもここまで聞けば地上に出したくない理由も納得出来る。好きだからこそ、失いたくないから地上には出したくないんだな。煙の力も戦闘経験を積み重ねる為に与えていたのかも……
「……その悲劇からどのくらいの年月が経ったのか俺には分からない。が、愚かな人間はかなり減ったはずだ。それに、貴殿もその恩人の手によって人から引き離されたお陰で生き延びる事が出来たのだろう?彼らがどうするのか見守ってやるのも良いんじゃないのか?」
守りたいのは分かるけど、多少は親離れみたいな事をしても良いんじゃないかと思う
「……なら、まずは我がこの目で地上を確認する。それで安全が確認出来たらあ奴らが地上に行く事を許そう」
これはチャンス到来なんじゃないのか?ここで上手く行けばキャティ君達は地上に出られるし、このまだ姿が見えない相手と面と向かって会話出来るかもしれない。顔を合わせて会話出来ればもっと色々伝わりやすいかも
「それは、貴殿自らが地上に出向くという事か?」
「そうだ。今の我はあの時よりも力を得ている。何かあっても対処出来る……だが、まずはお前にも協力してもらう」
「それはもちろんだ。協力出来る事は何でも言ってくれ」
説得する為に協力出来る事が有るのならやるしかない
「ならば、まずはお前の人間の姿を借りたい」
「どうすれば俺の姿を貸す事が出来る」
「その中に入れ」
床の肉が盛り上がって何か繭みたいな形状になった。この繭の中に入れって事か……これは中々に勇気が要るなぁ?
「この中に入れば姿を真似る事が出来るんだな?」
「あぁ」
「分かった。貴殿を信じよう。彼らの未来の為にもこれは俺がやるべき事だ」
「何故、そこまで親身になれる?お前はアイツらと直接的な関係は無いのではないか?」
「皆と約束したからな。自由を掴み取る為の第一歩は俺が踏み出すと」
【アビスフォーム】を解除して肉の繭の中に入る。足元から徐々に締め付けられて最後は顔まで肉の繭で包まれる。一応呼吸する為の穴は残してくれているみたいなので、これで死ぬことは無い。強いて言えば顔とか手を触手でペタペタ触られているのがくすぐったいけど、姿をコピーするのなら確かに露出度の少ない所よりも、露出度の多い顔とか何かと使う手をしっかり詳細までコピーするのは納得だ。納得だけど……出来るだけ早く終わらないかな