執行者
「よし、この辺で良いか」
後ろ手に手錠を付けて、その上から魔糸で足を拘束した敵のリーダーを担いで拠点の外に持ち出し、適当な所で降ろし、【ハシャフ】を解除する。話もしたいからね?
「……いったい何者なんだ?」
「貴様らがやってる事で迷惑を被っているから是正しに来た単なる執行者だ。名乗る名など無い」
執行者って一度は言ってみたい言葉だよねぇ。現実ではまず言えないけど
「そうか……俺は、処刑されるのか?」
「貴様の態度次第だ」
処刑するつもりなんてサラサラ無いけど、流れで言っちゃった。覚悟されちゃうと今後の交渉とか面倒になる可能性もあるけど……まぁ何とかなるだろう
「なるほど。俺もこれまでという事か」
「最後に貴様らの言い分くらいは聞いてやろう」
「皆、すまない……」
謝る……という事は、やっぱりこっちにも何かしらの背景がある訳だ。そこを知らずに一方的にこのクエストを終わらせるのは何か勿体無い。やっぱりアレをやっちゃうか
「キャティ、少し良いか」
「はい!何でしょう?」
敵リーダーから少し距離を置いて小声で会話する。すぐに運ぶ必要はあるけど、ここで話しておかないといけない事だ
「向こうに戻ったら、俺を信じて何もするな」
「ん?言っている意味が良く分かりません……」
「俺が向こうに戻ったらひと騒ぎ起きるだろう。その時に、キャティ。お前だけには俺に考えがあって行動していると知っていて欲しい」
「は、はぁ……?」
この短期間でどれだけ関係を築けているかは分からない。でも、この地下街で僕との友好度が一番高いのはキャティ君のハズだ。味方になってくれなくても邪魔しない。それだけで良い
「それだけだ。では戻るぞ。帰りも可能な限り戦闘を避けるルートを頼んだぞキャティ」
「はい!」
キャティ君を利用しているだけと言えばその通りだが、こうでもしないと多分この争いを本当の意味で終わらせるのは無理だと思う。その為には悪役でも憎まれ役にでもなろう。そういうのは慣れている
「着いたか。これで俺も終わりだな」
キャティ君ナビによって、敵を回避してこちらの拠点まで戻ってきたからか、背負っていたリーダーがため息を漏らす
「悪いようにはしない。首領よ、居るか!」
背負っているリーダーに小声で話しかけた後、拠点の何処かに居るであろうキャティ君のお父さん(こちらのリーダー)を探す為に大声を出す
「まさか!まさか本当にやってのけたのですか!」
「父さん!やったよ!」
「そうか!」
うーん、僕がこの後やろうとしている事を知ったらキャティ君殴りかかって来てもおかしくないな
「こいつで間違いないか?」
背負っていたリーダーを降ろし、顔を確認させる
「あぁ、ギルバだ。間違いない」
「レナーグ……」
凄い今更だけど、キャティ君のお父さんの名前レナーグって名前なのね。そして敵リーダーの名前はギルバと
「迷い人様。ありがとうございます!」
レナーグさんが僕に握手をしてきた。やるなら今しかないよね
「レナーグ。悪いが、貴様にも席に着いてもらう」
預かっていたもう一つのジャマーワッパをレナーグさんの両手に掛ける。感謝しているタイミングだったから確実なタイミングはこの瞬間しかないと思った
「「「えっ?」」」
僕の後ろから見ていたギルバさんと横から見ていたキャティ君。そして手錠を掛けられたレナーグさんの3人が驚くが、既にリーダー2人の手には手錠が掛けられた後だ
「な、なにしてるんですか教官!?」
「先程言ったハズだ。キャティ」
「でも……」
「これはいったい……どういうおつもりなのですか!?」
「何を……しているんだ?ソイツに雇われたんじゃないのか?」
混乱が混乱を呼んでまた最初の様に周りを囲まれる。そりゃあ自分の所のリーダーを不意打ちで捕らえられたらそうなるのも分かる
「迷い人貴様ァ!」
「レナーグ様を離せ!」
「何のつもりだ!」
周りからも滅茶苦茶敵対している言葉を投げつけられるけど、すぐ横にリーダーが居るから攻撃はしてこないみたいだ
「み、皆待って!」
「「「はぁ?」」」
キャティ君が僕達の周りの獣人達の前に立ちはだかる
「こ、この迷い人さんには凄い考えがあって、それを今してるんだ!だから武器を下げて!」
「何を言ってるんだ!お前は騙されてるぞ!」
確かに騙していると言っても過言ではない
「だとしても、この人の話を聞いて!そうじゃないとお父さんが!」
別に殺すつもりはないけど、キャティ君がそう言った事で緊張感が跳ね上がる
「キャティ!危ないからこっちに来るんだ!」
「そんな事出来ない!この人の事はここに居る誰よりも知ってる。だからここでボクが逃げたらただ状況が悪くなるだけなのはボクでも分かる!」
勝手に悪役度が上昇していくなぁ?
「だが……」
「ならば、ここに居る者達に宣言しよう。俺はこの2人に危害を加えるつもりは無い。ただ機会を与えるだけだ。それ以上の事はするつもりは無い」
「機会?いったい何の機会を与えるつもりだ!」
「話し合いだよ。貴様らと向こうのな?」
そう言って、ギルバさんの居た拠点の方を指差した