退かぬ助っ人
「誰が貴様を寄越した?貴様の様な状況も分からない奴は助けにはならない。単なる足手まといだ。そのまま黙って回れ右して帰れ」
酷いとは思うけど、このままついてきたらこの子がピンチになる可能性が高い
「……!……!」
もう今にも泣きだしそうな表情で抗議してるけど、【ハシャフ】のお陰で声が聞こえないから何が言いたいか分からないな?
「このままここに居ても今の貴様には何も出来ない。これ以上は言わないぞ。さっさと帰れ」
流石にちょっと居た堪れなくなったので、少しだけ優しく言う
「…………」
「時間が経てば喋れるようになる。もし、どうしても手伝いたいというのであれば俺について来るのではなく、陽動をしろ。仲間を集めて奴らと戦闘をすればその隙に潜入しやすくなる」
流石に男の子にマジ泣きされたらこっちも立つ瀬がないから、仕方なく陽動を頼んでみる。仲間が居れば集中攻撃される事も無いだろうし、下手にこっちに着いて来られても困るからなぁ……こういう時は役割を持たせてあげれば素直に従ってくれるだろう
「……!……!」
「……何のつもりだ?」
陽動を頼んだのに一向に帰ろうとしない。むしろ、僕の袖を握って、涙を堪えながらも断固として動かない構えだ
「はぁ……大声を出したらその時点でまた喋れなくするぞ。酷かったら貴様の舌を千切る」
「……!?」
【ハシャフ】を解除してすぐに大声を出されても困るから脅しをかけておく。明らかにビビっている
「あ、あの……ごめんなさい……」
「何か理由でもあるのか?言わなければ……」
「は、はい!父に認めてもらいたくて……あ、すみません」
返事をした時に声が若干大きくなったけど、すぐに声を小さくした。軍人スタイルの威圧感が効いてるなぁ。というか成果を見せたくてこっちについてきたいって事なの?絶対先走ってミスするじゃん……モルガ師匠のおやつ1週間賭けても良い
「くしゅん!なんかなんか、今凄く恐ろしい事が提案された気がする」
「大丈夫ですか?体の震えが凄いですが……」
「「大丈夫ですか?」」
「これはこれは、多分ハチ君がなにかしているに違いない。師匠の勘がそう告げている。最悪を想定して土下座の練習も視野に入れるべきかも……」
「「「えぇ……」」」
ハチ君の言葉にしない想像で精神的ダメージを勝手に負ったモルガ師匠であった
「認めてもらいたいだけで浅はかな行動をするのは自分だけでは無く、他の者も危険に晒す事になる。それが分かって言っているのか?」
「えっと……」
まぁ、分かってないよなぁ
「功の焦りは死への近道だ。計画する時間が少ない作戦は不測の事態の発生率も上がる。部隊の人数が急に変われば潜入任務なら発見される確率が上がる。そこまで考えた上で、ついてきたいと言うんだな?」
「うっ、いやっ、えっと」
適当な言葉を並べてお説教をしてみたら目線を逸らすし、冷や汗をかくし、言葉は詰まるしでもう何も言えないよ……
「いいだろう。そこまでの覚悟があるのならついてくるが良い。こちらの指示に従わない場合は即座に指導だ」
「わ、分かりました!」
あれ?失敗した?言い返せないし、ここで連れて行くって言ったら「やっぱり良いです」みたいな押してダメなら引いてみろ的な感覚で逆に誘ってみたらそのまま返事されてしまった
「……なら行くぞ。ちゃんとついて来い」
とりあえずちゃんとついて来れるのか試す為にも壁を登ってみる
「えっ!?分かりました!」
おぉ、流石獣人……と言って良いのか分からないけど、壁を蹴って三角跳びの要領で跳んで追いかけてきた
「ほう、このくらいは出来るのか。なら心配は無いな?敵陣まで行くぞ」
「あ、あの!」
「どうした。この程度でまさか無理だとは言わないだろう?」
「そうじゃなくて、貴方の事は何て呼んだら良いんですか」
そっか。呼び方で困ってたのか
「他の奴は教官と呼んでいる。貴様の事は何と呼ぶ?名乗らなければウジ虫と呼ぶぞ?」
うーん、久しぶりのウジ虫呼び。これ精神的にくる(自分が)から早く名乗ってくれぇ
「ボクはウジ虫じゃなくて、キャティって名前です!」
「そうか、現状の貴様の評価はウジ虫だ。キャティと呼ばれたいのであれば余計な事はせずに従え。そうしたら名前で呼んでやろう」
一方的に上から言ってるから相手にとっては不快だろうけど、名前があるのなら個人として認められたいだろうし、これで多少は言う事を聞いてもらえるかな?ある意味名前を人質に取る形にしてみた
「わ、分かりました……」
不服っぽいなぁ?でも舌を千切るとか、余計な事をしなかったら名前で呼ぶとかのお陰で一応納得はしてもらえたかな?
「念の為聞くが、敵に発見されたら首領に報告は入るのか?」
「やられたら、拠点まで戻ると思うので……報告があるならその時、かも?」
推測の話ではあるが、通信とかで直接報告は無いのか。それだと相手を倒さないのが一番だな。まぁ敵のリーダーに会うまで誰にも会わないのが最適だけどね
「期待はしていないが、敵の配置は分かるか」
キャティ君がそんな事を知ってるとは思わないけど、聞いてみる。まぁ【察気術】で、ある程度掴めるし、一応聞いてみるだけだ
「それなら、こっちの通りより、あっちの通りの方が敵が少ないハズです」
「ほう?もしその情報が本当ならウジ虫からキャティに昇格だ」
鼻をスンスンさせて嗅覚で敵を探しているみたいで敵の少ない方に案内してくれているみたいだ。ポン君の知覚の強化を続けるのは体への負担も大きいので、長い時間は展開は出来ないし、要所要所で使っていく形にして今はキャティ君を信じて行ってみるか