別れの一杯?
「ハチさん、お茶でもいかがですか?」
「うーん、時間が無い訳では無いけど……」
ここで皆とお茶しても良いのかな?でも別に何か探すにもヒントになりそうな事があるかもしれないし、話を聞いてみるか
「色々お話しようよ!」
「分かりました。じゃあご一緒させていただいても良いですか?」
ユーちゃんがありがたい事に声を掛けてくれたので、それに乗っかってお茶にしよう
「良かった。それじゃあ着替えるから待ってて」
シルさん、ソーレイさん、ユーちゃんが馬車の中に入って着替えているみたいなので待機する。クードさんとダン団長は普通に上からジャケットみたいな物を羽織って準備完了みたいだ。男性陣は準備早いなぁ?
「「「お待たせ」」」
大道芸をやる時の露出度の多い恰好では無く、普通に街を歩く人と同じ様な恰好の3人が出てきた。服装だけでは無く、髪型も纏めていたり、帽子を被っていたりでイメージが違うので他の人が3人に気が付かなくても不思議じゃないかも
「良いお店があるのでそちらに行きましょう」
ダン団長に案内されて、街を進む。どんなお店に連れていかれるんだろう?
「こちらのお店は如何ですか?」
落ち着いた雰囲気の喫茶店みたいな所に連れて来てもらった。今更だけど、僕が支払う事にならないよね?僕が支払いになるとお金を払えなくて迷惑をかけてしまうけど……
「あの……恥ずかしながら僕はお金を払うことが出来ないのですが」
「勿論、お代はこちら持ちですから心配しなくても大丈夫ですよ」
「すみません……それならこのお店でお願いします」
お店とかほとんど分からないし、知っているのならお店選びはお任せする
「そういえばなんでお金を持ってないのー?」
「「「ちょ!?」」」
ユーちゃんが何となく聞いた事で3人がユーちゃんの口を塞ごうとしたけど、そうだよなぁ……普通はお茶を飲むくらいのお金を払えない方がおかしい訳で、気になってしまうのも仕方がない
「そうだよね。気になるよね……このお店って個室というか、他のお客さんから見えにくい席ってあります?」
「ボックス席ならありますが……」
「それならどうしてお金を持てないのか教えられます」
「分かりました。じゃあ入りましょう」
ダン団長もそれで納得してくれたのか、僕の話を聞く為にも喫茶店の中に進んで行く。ユーちゃんの口を塞ごうとした3人も気にはなっていただろうから特にはそれ以上何も言わずにお店に入っていく
「おや団長さん、いらっしゃい」
「やぁ、いつもの席で良いかな?」
「あぁ、空いているよ」
常連なのかな?ダン団長と白いひげの似合うナイスミドルな店主さんがカップを拭きながらいつもの会話をしている様に話し、そのまま店の一番奥のボックス席に座った
「ブラック4つとミルクコーヒー1つ。ハチさんはどうします?」
メニューを見ても良かったけど、多分これはユーちゃんがミルクコーヒーだろう。なら合わせよう
「じゃあ僕もミルクコーヒーで」
「ブラック4つのミルクコーヒーが2つですね。少々お待ちください」
いつも注文している物があるのなら、それはつまり「当たり」なんだろう。お礼としてこのお店に連れてきてもらっているのなら、メニューの中で当たりの物を頼みたいし、ここで挑戦して時間を掛ける必要はないだろう
「それじゃあサクッと本題からお話しましょうか。クードさん?銅貨でも銀貨でも良いので1枚渡してくれませんか?勿論盗んだりはしません」
「お、おう……それについては心配してないけど……」
ちょっと不思議そうな顔をして、僕の手の上に銀貨を1枚落とす。すると何もしていないのにその銀貨はテーブルの上に弾かれてしまった
「ねぇねぇ!今のどうやったの?」
「ちょっと待ってね?そうだ。ユーちゃん?僕の手の下で手を出して」
「ん-?分かった」
「クードさん。銅貨を30枚くらい僕の手の上から落としてくれませんか?」
「お、おう……」
今度は銅貨を30枚くらい上から落としてもらう。普通に考えれば僕が銅貨を受け止められるハズだけど、銅貨はそのまま僕の手をすり抜けてユーちゃんの手の上に落ちていた
「これはいったい?」
「どういう事?」
「確かに今ハチさんの手の上に落としたぞ?」
「30枚……減ってませんね」
「なにこれ!マジック?」
目の前でしっかり手の上に落としたはずの銅貨が手をすり抜ける。普通じゃありえない物を見た5人は驚いた表情をする
「まぁ、簡単に言ってしまうとお金を持てなくなる呪いですね。それのお陰でこうやってお金を持つ事が出来なくなってます。勿論他の人に呪いが移る事は絶対にありませんから安心してください」
「「「「「………」」」」」
まぁ、分かってた事だけど、商売をやってる人達がお金を持てない呪いなんて物に掛かっている人をどう見るかなんてやる前から分かってた。この喫茶店を出たらこの5人との縁が切れる事も承知の上だ
「ハチはお金を持てないの?」
「ん-、まぁそうだね。この硬貨のせいなんだけど、これはこれでお金が無くても楽しい生活が出来てるから後悔はしてないよー」
貧呪の魔硬貨を皆に見せてからテーブルの上から転がして通路に落とす。数秒もすると自分の手元に戻ってくる魔硬貨を見せれば何となく察してくれるだろう
「これがあるのでお金が持てないんですよ。これで呪いが他の人に移らないって言う事も理解していただけましたか?」
「お待たせしました」
そんな事を話していたら飲み物が来てしまった
「……ごゆっくり」
さっきの店主さんが一人で切り盛りしているのか、僕達の席に持ってきたけど、雰囲気を察してくれたのか、ダン団長と何か喋ろうとしていたのをやめて、戻っていた
「ハチさん……」
クードさんに僕の名前を言われて少し重苦しい雰囲気になる。これを飲んだら皆とお別れかなぁ