銀貨1枚の良縁
「自分に回復が無くても出血させれば相手のHPとMPを削れるなら中々強いな。これはいざという時に使うのが良いかな」
吸血鬼は自力で出血させる攻撃方法を持っているだろうし、このマントは装備していたら戦闘中はいつでも回復出来るような物なんだろう。そうなると本気の吸血鬼と戦うのは凄い大変かも……でもこのマントを作れるのはリリウムさんの血族だけみたいだし、そうそうヤバい敵とかち合う事は無いだろうからこのマントは隠し玉にしておくのが良さそうだな。これは気持ちの問題だけど、このマントを常に装備して戦ったら多少のダメージは無視して戦うのに慣れてしまって戦闘が雑になってしまう気がするからメイン装備にするのは止めておこう。ソロで戦うのが基本になっている僕が雑な戦闘をして追いかけっこイベントはまだしも、苛烈になって来るだろう今後の戦闘を考えたら、マントに頼る戦闘をしない様に気を付けよう
「連日でごめんね。でもこれで調べた事は一応終わったからこれで帰るよ」
「分かりました。それではハチ様。いってらっしゃいませ」
オーブさんに見送られて気が付くと島の僕の寝室に出ていた。うん、今日も綺麗な光と程よい稼働音だ
「くぅー!あと数日の内に何か出来るかなぁ?」
ベッドから起き上がり、背伸びをしながらこれからの事を考える。あと数日で何が出来るのか。何か新しい装備を探すのか、レベル上げをするのか、まだ見ていない所の探索なんかも良いだろう
「こういう時は運試し……5!よし、フィフティシアに行くか」
メモにあみだくじを書いて、1~5のどれに当たるかをランダムで決めてみたら5が出たので、フィフティシアに行こう
「さて、やって来たけど……」
やっぱり学生が目に付く。ある意味ここは学園都市みたいな感じだろうし、もしかして学生の間で何か流行っている物とかもあったりするのかな?
「誰かに声を掛けるか、自分の足で何か探してみるか」
最初のきっかけを探すのに誰かから話を聞くか、自分から何かありそうな所に向かってみるかで結構色々変わってくるだろう。どうしようかな?
「まずは大通りでも歩くか」
どっちにしてもまずは街を歩いて、何か無いか探してみよう。立ち止まるのはたまにで良い
「中々人が多いなぁ」
大通りに出てみるとお土産品のお店や屋台なんかが並んでいた
「「「「おぉー」」」」
そんな通りを進んでいると、前の方から拍手や驚く様な声が聞こえてきた。大道芸でもやっているのかな?
「あ、あの人達は……」
「よっ!」
「そりゃ!」
「よいしょ~!」
「あははっ!」
「さぁさぁ!どうぞ見て行ってください!人間ジャグリング!」
4人の人間が入れ替わりながらそれぞれをジャグリングするという凄まじい業を披露していたのはフォーシアスに到着した時、身分証が無い時に街に入るのを助けてもらった旅芸人のシルさん、クードさん、ソーレイさん、ユーちゃん、そして団長のダンさんだった
「皆様ありがとうございました!」
前にも見たダンさんがお客さんの前に行き、ステッキをコツンと地面にぶつけると後ろに準備していた箱から花びらや紙吹雪等がお客さんに向かって飛び出した
「「「「ありがとうございました!」」」」
シルさん、クードさん、ソーレイさん、ユーちゃんが並んでお客さんにお辞儀すると、お客さんから沢山の硬貨が皆の足元に飛んで来る。それをクードさんが風の魔法で地面の硬貨を集めて箱に入れていく。箱の横のゲージがあとちょっとで満タンになりそうで、それを見たお客さん達もあとちょっとで貯まるならって感じでもう少し追加で硬貨を投げる……これはやっぱり変わってなかったか
「皆様ありがとうございます!お礼にもう一発!」
箱からクラッカーの様な音と共に花びらと金色の紙吹雪が飛び出す。これ綺麗なんだよなぁ
「「「「「おおぉ!」」」」」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
僕もおひねりは投げたかったけど、持ってないからどうしようもないんだよねぇ……
「皆さんお疲れさまです」
ある程度片付けが終わってから5人に声を掛けてみる
「あぁ、ありが……えっ?」
「え?」
「ん?」
「あー!」
「どうしました皆さ……」
固まる5人。まぁ海を渡ってるし、ここに居ないと思っていた相手が居たら驚きもするか
「「「「「ハチさん!?」」」」」
「あ、これ良かったらどうぞ」
こういう不意の再会や、子供が困っている時に対応出来るように、クッキーは持ち合わせている。それを5人に渡す
「「「「ど、どうも…」」」
「ありがとー!」
ユーちゃんはやっぱり素直に受け取ってくれた
「皆さん元気そうで何よりです」
「それはこっちのセリフよ!まさかこんな所で再会できるなんて!」
「貴方があの時助けてくれたから今があるのよ」
やっと思考が戻ってきたのかシルさんとソーレイさんに頭を撫でられた。女性に頭を撫でられるのはなんかむず痒い
「業を見せる構成とか、準備の時間とか練り直してお客さんを待たせない事がどれだけ重要なのかあの時に教えてもらったしな。素直にハチさんには感謝だ」
クードさんはウンウンと腕組をしながら頷いていた
「まさかまさかこのような所でまたお会い出来るとは……お元気でしたか?」
ダン団長は未だに信じられないのか頬を抓りながら聞いてきた
「見ての通りに元気ですよ。さっきのも見てました。凄い業でしたね?人間ジャグリング」
「はい…!ご覧いただきありがとうございます!」
なんか少し泣いているダン団長
「あの時は単にお客さんが楽しんでくれるようにしただけですし、それをこうして構成を練り直して、自分達で改良出来ているのならやっぱりダン団長が纏めているからなのでは?これからも頑張ってください」
「ハチさんには感謝しきれません。銀貨1枚で繋がった良縁です」
それだけ喜んでくれたなら僕も嬉しいな