診察
「よっ!」
「お久しぶりです東郷さん。それで、検査って具体的にどういう事を?」
病院の通路で白衣を着た東郷さんが軽く片手をあげて挨拶をしてきたので、お辞儀をしてどういう検査をするのか聞いてみる
「ちょっとその頭ん中を見たいからパカッと……は冗談で、ちょっとした診察みたいな物をするくらいだから心配しなくても良い。まぁ、その結果次第で気になることがあれば追加で検査するがな?」
こういうので嘘を吐くと良くないだろうし、ちゃんと正直に答えよう
「分かりました」
どんな質問が来るのか……
「んじゃ、まずはこれに着替えてコレ付けて」
「えっ、これって?」
東郷さんの案内で部屋に入ったらかごに入った検査衣とどう見てもアルターで遊ぶ時に装着するヘッドギアを渡された。それに通された部屋は部屋の真ん中にはベッドがあるだけ……
「どうせなら早く帰りたいだろう?被ったらあそこに横になってくれ」
「は、はい」
東郷さんが部屋を出て行ったので用意された検査衣とヘッドギアを被って横になる。するとベッドの横からカバーみたいな物が出てきてカプセルに入れられた状態になった。え?これは動かない方が良いのか?
「あー、あー、今から検査を始めるからリラックスしてくれ。それじゃあ始めるぞ」
カプセル内にスピーカーがあるのか、東郷さんの声が聞こえてきた。とりあえずこのまま待っていればいいのかな
「おっとと……あ、東郷さん」
「よし、来たな。それじゃあまずそこに座ってくれ」
空中にウィンドウが出て、それを見ながら東郷さんがうむうむ唸っている。カルテみたいな物でも映っているんだろうか?とにかくここは診察の為に作られた空間だろうか?
「とりあえず、体調はどうだ?」
「すこぶる調子が良いですね。実生活だと本当に動けなかった時が嘘みたいにしっかり動けてます。言われた通りに毎日ちゃんと体操もして、朝の目覚めも良いし、もしかすると事故前よりも体調が良いかもしれません」
お風呂あがりに体操したりしていたのが要因になっているかは分からないけど、朝には強くなった気がする
「そうかそうか。確かにこれで確認する限りだと体に異常は無さそうだな」
東郷さんがウィンドウを僕に見えるように反転させると、人のシルエットに「検査結果 異常なし」と出ていた。あのカプセル状になったベッドはCTとかレントゲンみたいな機能でも付いているんだろうか?
「よし、そうそう。何か手術をしてから変わった事とかは無いか?ある程度時間が経ったから何かしら変化が出てきたとか……」
僕に向かってくる物がスローに見える現象に関しては多分事故由来の物だし、首の手術とは関係無いかもしれないけど……一応言っておいた方が良いのかな?
「えっと……手術とは多分無関係だと思うんですけど、事故に遭った時の自分に突っ込んできた車がスローに見えたんですけど、その感覚が今も残っていると言うべきか、僕に向かってくる物はスローに見えるようになったんですよね。でもそれは別に僕の体に悪い事はしてないし、むしろ色々助かっている状態なんで、言うべきかどうか迷ったんですけど」
「……ちょっと試しても良いか?」
スロー化の事を言ったら興味深いみたいな感じで東郷さんが喰い付いてきた。試すって何をどう試すんだろう?
「それ付けて、今から球が飛んで来るからキャッチするまでに球になんて書いてあったのか読めたら読んでみてくれ」
「分かりました」
ミットが左手に現れた。これでキャッチしろという訳だな?数字でも書いてるのかな?
「発射!」
「ナイスボー!じゃないや。書いてた文字は……」
何となく野球のキャッチャーぽい感じで球をキャッチした。右バッターが立っていたら内角低めと言った所か……なんて思っている場合では無い
「『お前、読めるのか?』って書いてましたね」
「ほう……」
書かれた文字が何だったのかを自分の答えを言って、ミットの中のボールを確認する。確かにボールには「お前、読めるのか?」と書いてあった
「タキサイキア?いや、これはゾーンか……?」
「あの、これって異常なんですかね?何か薬とか手術とかしないといけなかったりするんですか」
ある意味便利で助かる場面もあるから治療する必要が無いのであればそのままで居たい
「いや、別に体に悪い訳じゃないからそのままが良いのなら何もしなくても良いだろう。他には何かあるか?」
「いえ、特には……」
一瞬神妙な面持ちになった東郷さんを見て、緊張したけど体に悪い訳じゃないらしいからホッとした
「なら問題は無しだな。よし、それじゃあ本題に入るか」
「本題?」
これで検査は終わりで別の話なのか、それとも次に何か新しい検査が始まるのか……どっちだ?
「次のイベントの話なんだけどよ?」
「イベントの話ですか。何でしょう」
「何か軽い要望があったら聞くぞ?」
軽い要望……そうだ
「それじゃあ作った食べ物を持ち込みたいと思ってたんですけど……」
やりたい事を説明し、可能かどうか判断を待つ
「良いぜ、それなら持ち込みはオッケーにしよう」
「ありがとうございます!」
よし、料理が持ち込めるかどうかは結構大事な事だったから許可を貰えたのはデカいぞ!