お見送り失敗
「どうですかね?」
とりあえず黒いボロボロなマントを装備してみる
「今はまだボロボロだが、ハチ君ならそのマントを綺麗なマントにする事もできるだろう。その状態でも似合っているけどね?」
ボロマントでも似合っているのは普通に褒めてくれたと受け取って良いのかな?
「おーいおーい!リリ、ハチくーん。あっ居た!終わったよー」
リリウムさんの寝室にモルガ師匠がやって来た。どうやら勝手に発動してしまう魅了を何とかしたみたいだ
「ありがとうございます。これで2人も街を歩けるようになるでしょう」
「「リリウム姉さま」」
モルガ師匠の後ろから2人が入ってきたけど……何か少し大きくなってない?
「2人とも立派になったね?」
「「えへへ……」」
やっぱり護衛した時に比べると一回り成長している様に見えるし、魅了を何とかする時に何かあったとしか思えない。リリウムさんがエリシアちゃんとフォビオ君の頭を撫でている所を離れて見ているけど、吸血鬼ってそんな急に成長したりするのか……
「ハチ君ハチ君、この私の手によってこの2人は成長したのだよ!はっはっは!」
「仕方ないですね。おやつ抜き師匠は今日で卒業と言う事で」
「「ん?」」
どうやら僕とモルガ師匠が会話にリリウムさんに撫でられていた2人が何か不思議だと思っているようだ
「「おやつ抜き師匠?」」
「な、な、何でもない!何でもないよ~?ねぇハチ君?」
それはもう何かあると言っている様な物である
「この御方はわたくしがお菓子や料理を作っていたらやってきて勝手に食べていく御方です。余りにも目に余ったので、今回の護衛の件が終わるまでおやつを抜きにしていました。やるべき事をやったのでおやつ抜きの刑は解除しようかと」
「ちょちょ!?」
モルガ師匠が喋らないなら僕が喋ろう
「「イメージが……」」
「あと、これで護衛も終了ですので。口調は元に戻させていただきます。それじゃあ僕帰りますねー」
別にロールをするのが辛い訳では無いけど、モルガ師匠とリリウムさんの前でこの調子で話すのはちょっと嫌だったので、口調を戻す事にした
「「「「えぇ!?」」」」
なんで4人とも驚いているんですかね?
「もう帰るのかい!?」
「ちょいちょい!私の威厳の回復は!?」
「何がどうなって……」
「あの喋り方、気にはなっていましたが……」
色んな理由で驚いていた4人。とりあえずクエストも終わったし、帰りたいんですけど……
「とりあえず2人ともお姉さんと会えて良かったね。僕はこれからやらなきゃいけない事があるからここで……」
「「まぁまぁ」」
モルガ師匠とリリウムさんに肩を掴まれた。だけど、今ならそれも問題無いんだよなぁ
「じゃ」
「「ぬえぇ!?」」
影の中に沈み、逃走する……
「あっ」
つもりだったんだけど、今僕が潜んだ影はモルガ師匠とリリウムさんの2人の影。部屋の中に他に移動出来る影が無かった
「そもそも、僕は女性の寝室に居るのはあまり落ち着かないんで」
逃走に失敗したが、悟られる訳にはいかない。すぐに影から飛び出して単純に捕まるのを回避する為に一度影の中に入った事にしよう
「とりあえずマントありがとうございました!さようなら!」
今回は扉を閉められる事は無かったので逃げるように寝室から出る
「申し訳ありませんが、今回はすんなり帰られる訳にはいかないのです」
「げぇ!門番さん!」
まさかのリリウムさんの寝室を飛び出したら出口の方にメイド服を着た門番さんが箒を持って立っていた。いつも僕が壁を登って門番さんの目を盗んで城を脱出していたので、門番さんにしてみれば門番としてのプライドが許さなかったのかもしれない
「今回こそはキチンとお見送りさせていただきます」
お見送りと言いながら完全に戦闘態勢なんですがそれは……後ろから追いかけてくる人達も居るし、ここは申し訳ないけど強行突破だ
「おっと!」
「!?」
箒を縦振りで僕に振り下ろしてきた門番さん。その箒を白羽取りして、そのまま地面に倒れるように影の中に入る。そのまま門番さんの影を通過して背後から飛び出る。これを失敗していたら門番さんのスカート中に飛び出て殺されてもおかしくない状態だったのでちゃんと抜けられて一安心……
「今日はもう帰りまーす!お見送りは結構です!」
そのまま走って城から飛び出る。これまた懸賞金とか掛けられないよね?
「さぁ、帰って料理の研究しないと!」
ここで足止めされても困る。イベントまでの時間で出来る事をやらなければならないからね
「今日もお見送り出来ませんでした」
「やはりダメだったか……」
「うんうん、逃げ足は本当に早いねぇ?」
「あれが本来のハチ?」
「何か、凄いの一言ですね……」
城に残された面々はハチを捕まえられずに唸っていたが、とても簡単な解決法をモルガ師匠が思いつく
「そうだそうだ!皆でハチ君の空島行っちゃう?」
「「空島!?」」
「あぁ、彼はあぁ見えても空に浮かぶ島と城を持っていて、多数の魔物と共存しているんだぞ?」
「「えええええ!?」」
ハチが人間と吸血鬼の共存よりも更に上を行くような事をしている存在であるとここで知る事になったエリシアちゃんとフォビオ君であった