久々の登校
「あの……」
「はい、一応は完治したので問題ありません」
「出来る限り慎重にお願いします!また事故にでも遭えば私は後を追って死にます」
現在、僕の通っている高校で担任の星野先生と3人で会話している。星野先生は女性で若干自信無さげだけどやる時はやってくれるのでクラスの皆に好かれていると思う
僕としてはもう過去の事なんだけど母さんにとっては今、現在進行形での問題みたいで……とにかく後追いで自殺する宣言とかを先生の前でしないで欲しい
「石動君は大丈夫って言っていますが……」
「とにかく、事故が起こらない様にお願いします!」
「は、はいぃ……」
担任の先生が母さんにオドオドしているけどただの親バカだからスルーして欲しい
「あの、母さんの事は気にしないでください……僕はもう大丈夫なんで。いつも通りの扱いで構いませんから」
「そんな事母さんが許さな……」
「特別扱いは僕が嫌なの、分かって」
教室の隅で一人で居る時間が好きなんだ。読書したりネット記事を読んだり……その時間を取られる様な事は出来るだけ避けたい
「……分かったわよ。普通の扱いをお願いしますね?」
「はい、そう言ってもらえると助かります……」
何とか話が纏まった。友達が居ない人間が特別扱いされるとか地獄めいた展開が待ってそうで何としても避けたかった。父さんが僕にポジティブ思考で居る様にするのは僕に友達を増やす為とかなんだろうけど……そっちはまだポジティブ思考にはなれなかった
「石動君、確認だけど本当にもう大丈夫なの?」
そりゃ事故に遭って1ヵ月で戻ってきたら心配にもなるよねぇ
「はい、色々頑張ってリハビリしたお陰で何とか。だから特に何も伝えなくても大丈夫です」
教室の窓際一番後ろの奴が居なくても気が付く人はそうそう居ないだろう
「勉強の方はどうですか?」
「もらった課題は全て終わらせました。夏休み前のテストでもどんとこいです」
課題の量は中々の物だったけど手が動かせるようになってからは学校からタブレットが来て、授業内容を確認させてもらえたので勉強が遅れるという事は無かった。因みにこのアイデアを提案したのは星野先生だとか……
「それなら大丈夫そうですね。とにかく気を付けてこれからも学校で生活してくれると……」
「はい、気をつけます」
うーん、何か納得出来ないけど一応返事はしておこう。気を付けて生活しろって言われてもあの時は咄嗟だったしなぁ……
「じゃあ、教室に行きましょうか」
「はい、母さんはもう心配しなくていいから。ね?」
このままだと教室までついてきそうなのでここでお別れだ
「……分かったわ。先生、何かあったら連絡を入れてください。これ名刺です」
「はい……えっ!?ラ・ベールってあのラ・ベールですか!?」
「貴女の思ってるので合っているわ」
「絶対に無事に生活させます!」
「ええ、頼みます。これはほんの気持ちですが……」
母さんが先生に小瓶を渡す。人の目の前で裏取引するのやめてくれません?
「これ、新作ですか!?」
「ええ、貴女にあげるわ」
母さんはフランスに本社がある化粧品会社に勤めている。しかもかなり上の方らしく、いつも海外で働いているのだ。父さんも一緒の会社で働いて新商品の開発に勤しんでいるらしい。僕は日本で一人暮らしになっているけど自立する為の練習、と父さんが日本での一人暮らしに賛成してくれた
「ありがとうございます!……石動君?この事はご内密に」
「分かってます。というかそういうのは人の目が無い所でやって下さい」
「じゃあ、影人、頑張ってね?」
先生への堂々とした裏工作のお陰か復帰しても特に紹介もせずに自然に窓際最後列の自分の席に座る事が出来た
特に友達も居ないので話しかけてくる人も居ない……ハズだった
「あの……」
とても綺麗な人が話しかけてきた。確か……
「えーっと……織部さん?何か?」
「覚えててくれた……」
「え?」
普通クラスで一番人気の人の名前を覚えてない人は居ないと思う……若干忘れかけてたけど
彼女は織部菖蒲。黒髪ロングで美人で巨乳、おまけに性格まで良いとなれば人気にならない訳がない。こんな人に話しかけられるだけでこっちも注目されて嫌だ……
「本当にありがとう……あの時、石動君が居なかったら死んでたかもしれない」
「あの時……あ、あの人って織部さんだったのか」
背中を突き飛ばして助けた人は織部さんだったらしい。助けられて良かった
「音楽を聴いていて急に突き飛ばされたと思って振り返ったら事故現場で……血だらけだった君が学校に来なかったから私のせいで死んじゃったんじゃないかと思って、気が気じゃなくて……うぅ」
「あの、とりあえず落ち着いて、泣かないでください……」
僕が泣かせているみたいで非常に良くない
その後、病院で治療、リハビリを経て今ここに居るからもう心配しないで欲しいと説明して何とか泣き止んでもらえた。織部さんが泣き出した時の男子の目線も女子の目線も怖い事怖い事……
正直今すぐに帰りたいと思った