話し相手
「ちょっと」
「…………次は何の御用でしょうか」
部屋の中からこっちに向かってくる気配を感じ取り、おにぎりを急いで食べ切ったけど……流石に飲み込むのにちょっと時間が掛かってしまった。今度は何の用だ……
「あの、話し相手になってくれないかしら」
「あなたの事、少し気になって来たので」
休んだ方が良いって言ったのに話をしたいのか。まぁ良いけどさ。扉に鍵をかけておけば乗組員の人達が魅了されて来ても一応は抵抗出来るだろう
「分かりました。何をお話しましょうか」
「じゃあ、とりあえずここに座ってください」
個室の中にあった椅子を指差されて、座ってから気が付く。正面のベッドに座る2人と椅子に座る僕……何となく面接みたいな状態だな……
「とりあえず血を貰ってあなたが本当に人間って事は分かったわ。でも、リリウム姉さまが人間のあなた1人に私達の護衛を頼むなんてどういう関係なの?」
どういう関係か……
「信頼していただけたから任せてもらえたとしか……」
「恋人とか、そういう関係では……」
「何を期待していたのかは分かりませんが、リリウム様とは仕事上での関係がというのが一番正しい……のではないでしょうか?」
「「本当にそうなんだ……」」
だって頼まれたからやってるってだけだしなぁ……
「じゃああなたのお名前は?」
「必要でしょうか?わたくしの事は護衛で充分ですが」
「どうしても知りたいから聞いてます」
「分かりました。わたくしはハチと言います。呼び方はお好きな様に」
これも信頼関係を築くのに役に立つかな
「んー……嘘っぽくはない?」
「偽名ではなさそう……」
「お好きな様に捉えてください」
言っても信じてもらえないならもうこっちにはどうしようもない
「他に何かありますか」
「じゃあ、リリウム姉さまとどう知り合ったのかを」
それ言っちゃったら確実に性別が露見してしまう。この質問に答えないのは吉か?
「それはあまり答えたくないのですが」
「それを聞かせてもらえたらハチさんの指示通りに動きます」
「そうね。面白そうだし私もそれで良いわ。守ってくれるならあなたの指示通りに動くのも別に嫌では無いし」
「そうですか。わたくしの性別に関わるお話になってしまうのですが、お二人とも問題ありませんか?もしかすると気分を悪くする可能性がありますが、それでも良いのならお話します」
男が苦手、女が苦手ならこれから話す事は嫌悪を感じてしまってもおかしくはない。これを話してしまうと二人とも嫌悪で指示を聞いてもらえなくなる可能性があると思っていたが
「別にいいわ。人間だとは思うけど、なんか違うというか……」
「うん、ちょっと違うよね」
ちょっと違うって言われるの何か困るんですが?
「何が違うんでしょうか」
「「味」」
味なんだ……
「普通の人よりコクがあって……」
「口の中に広がる味の広がり方が良かった」
何か僕の血液がレビューされてる
「人間の血の味のハズだけど、普通の人間より美味しいし、魅了にも掛からないで襲ってきたりしないから克服の為にも貴方みたいなのが最初なのが一番良いかも」
「その仮面、外してみてくれませんか」
まぁ、相手がこう言ってるし良いか
「分かりました」
仮面を外し、素顔を見せる
「えーと、男……かしら?」
「おん…いや、男かな?」
「男でございます」
なんだろう。もっとこう「男だったの!?」みたいな反応をしてくれれば気が楽になったのにその迷ったけど多分男みたいなのちょっと傷付く
「もっとも、リリウム様と最初にお会いしたのはこの姿ではありませんがね」
そこから友人の為に女性として城に潜入してダンスパーティに出席した事を話した
「【ヴァルゴ】まぁ、このような姿で……」
「「えっ!?」」
この辺で仮面を着け直すか
「見苦しい物を見せました。今の姿でリリウム様と最初に出会いましたね」
「なるほどね。リリウム姉さまが貴方を護衛にした意味を理解したわ。確かにこれは私達2人のどちらでも問題無い人って書かれていた意味がようやく分かったわ」
「確かに魅了が効かない、性別を変えられる。護衛するのにこれほどありがたい相手は中々居ないですね」
「お二人を安全にリリウム様の城までお送りする為に、これからはわたくしの指示に従うとお約束してほしいのですが、よろしいですか」
「ええ、貴方の秘密も分かったから指示通りに動くわ」
「分かりました。頑張ります」
物分かり良くて助かる~。これ友好度稼ごうとしなかったら絶対反発されて大変だっただろうなぁ……
「では、最初の指示です」
「「はい」」
「お休みください【レスト】」
「「あっ……」」
2人に【レスト】を掛けてベッドに寝かせる。どうせ30秒で起きてしまうとしても、この2人を寝かせて外の警備に戻った方が良いだろう。多分だけど、乗組員が2人程こっちに来ている。上の階とかに居て魅了に当てられてしまったのだろうか。ビンタで目覚めさせてあげなくては
「「申し訳ねぇ!」」
「こちらこそすみません……念の為我々が乗っている間は部屋の上下にも近寄らない様にしていただけるとありがたいです」
こっちにフラフラと歩いて来ていた2人の乗組員にビンタを喰らわせて正気に戻す。どうやら2人はこの上の部屋の掃除をしていたらしい。上の部屋も危険かもしれないので、可能な限り近寄らない様にと言っておいた。客室を綺麗にしたいという仕事熱心な2人だっただけに申し訳ない
「いや、俺達も警告はされてたが、同じフロアじゃないから大丈夫だろうと軽く見ていた」
「お客様に迷惑を掛けちまうとは、情けねぇ……」
「いえいえ、そんな事ありません。お仕事お疲れさまです」
仕事熱心なおじさんを責める事など、僕には出来ない