乗船
「あの、船ってどんな船ですか?」
「海まで行くの……ちょっと疲れてきたんだけど」
「もうそろそろで見えると思います。おんぶでもしましょうか?」
「い、良いわよ!そのくらい歩けるし」
歩くのに文句が出て来たらちょっと煽ればすぐに反発して歩くスピードを上げるエリシアちゃん。んー、扱いやすい
「馬車とかそういう物を用意していたりはしないんですね」
「わたくしは別にお二人の召使いではありませんので、そこまで用意は致しません。おじい様になんと言われているのか分かりませんが、そこまでわたくしには用意する必要はないかと。それに……」
もうそろそろ船が見えるはずだ
「あの船を用意したのですが、更に馬車まで用意するのはわたくし個人での裁量を越えていますので」
「「うわぁ…凄い」」
そうか。馬車とか有ったら確かに移動は楽になったかも……まぁ旅をするなら多少の不便が有った方が良いだろう
「船って飛行船の事だったの……」
「あ、アレに乗るんですか!?」
「はい、あのまま放置すると他に人が集まってしまうので急いでいただけるでしょうか」
どうあっても目立つ飛行船。周りに人だかりが出来てもおかしくないので早く乗り込みたい。何か船首像が若干仮面を着けた僕に似ている気がしないでも無いが、見なかった事にしよう
「悪いな。これは今試験飛行の為に準備してるから一般人は乗せられねぇんだ。あぶねぇから散った散った!」
飛行船の近くまで行ってみると造船所のおじさん達が周りに集まっていた人を散らしていた。まぁ、僕達が来るまで待ってくれているからある程度人が減ったタイミングを狙って行ってみよう
「すみません、遅くなりました」
「おっ!来たか!それで……そっちの美人ちゃんが…」
ん?なんかおじさんが後ろの2人に吸い寄せられてる感じがするな。一発喝を入れて正常に戻してあげなきゃ
「正気に戻ってください」
「ってぇ!?お、俺は何を……」
おじさんの両頬を叩いたら正気に戻たようだ
「この2人を乗せるので可能な限り人を少なくして欲しいと言う事です」
「確かにこれはやべぇな……他の奴にもお客さんに迷惑を掛けないようにお互いをぶん殴って正気を保つ必要があるかもしれん……」
飛行船に乗ってる間に正気を保つ為に乗組員が殴り合いになるとか嫌だなぁ……
「個室とかありますか?」
「おっ!それならあるぜ!景色も窓から楽しめるようにもしてあるから退屈はしないハズだ」
折角なら飛ぶ時に甲板とかで景色を見てみたいけど2人を個室に隔離するのが一番安全そうだな。景色も見れるらしいし、これなら安全かも
「では個室までお願いしても?」
「おう、念の為操舵室から一番遠い個室にしておくぜ」
問題が起きないように安全に注意したらそれが一番だろう
「2人とも行きますよ」
「「は、はい」」
とりあえず2人に寄ってくる乗組員の人達は頬に正気に戻す一発をお見舞いして動きを止めて船に乗り込む
「本当にどういう人なの……」
「飛行船を準備出来る伝手を持っているって……」
「ただのリリウム様に頼まれた護衛です」
後ろでコソコソ喋ってる内容が聞こえたので一応答える。まるで意味の無い答えだけどね?
「ここが…個室だ……つっ、使ってくれ」
自分で自分をぶん殴って正気を保ってる……おじさん頑張ってるなぁ
「ありがとうございます。ではお二人とも中へどうぞ」
チラッと見たけど個室の中は普通に小さめのホテルみたいでちゃんとベッドとかも用意されててしっかり休めそうだ
「え、あなたは?」
「わたくしはもし、お二人の魅了にかかってしまった人が中に入って来れない様にドアの前で待機しておりますので御用の際は一声かけてください。向こうに着くまでの間、ゆっくりと休んでおくと良いですよ」
多分無いと思うけど、乗組員の人達が魅了されて来た場合はビンタで正気に戻してあげないといけないし、2人がここまで歩いて来たというのなら飛んでる間はベッドで休んだ方が良いだろう。今回は廊下で立つし、外が見えないけど今度この船に乗る機会があったら絶対外が見える所に乗ろう!
「分かりました…」
「そう、じゃあ休ませてもらうわ」
「では、失礼します」
一礼してから個室のドアを閉める
「ふぅ、これ維持するの結構疲れそうだな……もう少しラフ目にするべきだったか」
初動を執事系で動いてしまった分、急に態度を悪くする訳にもいかないのであの2人の前ではある程度取り繕っていなければ……正直リリウムさんを相手にしていた時と違って確実に長時間一緒に居なければならないからこの初動ミスはデカいぞ……
「とりあえず見てない内は少しだけリラックス出来るな」
肩を回したり、ラジオ体操みたいに筋を伸ばして緊張をほぐし……
「ちょっと」
「はい、なんでしょう」
【察気術】で部屋の扉を開けようとしていた存在を感じ取ったのですぐに直立姿勢に戻った。あっぶね、だらけてる所見られるところだった
「やっぱり何でもない……」
「そうですか」
扉を閉じて中に戻っていく……多分エリシアちゃん?何の用事だったんだろう
「ふぅ……やっぱり疲れ…」
「やっぱりちょっと良いかしら」
「はい、なんでしょう」
フェイントやめーや……
「やっぱりよく考えてみたら相談する程の事でもなかったわ」
「そうですか」
全く少しは気を抜かせて欲しい
「ねぇ!やっぱり良いかしら」
「ひょっとしてわたくしで遊んでいらっしゃいますか?」
完全に僕で遊んでいる気がしてならない。これは相手にも扉の向こうが見えてる前提で動いた方が良いかもしれないな……これは本格的に気が抜けないかも