怪しい護衛
「な、何者ですか!」
片方がもう片方を守るように前に出てきたけど……まだどっちか分からないな
「驚かせてしまい申し訳ございません。わたくし、リリウム様からエリシア様とフォビオ様の護衛を任された者です。こちらを確認して頂ければ」
リリウムさんの手紙を取り出し、刺激しないように跪いて一応フードの中を覗かない様に顔を伏せながら手紙を渡す
「……確かにこれはリリウム姉さまの字とサイン」
「いや、でもこれだけだと本当に護衛だった人から奪っただけかもしれないし……リリウム姉さまの事を何か1つで良いから言ってみて!」
まぁ警戒するのは分かる。最初に驚かそうとしたからね
「女性は大好き、男性はそこまで好きでは無い……は多分証明にはならないでしょうね。リリウム様は寝起きが弱くてその時は全然しっかりしていないなどいかがでしょう?」
何か証明しなければならないとするならリリウムさんの他の人には見せない面の話をすれば良いんだろう
「「この人……本物の護衛だ!」」
酷い本人確認もあったものだ。でもこれで多少は信用はしてもらえたかな
「あの、なんで仮面を着けているんですか?」
「エリシア様が男性恐怖症、フォビオ様が女性恐怖症とお聞きしたので、わたくしがどちらか分からなければ嫌悪感も軽減されるのではないかと思い、このような姿をしています。わたくしがどちらか分かりますか?」
一応悪足掻きみたいな感じで仮面で顔を隠しておいたけど、これでどうかな?
「「分かりません……」」
うん、護衛するのに一々怖がられたりしないなら大丈夫そうだな。正直そんなに効果は無いと思ってたけど、意外と何とかなる物だ
「おじいさまが私達がリリウム姉さまの所に行く前にあの街に辿り着けば迎えが来るはずって言ってましたが、あなたがその迎えという事で間違いなさそうですね」
吸血鬼のおじいさん、凄いな?リリウムさんが断らない前提で話してるよ……
「信用しろと強要は致しません。ただ、リリウム様は海の向こうでお二人を待っていらっしゃいます。そして海の向こうに行く為の足も既に用意してあるのですが、わたくしについて来ていただけますか?」
とりあえず護衛するにしてもついて来てくれないとなると2人がどう動きたいのか分からないから僕の方がついて行くしか無くなる。ここでオッケーを貰えるかどうかで今後の護衛計画も変わって来る……
「どう思う?」
「怪しいとは思うけど……」
まぁいきなり後ろから現れて脅かすような真似をして、執事服で仮面付けた奴に一緒について来て欲しいって……自分で思い返しても全く信用出来ないぞこれ
「こっちからも質問をさせて。あなたは人間?だとしたらなんで私達のどちらにも魅了されてないの?」
「わたくしは人間です。お二人のどちらにも魅了されない理由は……秘密にしておきましょうか」
秘密にしておけば気になってついて来ないかなぁ?
「「えー!」」
「護衛の為にこちらの指示に従っていただけるのでしたら、その内お教えしましょう」
気になっているのならこれはチャンス。これをエサにして僕の指示を聞いてもらえるのならかなり楽になるぞ
「分かったわ。あなたの指示に従う」
「リリウム姉さまの所まで連れて行ってください」
「了解しました。ではわたくしについて来て……おっと、忘れる所でした。こちらをどうぞ」
モルガ師匠からの小包みを2人に渡す
「「これは?」」
「リリウム様のご友人であるモルガ様がお二人にと。わたくしは中身を見ていないので確認して頂けますか?」
「えっ!モルガ様が!?」
「こ、これは!」
おぉ、モルガ師匠の名前を出したらかなり好感触だ。プレゼントという事ですぐに小包みを開ける2人は中から出てきた日除けのフード付きマントを見て目を輝かせている。少し待ってあげるか
「そろそろよろしいでしょうか?移動する為の足を待たせているので」
新しい日除けマントを着て、意匠を褒めている2人をこのまま放置したらいつまでも動かないかもしれないと思ったので、流石に声を掛ける。プレゼントを貰って嬉しいのは分かるけどね?
「わ、分かりました。行きましょう」
「はい、お願いします」
ふむふむ、何となくだがこれはエリシアちゃんがお姉ちゃんでフォビオ君が弟かな?もしかしたら気の強い妹と気弱兄の組み合わせの可能性もあるが、現状ではこの2人のパワーバランスとしてはエリシアちゃんの方が上っぽい
「ではついて来てください」
何となくだけどこれ人……盗賊系が襲ってくるクエストの香りがする。街の近辺で人を殺したら何を言われるか分かった物じゃないから可能な限り襲ってきたら無力化を心掛けるか。腕の1本や2本は覚悟してもらおう
「本当に効いてないみたいね……」
「人間なら確実に性別はあるはずだから……自称人間とか?」
この双子結構失礼だな?まぁ身分に関しては最初から僕の方が低い状態にしてるし、喋りながらでも僕の後をついて来てくれるから問題は無さそうだ
「あの街の中にはお二人の安全の為、入りません。街の東門付近に船を用意してあるのでそちらに向かいます」
「お願いするわ」
「怪しいけど……ちゃんとしてるみたいだね?」
怪しいけどちゃんと護衛のお仕事をしてるんだよ