吸血鬼のお願い
「ありがとう。君なら男にも女にもなれるから恐怖症の2人の護衛も出来るだろうし、ハチ君にはそもそも魅了が効かないだろうから君以上の適任は居ないと思っていたんだ」
「その2人は護衛を付けるって知ってるんですか?」
護衛するのは良いけど、相手が護衛してくれるって知らなかったら警戒されちゃうんじゃないかな?
「そうだな……では首を出してくれ」
「首?何するんですか?」
「ちょっとした印をつけようかと……」
「いやいやいや、それはおかしい」
リリウムさんが首筋に近寄ってきたのでなんか噛まれそうな気がしたので咄嗟に一歩引いた
「それやっちゃったら僕、吸血鬼の眷属とかになったりしません?」
吸血鬼に噛まれるって吸血鬼になったり、ゾンビとかグールみたいな存在になってしまう気がするし、日光が弱点になるとかは避けたい
「何か勘違いしていないかい?別に吸血するつもりはないよ?ただその首筋に口付けをして吸血鬼には分かる印を……」
「普通にリリウムさんの書簡か何かにしてください」
この人は私が派遣した護衛だから心配しなくても大丈夫みたいな文章を用意してくれるだけで充分だと思う
「……分かった。用意しよう」
なんで少し不服そうなんだ
「その、リリウムさんの弟さんと妹さんはお互いの魅了は大丈夫なんですか?」
男女が苦手ならお互いも苦手な存在になってしまったり、お互いに魅了しあったりするんじゃないか?
「あくまで人間の男と女が苦手なだけなのと、吸血鬼同士では魅了は効かない。あの2人も漏れ出る魅了の力をしっかり扱えるようになれば人も苦手では無くなるとは思うのだが……」
魅了を勝手に振りまいてしまうから好きでもないのに寄ってくる人が怖くなってるのならあんまり時間もかけてられないよな……
「その2人、大丈夫なんですかね?急いで行った方が良いんですか?」
「多分今はまだ街に着いてはいない。あと2日3日あればフィフティシアには着くだろうか」
「なんでそんな詳しい情報が?」
そんなに詳しい位置情報を知っているのならもう少しやりようがある気がするんだけど……
「祖父が心配で見ていてね……一応不干渉のつもりみたいだが、私からの護衛が来るまでは見守っているらしい。毎回ヘトヘトになって海の向こうから手紙を持って飛んで来る眷属のコウモリが可哀想でね……」
コウモリさん海を渡って手紙を運んでるのか?それは可哀想だな……というかリリウムさんのおじいさんはあれか?おつかいに出した子供が心配で結局隠れてついて行っちゃうようなタイプか
「じゃあ早い所書簡を書いてくださいね。僕も色々準備するんで」
「ハチ君ハチ君、この書類も受け取って」
「えーと、何々?『ハチ君はこの文書を受け取ったらモルガ大師匠におやつを作らなくてはならない』はい、じゃあリリウムさんは手早く書いてください」
「ぬわぁ!?」
モル…おやつ抜き師匠がかなり適当な文で僕におやつをねだってきたのですぐにその文章を破り捨てた
「最低でも今回の仕事が終わるまではおやつ抜きは解除しません」
「リリ、リリ!早く終わらせるんだ!」
「分かりました。すぐに用意します」
少なくても今回の護送任務が終わるまではおやつ抜きは継続だ。その後ならまぁ許しても良いかな
「ではハチ君、頼んだよ」
『リリウムの書状 を入手しました』
これを受け取ったから僕は完全に逃げられないな。とりあえず今日は実験料理じゃなくてもっと有意義な事をしなくては……明日はフィフティシアでその2人を迎えに行きますか
「はい、一応その2人の名前を教えてください。書簡を見せて2人の名前を言えば多少は信用してもらえると思うんで」
姉からの手紙を持った人が自分達の名前を言っていたらそれなりに信じてもらえるだろう
「妹の方がエリシア、弟の方がフォビオだ」
エリシアちゃんとフォビオ君。見た目は分からないけど、見つけてもらう方法として空港で待ってる人みたいにプラカードみたいな物に『歓迎!エリシアちゃん、フォビオ君!』なんてやったら流石に怒られそうだな……。街の外で待っていれば見つけられるかな?
「了解です。あっ、2人ってそれみたいな日除け装備は持ってるんですかね?」
「勿論、祖父が持たせている」
「はい!はい!ハチ君この荷物を2人持たせて!」
『おや…モルガ師匠の小包み ×2を入手しました』
モルガ師匠が何か入っている袋を2つ手渡してきた。というか名前の部分がおやつ抜き師匠に侵食されてるじゃないか……
「一応一応、予備としてね?エリちゃんとフォビ君の2人にこれを渡してあげて」
中にはきっと日除けマントみたいな物が入ってるんだろう。でもこれは小包みになってるから僕は装備出来ない物って扱いかな
「分かりました。それも持って行きましょう」
今回の護送任務で一番危ないのはフィールドでは無く、街中が危険地帯になりそうだよなぁ……魅了を抑える事は多分出来ないだろうし、準備はしっかり行うべきだろう。色々と準備をしないといけないな……ん?
「ピョー!(開けてー)」
城の窓をコツコツと叩く鷹。見覚えのあるその姿を見て窓を開ける
「メルロ君?良くここまで飛んで来たね」
「ピョー!ピョー!(遠かった!これ!)」
メルロ君が運んで来てくれた手紙を受け取る。なるほど……これは使えるな!