お忍びで来た
「ふぅ、ただいま空島」
冥界から出て、空島に戻ってきた。戻ってきたらやる事はもう決めている。この新しいアイテムを活かす料理を作ってみよう
「ハチ君ハチ君!おかえり~」
「あっ!おやつ抜き師匠じゃないですか!」
「ちょちょ!?なんでぇ!?」
リリウムさんの所に行った時それなりに足止めを喰らったし、モルガ師匠にはちょっとしたお仕置きは必要だろう
「面倒な足止めにあったので、おやつ抜きです」
「いやいや……待って下さいよハチ君……ハチさん。後生だから!」
「本当にモルガ様と仲が良いみたいだね。ハチ君?」
ローブで目立たない様にしているけど、頼りないモルガ師匠の後ろに居る誰かさんはその声で正体が分かる
「なんでここにリリウムさんが居るんですかね?」
モルガ師匠の後ろにお忍び?でリリウムさんが空島にやって来ていた
「で、おやつ抜き師匠?なんでリリウムさんを連れて来てるのか説明してくれますか」
とりあえず城まで連れてきて会話する事にした。どんな話になるか分からないから他の人に聞かれない様にしておこう
「待って待って?ちゃんと説明するからその不名誉な呼び方は勘弁して?」
「ちゃんと納得の出来る回答を貰えるまでおやつ抜き師匠です」
昔は偉かったとしても、今は隠居の身で僕が作ったお菓子や料理を食べるだけならおやつ抜き師匠で充分だ
「ふふっ、本当に愉快な人達だ」
「リリウムさんの寝起きが酷いの知ってるんですけどね……」
「そ、それは忘れてくれ!」
ここは僕のホームだぜぇ?ここではこの2人より立場は上と言っても過言じゃない。弱みは握って優位性を確保だ
「で、どうしてここに居るんですか?」
「要件があるならモルガ様を当たれと言われたからモルガ様にお願いして連れて来てもらった。このモルガ様に頂いたローブが無いとここに来る事は出来なかったんだが……」
吸血鬼だからか太陽光から守れるローブが必要って事か。そういえばサーディライってずっと夜というか巨大な天幕のお陰で太陽光が直接当たらない様になってたっけ……こういう専用装備か夜の間みたいな限定条件が無いと自由に歩き回れないんだろうな
「そうだよそうだよ。この子の為に作ってあげた私の傑作の1つだよ!ハチ君も欲しかったらさっきの不名誉な呼び名は改めてもらおうかな!」
「いや、別に要らないんでおやつ抜き師匠は継続です」
「なんでなんでぇ!?」
だって吸血鬼じゃ無いのに日光遮断の効果の装備を貰っても……ねぇ?しかもまだなんでここに来たのか理由を話して無いし
「だって僕吸血鬼じゃないんで……というか本当になんで来たのかの理由が知りたいんですけど……」
「そうだったね。ハチ君?強くなりたくないかい?」
「なにかの宗教の勧誘ですか……」
強くなりたくないか?と聞いてくる相手が人だったら信用出来ない……まぁ吸血鬼だけどさ?
「そんなに露骨に警戒しないでくれ……私の手伝いをして欲しいんだ」
「手伝いと強くなりたいの関係性は?」
「実は私には腹違いの弟と妹が海の向こうに居てね。その弟妹がこちらに来る時の護衛をして欲しいんだ」
護衛任務かぁ……確かに強くなれる可能性はあるな
「まぁ話だけは聞きましょう」
一応話だけは聞こう
「妹は男性恐怖症の吸血鬼で……」
「それの護衛を僕に頼むって人選間違ってますよ」
男性恐怖症の吸血鬼もなかなかインパクトある情報だけど、男の僕にその護送任務を頼むってどうしてなんだ……
「まぁ、待ってくれ。あの子は魅了を勝手に振りまいてしまう体質でね?男性恐怖症なのにも関わらず男性を引き寄せてしまう。そんな状況を打破出来るアイテムをこちらのモルガ様が遂に製作してくれたから取りに来てもらおうと思ってね」
「それ、アイテムを運搬して持って行った方が絶対良いですよね?」
モルガ師匠がそんなアイテムを作ったって言うのならそのアイテムを持って行けば良いのでは?
「実は実は、それはちょっと出来ないアイテムなんだよ。特殊なアイテムでね?最初にそのアイテムに触れた人が所有者になってしまうから、装備する本人がそのアイテムに最初に触れなければいけないんだよ。だから、持って行こうとしたらその持って行こうとしたその人がそのアイテムの所有者になってしまうからアイテムだけを持って行くのは不可能なんだ」
製法の問題か、アイテムを持って行けないから本人に来てもらう必要がある訳だ。でもそれなら妹さんだけ来てもらう方が良いのでは?
「それで、更に複雑なのが……弟の方も魅了を勝手に振りまいてしまう体質なんだ。それで女性恐怖症が……」
「うわぁ……」
「もちろんもちろん、弟君の分もあるよ!」
聞くだけで厄介な案件だと分かる。お互いに魅了がオート発動で魅了対象が苦手な存在……その護衛。ここまで聞いて厄介だと思わない方が無理がある
「なんで、そんな状態の弟さんと妹さんが海の向こうに?」
「祖父が向こうに居てね。私の様な者よりずっと立派な方で人との共存を最初に成功させた偉大な吸血鬼さ。その祖父の下で色々勉強とかしていたけど、そろそろ見聞を広める事も必要だろうと祖父が一番共存に成功している私の街で2人を受け入れてくれないかと手紙がね」
「はぇ~」
偉大なるおじいちゃんによる孫教育の一端かな?
「受け入れ準備は出来ているし、魅了を抑えるアイテムもある。だが、私が街をそんなに空けても居られないので一番どうにか出来そうなハチ君の下にこうして来たんだ。どうだろう?何とか出来ないだろうか?」
『特殊クエスト おでかけ吸血鬼達の護衛 を開始しますか?』
「良いよ。その依頼受けた」
弟や妹の為に動いているだけなら別に良いか。手伝ってあげよう