突発的調理
「……」
「「「「「……」」」」」
うーん、先客が居るとは思ってなかった。向こうも向こうで何か食べている最中だし……カウンターの中には普通にコックっぽい人も居る。ホフマンさんは流石に今はここに居ないのか
「あっ!いらっしゃいませ!店長から既に話は聞いてます。中にどうぞ」
「あ、あぁ」
カウンターに居たコックっぽい人が、思い出したかのように僕に接客というか厨房への扉を開けてくれた
「あの人……どういう人なんです?」
「あの人は店長のお得意さんで……」
僕が厨房に入る時に後ろから会話が聞こえるけど、食材を貰わないとどうしようもない。パンケーキを作る為にもここで色々貰わないとね?
「えーと、これとこれとこれと……あとこれもだな」
色々食材をインベントリに入れて必要分を貰っていく。必要以上に貰っていくのは流石にためらってしまうけど……なんかここの備蓄量増えてるなぁ?何かあっても炊き出しとか普通に出来そうだ
「よし、このくらいかな。帰る……前にどうしよう」
必要分を貰えたので店を出ようと思ったけど、そういえばご飯食べてた人達凄い見た目だった気がするんだよな……せっかくだしもう一度だけ見てみようかな?
「ありがとう、店主にも礼を言っておいてくれ」
「あ、ありがとうございましたぁ!」
コックに挨拶だけして帰る前にカウンターに座っている5人を見てみる。大きな箱を背負った人、全身フルプレート装備だけど僕より背の小さい人、ヘルメットとか銃など見るからに兵隊っぽい人、そして戦隊モノに出てきそうないかにもレッドと言わんばかりの恰好の人にサメ……の着ぐるみ?なんか奥へとドンドンキャラが濃くなってくるメンツだな
「そこの軍人さん!ちょっとお話していかない?」
「ん?もしかして俺か?」
僕以外に軍人さんなんて呼べそうなのはそこでカレー食べてる兵隊さんくらいしか居ない
「そうそう!お話しようよ!」
「ちょ!?」
コックさん凄い顔してるけど、サメの着ぐるみの人が結構気さくに話しかけてきてくれたのはちょっと嬉しい
「別に構わない。ここ、座っても良いか」
「どーぞどーぞ」
サメの隣の席に座る。これ絵面が強烈過ぎないか?
「何か食べますか?」
「……」
それは困るんだよな……ここはあくまでもお店だから何か食べたい物とか注文したら確実にお金が掛かる。食材を貰うのはホフマンさんとのやり取りの結果で持って行っても良いという事になっているだけでこのコックさんの料理を食べるとなったらこの人が作る料理に対して対価を払うべきだ。でもその払うべき対価を持ってないから注文する事は出来ない。かといってこの見ず知らずのサメとか戦隊レッドとかに「奢ってくれない?」なんて言える訳が無い
「何が作れる」
「米料理や麺料理、あと定食くらいなら作れます。申し訳ありません、新米なもので……」
「そうか……甘味か菓子は無理か?」
「申し訳ありません……私にはまだ菓子を作るスキルが無いのでお出しする事は……」
このコックの人、現実では料理しないのかな?スキルなんて無くてもお菓子とかは作れそうな気がするけど……でもこれは都合が良いかもしれない
「すまないが厨房を借りても良いか?店長との約束でここの設備は使っても良いと言われていたんだが……」
「ど、どうぞ……」
席に着いたけどすぐにまた厨房に戻る事になった。とりあえずどうせ作る事になるし、練習がてらパンケーキで良いか
「悪いがちょっと待っていてくれ。話すのはその後だ」
「お料理するんすねぇ!」
「自炊するなんて熱いぜ!」
あぁ……このレッドさんは典型的熱血タイプか。今まで静かだと思ってたら皿の上は綺麗に無くなっていた。ご飯を食べている間はちゃんと静かに食べるのね……自炊する事の何が熱いのかさっぱり分からないけど
「よし、こんなものか」
良い感じに出来上がったパンケーキを持ってカウンターに戻る。これならちゃんとして道具を用意すればクレープ生地も作れそうだな?
「いただきます……なんだ?」
自分用に用意したパンケーキに視線を感じる。こっちはただでさえ予定になかった軍曹ムーブと急な料理で若干テンパってるし、早く空島に戻りたいんだが……
「いやぁ、美味そうだなぁって」
「「「「うんうん」」」」
「……はっ!すみません!」
カウンターから集まる視線とカウンターの向こうから来る視線。コックさんは別に謝らなくても良いんだけどな?
「欲しいのか」
「「「「「うんうん!」」」」」
ずっと見られて食べるのも嫌だしなぁ……
「はぁ……また厨房を借りるぞ」
「ど、どうぞっ!」
さっさと人数分作ってしまおう。ずっと隣から見られながら食べるとか絶対に嫌だ
「ほら、好きに食べろ」
各々食べたい食べ方とかあるだろうし、何かかけたりしたいならかけて食べると良い。カウンターの5人にパンケーキを出した後にカウンターの内側にもパンケーキを1つ置いて行く
「あの……これは?」
「貰った食材で勝手に作っただけだ。食べたければ勝手に食べると良い」
コックさんの分も勝手に作ってみた。だって食べたそうにしてたしねぇ?
「あ、ありがとうございます!」
とりあえずこれで少しだけゆったり出来るな……