本を読みに
「では、また明日」
「明日はちょっと難しいかも、2、3日後に行きますよ」
「2、3日後……そういえば旅人は時間感覚が特殊なんでしたね。分かりました【チェイスバタフライ】」
ルクレシアさんに挨拶を済ませて図書館から出る。そうすると光る蝶に似た形の何かが僕の上を飛んでいる。この感じ……街で僕を追跡した時の奴だな?隠す気も無い追跡魔法だ。僕が潜伏するところを確認する気だな?
「僕が何処に居るか探る気ですか?」
「この前貰った物もそうですが、放置してたら何をしでかすか分からないので、せめて場所だけでも分かっていなければいけないかと……どうせ寮に住んでいないんですよね?」
「はい」
自分でやってる事だから仕方のないのは分かるけどさ?中々に酷い事言われている様な気がする
「本来ならハチさんは寮に縛り付けるくらいしても良いかもしれませんが、そんな事をしたところで絶対ハチさんなら抜け出すでしょう。だったら邪魔はしません。せめてハチさんが今居る場所だけでも把握させてください」
「まぁそれなら良いかな。これ以上何かしたらルクレシアさんにとって僕は迷惑にしかならないだろうし」
正直もう追跡を振り切る必要も無いし、ルクレシアさんに面倒は嫌いだと説明してるから起きたら目の前にその例の校長が居るって事もないだろう
「ハチさんがマジナリア魔法学園に変革をもたらしてくれたお陰で今まで日の目を見なかった子達が頭角を現してきたんですが……本当に良いんですか?」
「良いよ別に、本当に変革させたのはルクレシアさんでしょ?僕は実際何もしてないから褒められるのがお門違いだと思うんだよ。かなりぶっちゃけた事を言っちゃうと僕は自分の意思でこの学園に来たいと決めた訳じゃないから……」
そもそも僕はニャラ様に飛ばされてきただけだから僕の意思でこの学園に入ろうと決めた訳じゃない
「学園に自分の意思で来た訳じゃないんですね……そういえば最初に来た時には禁書の書き直しで来たと言ってましたね」
「そうそう、なんかこっちに戻ってこれたからルクレシアさんに会いに来たような物だからね」
ルクレシアさんに頼まなければ星座の本とか探すのも難しいだろうし、そもそも大きな図書館らしき物もここ以外知らないし
「そ、そんな事言っても騙されませんよ!もう!」
「騙されるって……まぁいいや。おやすみ、ルクレシアさん」
「おやすみなさい」
なんか人聞き悪いなぁ?とりあえず今日はもう寝よう。現実の方の数学の先生がもうそろそろ抜き打ちテストでもしようかとか言っていたので一応今の範囲を復習しておかないとミスで居残りになってしまうかもしれない。ゲームを楽しむ為にも現実もしっかり頑張らないと
「いやぁ復習しておいて良かったぁ」
早めにアルターを切り上げて復習しておいたお陰でまさかの翌日に行われた抜き打ちテストも特に問題無くクリア出来た。いやぁ、何とかなって良かった……学業が疎かになったら間違いなくアルターにも影響出るだろうし、何事もバランスが大事だな
「さて、星座の本を見に行こうか。面白い話とかもあるだろうし」
一応星の配列を知るのが一番の目的だけど、神話とかと関係もあるみたいだし何か面白い話があるかもしれない。見に行かなくては
「おはよう世界!」
目が覚めると太陽は真上。お昼頃だろうか?大木の上で蜘蛛の巣ベットで寝ていたので蜘蛛の巣を消去して図書館に向かう。ルクレシアさんが用意してくれているだろう本を探しに行こう
「さてと……ん?ちょっと混んでるかな?」
図書館に近付くと窓から中に何人か居るのが見える。女の子が多いからこの前のルクレシアさんの取り巻きみたいな人達かな?とりあえずそっと入ってみるか
「お邪魔しまーす……」
寝起きドッキリをする人の様に小声で図書館に入る
「ルクレシアさん!向こうの本棚の整理終わりました!」
「こっちも終わりました!」
「オススメ本の選定終わりました!」
ほぉー、ルクレシアさんに前に会った時は図書委員が一人みたいな感じだったけど、今は仲間にも恵まれているみたいだ。そうだ
「【ヴァルゴ】」
装備をマジナリア魔法学園の制服に変えて姿を女性に変える。ついでにスキンリキッドで顔のタトゥーを隠す。これで今度は声もしっかり工夫すれば周りの人にはバレずに、ルクレシアさんには分かってもらえるかな?
「すみません、本を借りたいんですが……」
「どんな本……をお求めでしょうか?」
僕が他の人に見えないように指先から深淵をほんの少しだけ出して蝶の形にしてみせる。それでルクレシアさんには伝わっただろう
「星に関する本です」
「それならこちらが星座の本です」
おぉー、ちゃんと伝わってる。このやり方は中々良いかも。周りの女子生徒も特に警戒してないみたいだし、窓際の席で読ませてもらおう
「あんな綺麗な子学園に居たっけ?」
「いやぁ、見覚え無いけど……」
「ちょっと話しかけてみようかな?」
「お手伝いをしてくれるのはありがたいですが、読書をしている人の邪魔をするのは良くないですよ?」
ルクレシアさんのナイスカバーによってゆったり読書をする事が出来た。チラッとルクレシアさんの方を見てみたら何か紙に書きながら僕が渡したペーパーウェイトを見せるように使用していた